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#148 「in Gloom」 2012-12-21 (Fri)

 絶望の荒野では犬サンタ君に届いたメールの内容から新たな衝撃的事実が発覚してしまったのですが、一方で現実世界のブラックホール・スタジオでは、マイクロ・ムスタファが一人でポカンとして座っていました。


マイクロ・ムスタファ-----(これはどういうことでしょうか?私はここで何をしているのでしょうか?それよりも、さっきまでいた仲間達はどこへ?私は…。そうです、私は絶望の荒野のブラックホール・スタジオにいて、そこで自分のこれまでにない姿に感激していたのです。前向きに問題を解決しようとする、あの力強さ。今までに感じたことのない何かを私は感じていた。しかし、今は全てが違う。ここは一体どこなのだろうか?窓の外にはいつもの見慣れた風景が。それはつまり、私が現実世界に戻ってきたことを意味しているのだろうか?それなのに、どうして?あれだけ戻りたいと願っていた現実世界に戻ってきたのに、私はなぜか憂鬱な気分になっている。ここは本当に現実世界なのだろうか?私はまた別の次元のおかしな場所へやって来てしまったのではなかろうか?…そうだ。こういう時にはテレビを見れば良いのだ。とりあえずテレビをつける。そんな行動を私は軽蔑してきたのだが、このような状況になってやっとその意味を理解できたのかも知れない。とにかくこの「目の前にあると気づかないという場所」にしまってあるリモコンを取り出してテレビをつけてみることにしよう。)


 心の中では良く喋るマイクロ・ムスタファがそう言うとテレビをつけました。いつもとは違うチャンネルでしたが、それは普通の世界でやっている普通の番組でした。マイクロ・ムスタファがテレビつけるとなぜか落ち着いた感じのチャンネルになってしまうようですが。そこでやっていたのは夜のニュースの後半の特集コーナーでした。

キャスター-----…ということで、10000年問題に関する取り組みに関するニュースでした。さて、次は特集コーナーです。今や持っていない人は逆に神!とさえ言われてブームになっているスマートフォン。略してスマホと呼ばれる事も多いのですが。そのスマートフォンを中心に最新のテクノロジーを紹介する展示会、「冬のハイテクスマート祭り」が行われています。そこで注目を集めたあるアプリに関しての特集です。リポートをしたのは間地目記者です。

間地目-----はい。マジメな記者の間地目です。よろしくお願いします。

キャスター-----よろしくお願いします。早速ですが、今回の注目アプリという事なんですが、どういったものなのでしょうか?

間地目-----はい。それは大変スマートなものだということです。スマートフォンが他のノートパソコンなどと違うのは常に持ち歩けることと、そしてカメラや各種センサーを本体に備えている事なのですが、そういうものを利用した製品やサービスが最近多く見かけられるようになりました。ところで、自分が食べたものがその後で体の中でどのような状態になっているのか気になったことはありませんか?

キャスター-----食べたものですか?そうですねえ。ちょっと傷んでいる果物などを食べた時には、後でお腹が痛くなるんじゃないか?と気になることがあります。

間地目-----そうですよね。その他にもアレルギー体質の方、あるいはアスリートの方なども食べ物がどうなっているのか気になることが多いと思います。

キャスター-----アスリートは食べたものが筋肉なるのか、燃料になるのか、あるいは脂肪になるのか、気になるところですね。

間地目-----そうなのです。そこに目をつけたのが東京にあるベンチャー企業なのです。スマートフォンを使って食べたものの状態を知ることが出来たら素晴らしいと思い開発を続けてきたそうです。ではインタビューをご覧下さい。


ベンチャー企業-----我々は食品と健康に関する研究を続けてきました。しかし、食品の栄養分などに関して調べているだけではどうしても限界があることに気づいたのです。そこでスマートフォンに目をつけたのです。スマートフォンの無線通信機能を使って食品からのデータを受信すれば全てが解ると思ったのです。

間地目-----実際にはどのような仕組みになっているのでしょうか?いくらスマートフォンでも食品と通信することは出来ないと思うのですが。

ベンチャー企業-----そうなのです。そこが問題だったのですが、我々は食品にデバイスを埋め込む事に成功したのです。例えば牛肉だったら牛肉の細胞によく似たデバイスを埋め込みます。それを牛肉と一緒に食べるとそのデバイスが周囲の状況をスキャンしてデータをスマートフォンに送って来るという仕組みになっているのです。

間地目-----それを商品化したのが今回のアプリというワケですね。

ベンチャー企業-----そうです。我々はこれをスマート食品と名付けました。

間地目-----スマート食品ですか。いかにも最先端という感じですね。

ベンチャー企業-----ありがとうございます。我々はこれを商品化するにあたってSNS機能や絵文字を体内に表示出来る機能も搭載しました。これは未来を変えるような商品になると思っています。


間地目-----という事なのです。

キャスター-----これはとても興味深いですね。インタビューの最後の方に登場したSNSというのは具体的にはどのようなものなのでしょうか?

間地目-----そうですね。最近はだれでもやっているミニブログのサービスと思っていただければ良いと思います。口に入れた食品の様子をデバイスが利用者のミニブログに自動的に投稿するということなのです。状況に応じて「食道ナウ」とか「消化ナウ」。あるいは「筋肉ナウ」「脂肪ナウ」。そして「排出ナウ」といった具合になるそうです。

キャスター-----そうですか。利用者の健康な生活に一役買いそうですね。

 なんだかダラダラとテレビを見てしまったマイクロ・ムスタファですが、ここまで来るとテレビを消しました。そして、どうして人は最新技術をこんなことにしか使えないのか。どうして意味のない方向へと進化していくのか、と考えて憂鬱な気持ちになっていきました。

ミドル・ムスタファ-----あれ?!またマイクロ・ムスタファが現れましたよ。

Dr. ムスタファ-----ホントだな。Little Mustaphaが消えたと思ったら今度はマイクロ・ムスタファが出てきた。

ニヒル・ムスタファ-----キミ達はなんか表裏一体みたいな感じになってるのか?

マイクロ・ムスタファ-----いや、何のことだか解りませんが。…ここは一体…。

ニヒル・ムスタファ-----一体、って。キミが言い出さなきゃこんな世界もなかったかも知れない場所さ。

マイクロ・ムスタファ-----つまり絶望の荒野ですね。…そうか。あのおかしな最新技術を見て私は人間であることに嫌気がさしてきたのですね。そして再び絶望したんです。

ミドル・ムスタファ-----よく解りませんが、せっかくですし、あなたも絶望の酒を飲んでくださいよ。なんか絶望的な気分になって良い感じですよ。

マイクロ・ムスタファ-----いや、そんなことではいけませんよ。あなた達は元の世界に戻りたくないんですか?

ニヒル・ムスタファ-----戻ったところで、もうそこには何もないのさ。

マイクロ・ムスタファ-----そんなこと言っても。ここにいたって何も無いのは同じ事なのです。それに、ここには希望がない。今はまだそうやって酒を飲んでいられるかも知れませんが、それはまだ少しだけ希望を残しているからなのです。でもその希望も全部なくなった時に、ここがどんなに悲惨な場所になるか、あなた達は解っていない。

Dr. ムスタファ-----なんかキミはここにいるとスゴく前向きな人間になるんだな。

マイクロ・ムスタファ-----アッ、ホントだ。しまった!私はまたあの言いしれぬ前向きな力強い活力を感じている…あぁ…


ミドル・ムスタファ-----あれ?またマイクロ・ムスタファが消えちゃいましたよ。

ニヒル・ムスタファ-----ってことは、今度はLittle Mustaphaが戻ってくるのか?

ミドル・ムスタファ-----それはどうでしょうか?どうやらLittle Mustaphaは現実世界に戻ったワケではなさそうですし。

Dr. ムスタファ-----じゃあ、今度は誰が出てくるんだ?

ミドル・ムスタファ-----さあ、どうでしょう?

ニヒル・ムスタファ-----…と、思ったらまたマイクロ・ムスタファが登場したぜ。


マイクロ・ムスタファ-----ああ、これは…。なんてことだ。現実世界に戻ると絶望してこっちに戻ってきてしまう。だけどこっちに来ると、ここでは一番快活なキャラだし、すぐに向こうに戻ってしまうし。…ああ、みなさん。もっと前向きになりましょう!こんな所にいたら…


ミドル・ムスタファ-----また消えちゃいましたね。

ニヒル・ムスタファ-----なんか変な事になってるが。それよりもLittle Mustaphaはどうなったんだ?


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