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#209 「浸透」 2024-12-26 (Thu)

歓喜の時

 何も起こらないことで不安になって、気を紛らわすためにテレビを点けたLittle Mustapha達でしたが、ここでLittle Mustaphaが思わずテレビを消してしまいました。しかし、そのことに関して文句を言う人は誰もいませんでした。


Little Mustapha-----この番組って、こんなんだったっけ?

ミドル・ムスタファ-----もっと、こう、なんていうかギトギトした感じの食べ物ばかり出てきたと思うんですが。

Little Mustapha-----普通に美味しそうなものを食べていたよね。

ニヒル・ムスタファ-----それだけじゃないくて、昔はあの食いしん坊女子アナが何十分も吐き続けるっていうこともあったんだぜ。

Dr. ムスタファ-----これじゃあ女子アナの乱闘騒ぎも起きそうにないな。

Little Mustapha-----もしかしてスポンサーが替わって内容も普通になったってことかな。

マイクロ・ムスタファ-----いや、それはないのではないでしょうか。私も最初はそう考えましたが、あの腹屁端というアナウンサーの様子をみていると、戸惑いを隠せないような感じでしたよ。スポンサーの意向で内容が変わったのなら予め知らされているはずですから、そんなそぶりを見せるのはおかしいのです。

ニヒル・ムスタファ-----つまり、どういうことなんだ?

マイクロ・ムスタファ-----それは、解りません。

Little Mustapha-----ここだけでなくて、クリスマスマーケットの会場とかいろんな所で全てのことが上手くいってるってことだよ。静かで平和で楽しいクリスマス。それが本来のクリスマスのあり方なんだし、このままいけばボクらだってサンタからプレゼントを貰える。そういうことだよね。


 まるで自分に言い聞かせるようにしてLittle Mustaphaが言いましたが、そんなことを聞いてもなぜか明るい気分になれません。

 これでは何をしても不安になってしまうということで、それからしばらくはテレビを点けずに酒を飲んで気を落ち着けるより他はありませんでした。


 それから30分も経ったでしょうか。Little Mustapha達は盛り上がろうとしても盛り上がれずに飲み続けていましたが、ジャーキーを食べて満足して寝ていた犬サンタ君がムクッと起き上がりました。


犬サンタ-----みなさん、静かにするんだワン!

Little Mustapha-----静かに、っていっても。今日はそんなにうるさくならないけどね。

犬サンタ-----そうじゃなくて、喋っちゃいけないんだワン。この音が聞こえるかワン?


 犬サンタ君に言われて一同耳を澄ましました。すると遠くの方から幽かに鈴の音が聞こえてくるのが解りました。少しずつですが、その音は着実に大きくなって彼らの元へと近づいてくるようにも思えました。


Little Mustapha-----こ、これはジングルベル!


 まるで雲の隙間から太陽が顔をのぞかせて、薄暗かった大地がパッと明るくなるような、そんな雰囲気がブラックホール・スタジオ(Little Mustaphaの部屋)に広がりました。

 ここにいる誰もがこれからここで起こるであろうことに胸をときめかせています。(厳密にいうと、マイクロ・ムスタファだけは、「ジングルベル」というのはあの鈴の名称ではないと、ちょっと思ったりもしていましたが。)

 鈴の音は次第に大きくなり、もう黙って耳を澄ませていなくても聞こえるようになっています。そして、どこからともなく少年合唱団的な歌声も聞こえてきました。


少年たちの歌-----真っ赤なお鼻の♪トナカイさんは♪…♪


Dr. ムスタファ-----この歌は!…なんてクリスマスっぽいんだ!

ニヒル・ムスタファ-----これはまさにプレゼントが近づいてきている雰囲気だな!


少年たちの歌-----サンタのおじさんは♪言いました♪

サンタのおじさん-----クラァイヨミチィワァ♪ピッカァピッカァノォ♪ウォマエノハナガ♪ィヤックニタツノサァ♪


Little Mustapha-----しかも英語訛りのサンタパート!


 さらに歌声は大きくなってきました。そして気のせいなのか現実なのか、部屋の中がクリスマスのイルミネーションでピカピカしているようにも思えてきます。


Little Mustapha-----こ、これがクリスマス…!

ミドル・ムスタファ-----プレゼントが貰えるということは、こういうことなんですね!

Dr. ムスタファ-----これは、夢じゃないよな。

ニヒル・ムスタファ-----夢じゃないぜ。


 そんなことを言っているといつしか彼らの前にサンタの姿がありました。あまりにも興奮して気付いていなかったかも知れませんが、サンタはベランダのところの窓から入って来たような感じもあります。しかし、ここで細かいことはどうでも良いのです。

 ここまで変な事件は全く起こらずに、ついにサンタがここへやって来たのです!


サンタ-----メリー・クリスマース!

一同-----メリー・クリスマース!

サンタ-----一年間良い子にしていたキミ達にサンタからプレゼントだよ!はい、これはキミに!

Little Mustapha-----ありがとうサンタさん!

サンタ-----これはキミ。

Dr. ムスタファ-----ありがとう。

サンタ-----これはキミ。

ミドル・ムスタファ-----ありがとうございます。

サンタ-----これはキミに。

ニヒル・ムスタファ-----ありがとうサンタさん。

サンタ-----これはキミに。

マイクロ・ムスタファ-----ありがとう。

サンタ-----そこのワンちゃんにもプレゼントだ。

犬サンタ-----ホントかワン?なんだかもうかっちゃったんだワン!ありがとうだワン!


 みんながプレゼントを貰うとLittle Mustapha達は少しだけ冷静になってきました。サンタが「ホーッホッホッホ…!」と例の笑い後で笑ってから部屋を出ていこうとする前にLittle Mustaphaが聞きました。


Little Mustapha-----そういえば、サンタ君は今日は来ないんですか?

サンタ-----…?


 サンタは一瞬けげんな表情を浮かべてから何も言わずにドアを開けて出て行きました。


Little Mustapha-----なんで無言で出て行くんだ?

ニヒル・ムスタファ-----なんか最後は仕事だからやってる感が出てなかったか?

ミドル・ムスタファ-----そんな気もしますね。

Dr. ムスタファ-----歌は外国人っぽかったけど、喋ると普通に日本語だったしなあ。

Little Mustapha-----でもプレゼントは貰えたんだし。多分サンタ君とかも忙しいから、さっきのサンタはタイミーみたいなので呼んだ臨時のサンタじゃない。

マイクロ・ムスタファ-----そうだと良いですが。でも機会があればサンタ君にもお礼を言いたいですね。これまでだいぶ苦労をかけてしまいましたよ。

Little Mustapha-----そうだよね。できればサンタ君から貰いたかったけど。

犬サンタ-----そんなことより、早くプレゼントを開けるんだワン!自分のじゃなくてもプレゼントは大好きなんだワン!

Little Mustapha-----そうだよね。長年の夢がかなったこの瞬間。別に泣いたって恥ずかしいことじゃないからね。これまでの苦労を思いつつ、各自でプレゼントを開ける時間を存分に味わおうではありませんか!


 Little Mustaphaが目に涙を浮かべながらいうと、他のメンバー達も思わずうれし涙を流しそうになりながらプレゼントを開け始めました。

 しかしすぐに彼らから笑顔が消えていきます。いったい何が起きたのでしょうか?


Little Mustapha-----あれ?これって誰かのプレゼントと間違ってる?

ニヒル・ムスタファ-----そうじゃないだろ。オレのもなんか違うんだが。

ミドル・ムスタファ-----ボクもですよ。

Dr. ムスタファ-----私も。

マイクロ・ムスタファ-----私もです。

犬サンタ-----私はまだ開けてないけど、リクエストしてないから何を貰ってもうれしいんだワン!

Little Mustapha-----そういう気楽なのはうらやましいなあ。でも、これはなんだか大問題じゃないか?

マイクロ・ムスタファ-----とにかく、みんなのプレゼントが何だったのか確認してみましょう。


 どうやらプレゼントは貰えたものの、中身がリクエストとは違っていたようです。いつものように冷静なマイクロ・ムスタファが提案するとLittle Mustapha達はそれぞれのプレゼントを見せあいました。

 Little Mustaphaが貰ったのは1/60スケールの大きなガンプラ。ミドル・ムスタファは大谷選手モデルのバット。ニヒル・ムスタファはプレイステーション。Dr. ムスタファはレゴ。マイクロ・ムスタファには万年筆でした。ついでに書くと犬サンタ君が貰ったのは犬用の音のする玩具でしたが、それはあまり嬉しくなかったようで、犬サンタ君もLittle Mustapha達と同様に浮かない表情になっています。