いきなり怪しい展開になりましたが、Little Mustaphaが口で説明していたら上手く伝わらないはずなので、少し時間を戻してここで起きたことを確認してみましょう。それは一時間ほど前のことでした。
そろそろクリスマスにプレゼントが貰えないというネタも尽きてきたと思っているLittle Mustaphaは他のメンバーと同様に明るい気分で、パーティーのための買い物なども早めに済ませて、彼と同じくウキウキで早めに来てしまいそうな主要メンバー達を待っていました。
するとこの時間には滅多に鳴らないインターホンのチャイムの音がしました。インターホンのモニタには見たことない男の人が映っていました。
「あの私、里梅屋と申しますが。あなたはLittle Mustaphaさんでしょうか?」
「ええ、そうですけど」
「ああ、良かった。アレは本当だったんだ…。もしかして、あなた二年前に暗殺されそうになりませんでしたか?」
「暗殺されそうだったかどうだか。あれはアッという間のことだったので良く覚えてないですけど、一応暗殺されそうだったという話にはなってますよ」
「そのことについて話したいことがあるのですが。込み入った話なので中に入って直接話しても良いでしょうか?」
二年前の暗殺の話となったらLittle Mustaphaも気になります。二年前に、この次元とはかけ離れた次元からやって来た深淵の暗殺者と呼ばれる暗殺者にLittle Mustaphaは命を狙われていたのです。
あの時はすんでのところで助かったLittle Mustaphaですが、その後に暗殺を依頼した人が逆に暗殺されるなど、話は解決したのか解らない状態でもあったのです。
鍵のかかってないブラックホール・スタジオの扉から里梅屋さんが入ってきました。どう見ても体育の授業が好きではなかったと思われる小太りの中年男性の姿に緊張気味だったLittle Mustaphaも少し警戒心を弱めていました。
「いきなりこんなことを言って信じてもらえるのか解らないのですが」
パーティーの準備がされた部屋に座った里梅屋さんが静かに話し始めました。
「私がこの次元における深淵の暗殺者ということだそうです」
信じたのかどうかは解りませんが、Little Mustaphaはギョッとしてしまいました。この次元と並行していくつも存在している次元の中のそれぞれに自分と同一の人がいたりするというのは前に聞いた話ですし、あの暗殺未遂の時には実際に異次元のLittle Mustaphaにも会っていたのです。
「あなたが来たってことは、まさか深淵の暗殺者のやり損なった仕事を…」
Little Mustaphaはいつでも鶏卵軟骨拳を繰り出せるように少し腰を浮かせて身構えようとしていました。
「いやいや、それはないですから心配しないでください。私だって自分が暗殺者とかそんなのは信じられないですし。でもちょっと前から夢の中に恐ろしい姿をした、なんというか怪物というのですかね。そういうのが現れて」
「その怪物っていうのは…。具体的にはどんな姿でした?」
「背丈は2メートルもありましたかね。それで全身が黒い甲冑のようなもので覆われていて。あれは甲冑というよりも外骨格というような感じもありました。そして体には少し不釣り合いな小さめの顔があって、目がこう、こんな感じで…」
「その逆三角形の小さな顔にスズメバチみたいなつり上がった細長い目が青白く光ってるってやつ?」
「ああ、そうそう。あれは確かにスズメバチの眼に似てますね」
そこまで聞くとLittle Mustaphaは里梅屋さんが本当のことを話していると思えてきました。
「そうなんですよ。あれは言葉で説明するのが難しい怪物なんですよ」
「伝わったようでなによりです。それでその深淵の暗殺者、あるいは遠い別次元の私がですね、一ヶ月ほど前から毎晩のように夢に現れるようになりまして。最初はただの怖い夢だと思っていたのですが、毎晩同じ怪物が出てくるし、しかも日が経つにつれて私に何かを話しているような気がしてきたのです。それで私は目が覚めてから夢の中の覚えていることをメモするようにしたのです」
そう言って里梅屋さんは書いたメモをカバンから出してLittle Mustaphaに見せましたが、Little Mustaphaはそんなものを見てもあまり意味はないかな、とか思っていました。
「そうしていくうちに、その深淵の暗殺者であるところの、別次元の私の言っていることも理解できるようになってきて。その内容をまとめると、二年前にある人を誤って暗殺しそうになった。…つまりあなたのことですね。そしてそのことについてあなたに謝りたいが、今はそちらに行ける状態ではないから、私が代わりにあなたに謝って欲しいと、そういうことだったのです。ということで、…どうもスイマセンでした」
「いやいや、そんな。もう気にしていませんから。それにこちらこそ、不注意から椅子の足であなたのことを突いたりしてしまって。申し訳ないと思っております」
なんだか変なやり取りになってきましたが、Little Mustaphaは少し気になったことがありました。
「そういえば、あの深淵の暗殺者っていう人はこの次元の人間には全く理解できそうにない言語を喋ってたんだよね。すごい技術を使ってもなかなか解読できないって話なんだけど。そういうのは大丈夫だったの?」
「それは、多分テレパシーみたいなものでしょう。あるいは同一人物であるということで通じる何かがあるかも知れませんし。それに私には夢をコントロールできる能力というか、そういうものがありましてね。エッチな夢が見たいと思ったらそのとおりにできるタイプの人間なんです」
Little Mustaphaはどうして「エッチな夢」で例えるのか?と思ってしまいました。それと同時にエッチな夢を見ている里梅屋さんの姿を想像してしまって少し気分が萎えました。
それはともかく、里梅屋の夢を制御できる能力のおかげで遠い次元のワケの解らない言葉でも何とか理解して、こうしてやって来ることが出来た、ということなのです。
しばらく里梅屋さんの不思議な夢や暗殺者のこと、さらにその他のどうでもいい事について話していた二人ですが、そこへ主要メンバー達がやって来てさっきの状況になりました。里梅屋さんはパーティーみたいなのは苦手だということだったので、Little Mustaphaが少しだけでもと誘ったのですが、主要メンバー達が来ると里梅屋さんはすぐに帰ってしまったのです。
Little Mustapha-----ということでね。里梅屋さんてエッチな夢を見るのが得意なんだよね。
ミドル・ムスタファ-----そこは全然重要じゃないですよ。
ニヒル・ムスタファ-----そうだよな。回想シーンでそこはカットしても良かったんじゃないか?
Little Mustapha-----といっても、どうしてあの言語を理解できたのか?とか、そういうのを説明するには重要ではあるんだよ。
Dr. ムスタファ-----明晰夢については科学的にも意見が分かれるところだからな。しかし、能力としては羨ましいものだな。私なんか最近じゃどんな夢を見ていたのかほとんど覚えてないしな。
ニヒル・ムスタファ-----そんなことはどうでもイイんだが。そりよりも例の件は大丈夫なんだろうな?
Little Mustapha-----例の件とか、ぼかす必要もないけどね。クリスマスのプレゼントなら大丈夫に決まってるでしょ。まあ里梅屋さんが来たというのは怪しい出来事かも知れないけど、それによって2年前のあの騒動が間違いによるものだったというのが解ったんだし。ボクの命も安心ってことは去年みたいな退役サンタが来て変なことになることもないし。
ミドル・ムスタファ-----あれは酷かったですよね。あの人が余計なことをしなければプレゼントは貰えたんですから。
マイクロ・ムスタファ-----でも退役サンタさんは彼なりにボクらを守ろうとしてくれたのですから。あの人のせいにも出来ませんよ。
Little Mustapha-----それもそうだよね。でもそうやって人の事を思いやる心というのも余裕の現れでもあるからね。つまり、いつも心配性なマイクロ・ムスタファがそれだけのことを言えるということは、今年は絶対にプレゼントが貰えるということで間違いないよ!
マイクロ・ムスタファ-----いや、そうやって油断するのも良くありません。
Little Mustapha-----やっぱり心配性だった。
ニヒル・ムスタファ-----まあ、確かにそうだけどな。でもそれ以外にここまでおかしな点はないってことだし、少しは安心できそうだな。
Little Mustapha-----慎重になったところで、どうすれば良いのかも解らないし。とりあえず、パーティーということで。今年はちょっと浮かれて食べ物も多めに買ってしまったからね。里梅屋さんには御馳走を見せるだけになってしまって悪いことをしてしまったけど、とりあえず特製の酒もあることだし、早速乾杯してクリスマスムードになってプレゼントを待ちましょう!
「特製の酒」という言葉に主要メンバー達は少し引っかかるところがなかったこともありませんが、そのへんは良くあることなので、Little Mustaphaの言うとおりパーティーを始めることにしました。