「ゲロニンゲン」

まえがき

 Season3の第一話がそうだったようにその続きの今回も本物の「the X-Files」を大いにネタバレしているので、これから「the X-Filses」を見る予定でネタバレが嫌な人は、一刻も早く本物の方を見てからこの話を読んでください。

1. 土井那珂村

 電話が鳴っている。

 そんなことは那場保権之小(ナバホ・ゴンノショウ)にとってはどうでも良いことだった。この家に彼の他に誰かがいる時には、その誰かが電話に出るのだし、誰もいない時にゴンノショウは気分によって電話に出たり出なかったりするのだ。この時のゴンノショウは特に電話に反応したくないようだった。

 ゴンノショウは死の淵から舞い戻ってきたモオルダアのことを考えていた。それと同時に自分がずっと信じてきたナバホ家や土井那珂村(ドイナカムラ)に伝わる伝説がデタラメではないという確信を持ち始めていたのだった。

 ナバホ家や土井那珂村の人々の間では代々、親類以外は誰も理解できないような不思議な方言が受け継がれてきた。そして、その方言で親から子へと伝説は伝えられた。それは彼らに生きていく上での面倒なことや、面倒でないことや、それ以外の色々なことを教えてくれたのだ。

 彼ら伝説に基づいた考えでは野犬や野良猫やカラスは生命力の象徴であった。しかし、モオルダアが彼らの祈祷によってどこでもない場所から再びこの世界に戻ってきた時に、ゴンノショウ達は「お腹の赤い部分が迷路になっているイモリ」の話を思い出したのだった。

 治癒力の象徴でもあるそのイモリはバラバラになった人を迷路の中でウロウロさせているうちに再生することが出来るのだ。血はちり紙によって、目と耳はオタマによって、魂は「喋る犬」「喋らない九官鳥」によって集められ、そして雷鳴がゴロゴロして稲妻がピカピカすると人はほとんどアッチの世界からコッチの世界へと戻ってくることができるのだ。


 モオルダアがゴンノショウ達の祈祷によって目覚めたその日に、ゴンノショウ達は北土井那珂村(キタドイナカムラ)の村人から嬉しい知らせを聞いていた。

 北土井那珂村にも土井那珂村と似たような伝説が伝わっている。そのうちの一つが「白黒の柄が迷路になっている乳牛の乙女」に関する伝説だった。その乙女は人の姿で天界からやってきて、北土井那珂村の人々に、面倒な生き方と面倒でない生き方があることを教え、そして面倒な生き方が意外と面倒でないということも教えたというのだ。その乙女は「いつか私は戻ってくるでしょう」と言い残すと「白黒の柄が迷路になっている乳牛」に姿を変えて天空へと消えてそれ以来姿を現さなかった。

 しかし、モオルダアがこの世界に戻ってきたその日に「白黒の柄が迷路になっている乳牛」が北土井那珂村で生まれたというのだ。伝説を信じるか信じないかにかかわらず、土井那珂地区の人々にとってこれは衝撃的な知らせだったのである。何かすごいことが起こるべな!と誰もが期待したのだ。