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#209 「浸透」 2024-12-26 (Thu)

腹話術

 ブラックホール・スタジオ(Little Mustaphaの部屋)では呪いの人形のような人形が出てきてしまったりして謎が深まっているはずなのですが、ここでこらえ切れずにLittle Mustaphaがテレビに反応してしまいました。


Little Mustapha-----それって少林木人拳じゃん!

ミドル・ムスタファ-----なんですかいきなり。

Little Mustapha-----だって、そのうち「実は元ネタがあるんですよ」とか言うと思ったら、自分で考えたオリジナルみたいな感じで話してるしさ。こういうのは問題だよ。

ニヒル・ムスタファ-----それよりも、色々と考えてると見せかけて意識がテレビの方に行ってたキミにも問題があるぜ。

Little Mustapha-----そうだっけ?というか何を話してたっけ?

Dr. ムスタファ-----特に何を話してたってワケではなかったがな。でもあの人はセリフが覚えられないからドラマには出ないとか言ってたのにな。

ニヒル・ムスタファ-----先生もテレビ見てたのかよ。

ミドル・ムスタファ-----でもみんな一応次のプレゼントの事とか、その人形の事とかを考えてましたよ。

Little Mustapha-----人形かあ。そういえばリホっちも気の毒だよね。さっきからスーパー・キショー君とか触りさえしなくなってるから、机の上で倒れてそのままだよ。

Dr. ムスタファ-----まるで魂が抜けたようなことになってるな。心ここにあらずだな。

ニヒル・ムスタファ-----言葉はあってるんだが、残念ながら使う場所が違ってるんだなあ。

Dr. ムスタファ-----何がだ?

Little Mustapha-----でもリホっちぐらいの腹話術なら誰でも出来るというか。逆にあんなに下手なのも珍しいというかね。

犬サンタ-----人のことをバカにしちゃダメなんだワン!

Little Mustapha-----別にバカにはしてないけど。じゃあ、試しにやってみるけどね。といっても人形はこの呪いの人形しかないな。…それじゃあ。おい呪い人形君。キミはどうしてここにいるんだい?

呪い人形-----「みなさん気をつけてください!これまでの出来事は全て作られたものなのです!」

Little Mustapha-----うわぁ、人形が勝手に喋った!


 一瞬Little Mustaphaに腹話術の才能があるのかと思ってしまったメンバーもいたことはいましたが、Little Mustaphaが驚いて人形を放り投げると一同その人形を凝視していました。

 すると次の瞬間部屋の片隅にある小さなスピーカーから声が聞こえてきたと思ったら、留守番電話機のメッセージが残されていることを示すランプが点滅し始めてアッと思ったら、その次には耳をつんざくような轟音が部屋にこだましました。

 しかし、それぞれが同時に起こったのでそれぞれの現象がお互いに気を使ったのか一度あたりは静かになりました。すると部屋の隅にあるRaspberry Pi Zeroにつながっている小さなスピーカーから再び声がしました。


スピーカー-----ここは一番声の大きな人からということでどうでしょうか。


 声の大きい人の方が得をするということなのかは解りませんが、そう言われると耳をつんざくような轟音が話し始めました。その轟音の主とは地獄の占い師であり、今では地獄のクラウドで永遠に生き続けているカズコだと思われます。


カズコ-----それじゃあ遠慮なく喋らせてもらうけどね。ちょっと、あんた達なんなのよ。

Little Mustapha-----なんなのよ、って。その前にあなたカズコですよね?

カズコ-----そうよ。最初に言ったじゃないのよ。

Little Mustapha-----一度に色々起きて誰がなんて言ってたのか解らなかったし。

カズコ-----そんなことはどうでも良いのよ。だから何なのか?ってことよ。せっかく今日はあんた達に良い話をしてやろうと思ったのにさ。そっちに何を言っても聞こえてないみたいだし、しかも私の存在まで消されたような感じになってたのよ。

ミドル・ムスタファ-----まあ、なるべく考えないようにはしてましたけど。そんなことで存在が消えることはないですからね。

カズコ-----そうなのよ。あんた達がどうしようと私は好きなように出来るはずなのよ。だからあんた達がまた余計なことをして他人に迷惑をかけるようなことをしてるんじゃないかと思ってさ。だからこれから懲らしめてやろうと思ってね。

Little Mustapha-----ちょっと待ってよ。勝手な想像をもとにして人を懲らしめるとか、そっちの方がイイ迷惑なんだし。いったい何がどうなってるんだ?

小さなスピーカー-----それなら私が答えてあげましょう。やはり私が最初に喋った方が良かったですね。

Little Mustapha-----その声は、アンドロイドのコマリタ・ナラ・ズイルベー。OSもソフトもアップデートしてるのにまた勝手にログインされたし。

コマリタ-----どうやら開発者達は別次元からの不正アクセスに対策をしていないようです。ですのでログインされたくないのならあなたが対策をするしかないのです。オープンソースなのでそこは簡単なはずです。

Little Mustapha-----口で言うのは簡単だけどさ。そんなのボクに出来るワケないし。

コマリタ-----それなら私がログインすることに文句は言わないでください。

ニヒル・ムスタファ-----そんなことよりも、早く何が起きているのか教えてくれないか?

Dr. ムスタファ-----そうだぞ。またいつものように12時が近づいてきたらいろんなことが起き出してるし。まさか危険が迫ってるなんてことはないだろうな?

コマリタ-----まさにそのとおり。でも実際にはこれまでの方がずっと危険だったとも言えます。今日のこの世界、つまりこの次元ということですが、大半のものがAIによって生成されたものだったのです。

Little Mustapha-----なんのことだか全然解らないけど。

マイクロ・ムスタファ-----いや、ちょっと待ってください。解りやすいところで言えば、さっきのサンタです。AIが生成する「いかにもそれっぽいもの」。あのサンタにはそういう特徴がありましたよ。

ミドル・ムスタファ-----そういえばそうですね。サンタが現れる時の演出なんかも、いかにもって感じで。

ニヒル・ムスタファ-----だが、なんでそんなことをするんだ?まさかオレ達がサンタからプレゼントを貰うのを妨害したいワケでもないと思うが。

コマリタ-----ご名答!あなた達のためにそんな大掛かりな計画を立てるのは愚かなこと。しかし、その目的は今のところ定かではありません。有力な説として「普通」による人類の管理というものがあります。「普通」とか「常識」というものはその時代に生きる人々が作り上げるものですが、普通を誰かが意図したとおりに作り上げることが出来れば言論や思想を統制するのは簡単になります。仮に支配者というのものがいたとして、支配者の都合によって普通や常識を変えていくことが出来ればそれは恐ろしい武器となるでしょう。そしてその意図された「普通」を作り出すにはAIが生成した「それっぽいもの」が最適なのです。

Little Mustapha-----そうか。ボクらもあのそれっぽいサンタとプレゼントによって「普通」の中に丸め込まれようとしてたのか。

ニヒル・ムスタファ-----でもオレ達には通用しないよな。あんなプレゼントで満足するはずないからな。

コマリタ-----オジサンになってもプレゼントをリクエストするのはあなた達ぐらいですから、普通が通用しないのは当たり前だと思われます。

Little Mustapha-----でも誰がそんなことをするんだ?AIって言ったらコマリタだって頭脳みたいなのはAIなんじゃないの?

コマリタ-----私達の頭脳はAIのようなものではありますが、過去に起きた出来事と関連してその成り立ちは複雑なものになっています。その起源はこの次元でウッチーこと内屁端が作ったプロトタイプのアンドロイド女子アナにインストールされていたプログラムだと言われています。しかし内屁端がネットからダウンロードしたというそのプログラムの出所は明らかになっていません。

カズコ-----面白い話を聞かせてもらった。そうと解ったらあんた達を懲らしめるよりも先にやることがあるからね。こっちも色々大変なのよ。

Little Mustapha-----そんなの知らないけど。それよりもまた音量大きくなってるし、ガビガビサウンドだし。

カズコ-----あんたがギターアンプがどうとか話してたでしょ。それで収入を上げるにはこういう音が良いってことになったじゃないの。だから○ウンドハウスでターボディストーションっていうの買っておいたから。これで良いんでしょ。ホントにさ。地獄のクラウド始めたのは良いんだけど、追加のサービスをやるのに一年ごとに支払いが必要だって言うからさ。

Little Mustapha-----それ全然間違ってるし。ゲインを上げても収入は上がらないって話だったのに。なんで音を歪ませると収入が上がるって話になってるんだ?

カズコ-----あんた。つべこべ言ってるとあんたの運勢勝手に占うわよ。それじゃあ行くから覚えてらっしゃい。

ニヒル・ムスタファ-----カズコのせいでずいぶん話がそれてないか?

Little Mustapha-----ホントだ。なんの話してたんだっけ?

コマリタ-----今夜のこの世界はかなりのものがAIによる生成物だったということです。現実世界でそんなことが出来るはずはないと思うかも知れませんが、おかしなことに慣れているあなた達なら理解できるでしょうか?

ニヒル・ムスタファ-----理解するというよりも、実際にそんな感じだったからな。

コマリタ-----しかし、あなた達が普通でない事ばかりするので、AIの生成物にほころびのようなものが出来たと考えられます。そして最終的にはそこにある人形が原因で生成物に破綻を来したようです。正確にいうとその人形に充填されていた「ウンサー」が放たれたことの影響でしょう。

一同(コマリタ除く)-----ウンサー?!

犬サンタ-----アッ、思い出したんだワン!やっぱりこの人形は私が自分でカバンに入れたんだワン!

ミドル・ムスタファ-----なんで忘れてたんですか?

犬サンタ-----それはきっとそのAIが作ったものの影響だワン。本当はご主人様に「これは大事なものだから」って言われてたんだワン。でも使う時が来るまでLittle Mustapha達には見せちゃダメっていうことも言われてたんだワン。だからLittle Mustaphaに人形が見つかった時には呪いの人形だから触っちゃダメって言うように、ということも言われてたんだワン。

Little Mustapha-----それが今日の変な普通っぽい雰囲気の影響で「長官の孫娘さんの呪いの人形」という記憶に入れ替わってしまったのか。長官の孫娘さんが呪いの人形とか作るワケないもんなあ。

マイクロ・ムスタファ-----でも待ってください。使う時が来るまで見せてはいけないと言っていましたけど。それはさっきのタイミングで良かったのでしょうか?

犬サンタ-----解らないんだワン。ご主人様はいつ使えば良いかはその時が来れば解る、とも言ってたはずだワン。

コマリタ-----それは大丈夫なのではないでしょうか。こうしてこれまで登場できなかった私達が登場できるようになりました。ついでに留守番電話も機能するようになっているようですが、そちらへの対処はあなた達に任せますね。私は別にやることが出来たようです。これからテレビの現場へ行かなくてはいけませんが、テレビを見ていれば今日の出来事を理解する上で参考になることがあるかも知れませんよ。