その向こうを覗いた者は決して戻ってくることはないと言われる場所。そこは絶望の荒野の果てにある絶望の淵。その絶望の淵を目指して絶望の荒野をひたすら歩く者がいました。それは絶望に絶望を重ねて絶望の淵からその向こうを覗いてみたくなったLittle Mustaphaでした。
この広い絶望の荒野ではなかなか絶望の淵に辿り着くことが出来ません。しかし、絶望より他にすることのないこの場所でそれは関係のないこと。彼はいつか必ず絶望の淵へ到達するでしょう。そして、その向こうにある決して見てはならないものを見るのか、あるいは触れてはならないもに触れるのか。何が起ころうと、そうなった時には彼はもう元の場所へ戻ってくることはないでしょう。
この絶望の荒野にLittle Mustaphaを止める者はいないとも思われたのですが、いつだって少しの希望は残っているものです。彼の背後に彼の背後霊である葉井後冷子(ハイゴレイコ)さんが現れました。(去年に続いて二度目の登場なんだし。)
冷子-----ちょっと、それ何やってるのか解ってるのか?ってことだけど。
Little Mustapha-----解ってるに決まってるじゃん。絶望の淵が見てみたくて仕方がないんだよ。というか、なんでこんな時に出てくるんだ?絶望してるんだから邪魔しないでくれよ。
冷子-----何言ってるのか?ってことだけど。うーん…。宿主がピンチなんだし、こうして出てきてるんだけど。何にも解ってないんだし。
Little Mustapha-----なんだよ、宿主って。
冷子-----うーん…。別に寄生しているワケじゃないから宿主、っていうのは変な感じだけど。別に正式な呼び方がわかんないだけなんだけど。そんなことより、こんな所にいちゃいけないんだし、とりあえず部屋に戻ったら良いんだし。
Little Mustapha-----あんなところに何があるっていうんだ?あそこにいても絶望した人間や犬がやってくるだけじゃないか。しかも、あんなメールが来てたりして。
冷子-----まあ、それは耐えなきゃならないことでもあるんだし。それくらいで絶望してたら…。
Little Mustapha-----それぐらいなんて言わないでくれよ。ボクは脳天から鉄の杭をぶち込まれたような、そんな感覚だったんだぜ。
冷子-----脳天から鉄の杭って、金田一みたいな表現なんだし。
Little Mustapha-----そんなことはどうでも良いんだけど。もう、なんかキミと話してたらまた絶望したくなってきたよ。キミがいるせいでなかなか絶望の淵に着かないじゃないか。
冷子-----何を言ってるのか?ってことなんだけど。うーん…。背後霊として必死になって助けようとしるってことなのに。本当なら滅多に人前に現れないものなんだぜ、ってことなんだし。
Little Mustapha-----だったら現れなきゃ良かったじゃないか。
冷子-----そうやって人の好意を踏みにじって。だいたい自分だって悪いんだぜ。この間だって電話で警告したのに、何の対策もしてなかったのがいけないんだし。
Little Mustapha-----警告って、あんなの全然警告になってなかったじゃん。あれで対策を講じられるなら何事も上手くいっちゃうしな。
冷子-----上手く行って欲しいなら、この先には絶対に進んじゃいけないんだし。早く戻れ、ってことだけど。
Little Mustapha-----やだよ。絶対に絶望の淵を見るから。キミは引っ込んでてくれよ。
冷子-----お断りだし!絶対に引っ込まないし!
Little Mustapha-----もう。うっとうしいなあ。だいたいこうなったのもキミのせいなんじゃないか?
冷子-----うっ…!なんてことを言うのか!ってことだけど。
Little Mustapha-----キミみたいなのがくっついてるから、良いことが起きないんだよ。そうだ。こうなったのも、これまで良いことが全然なかったのも、全部キミのせいだ。
冷子-----マジで言ってるのか?ってことだけど。
Little Mustapha-----絶望した人間はいつだってマジだよ。
冷子-----もう怒ったし!解ったんだし!もう背後霊なんてやめるんだし!オマエなんかどこにでも行っちゃえば良いんだし!…あばよ!
Little Mustapha-----…ああ。行っちゃった。ボクはなんて酷いことを言ったんだ。ここでさらに絶望してしまったら、ますます絶望の淵が見たくなったな…。さあ、先を急ごう。
絶望の連鎖によりLittle Mustaphaは背後霊の冷子さんにも見捨てられてしまいました。それでも彼は黙々と絶望の淵を目指して進みます。
一方、マイクロ・ムスタファが消えたり現れたりしている絶望の荒野にあるブラックホール・スタジオでは、残されたメンバー達が絶望の酒を飲みながら大いに盛り下がっていました。そして、人の言葉を忘れてしまった犬サンタ君はただの機嫌の悪い犬になっています。そこへまた新しく一人加わる事になりそうです。
Dr. ムスタファ-----…ということでな。絶望してたらパンチラを見たって何とも思わない。
ニヒル・ムスタファ-----そうだな。
ミドル・ムスタファ-----ちょっと話しすぎたようですから、しばらく黙っていませんか。もっと絶望を味わいたいのです。
マイクロ・ムスタファ-----いや、そんなことを言わずに、もっと盛り上がって…、ああ、また消えてしまう…。
ミドル・ムスタファ-----前向きなマイクロ・ムスタファが消えたところで、また盛り下がりましょう。…と思ったら、また誰か来たようですが。
ここで絶望の荒野にあるブラックホール・スタジオに元背後霊の冷子が現れました。
Dr. ムスタファ-----…あんたは確か去年会った幽霊の…。
冷子-----幽霊じゃないんだし…!
ニヒル・ムスタファ----- Little Mustaphaの背後霊だな。
ミドル・ムスタファ-----冷子さんでしたね。でも、どうしてここへ。…というか泣いてるんですか?
冷子-----もう背後霊じゃないんだし。別に泣いてないんだし…。うぅ…。でも、もうこんなことじゃ背後霊失格なんだし…。悪いけど、もうLittle Mustaphaは戻ってこないぜ、ってことなんだし。
一同(冷子除く)-----ええ?!
冷子-----オマエら絶望したいんだったら喜んだら良いんじゃないか?ってことだけど。
ニヒル・ムスタファ-----いや…。まあそうだがな。
ミドル・ムスタファ-----そ、そうですね。ここは絶望するところですよね。
Dr. ムスタファ-----しかし、なぜか絶望することにためらいを感じるんだが。
マイクロ・ムスタファ-----…そうですよ。そこに希望があるんです。あなた方にはまだ希望が残っている。だからLittle Mustaphaが戻ってこないと聞いても絶望できないのです。そのわずかな希望を…ああ、ダメだ…。前向きな事を言うと…。
冷子-----なんで急に現れたり消えたりするのか?ってことだけど。
ミドル・ムスタファ-----彼は元々絶望体質だからここには長居できないみたいです。
冷子-----そうなのか、ってことだけど。それよりも、オマエらもしかして絶望を後悔し始めてるんじゃないのか?ってことだけど。
ニヒル・ムスタファ-----そんなことはないぜ。絶望、絶望、また絶望。こんな絶望は他にないからな。
冷子-----そんなに無理しなくて良いんだし。フヒュヒュヒュ…!
ミドル・ムスタファ-----笑わなくても良いのに。でも私はLittle Mustaphaが戻ってこないと聞いて絶望していることに恐怖を感じてきましたよ。
Dr. ムスタファ-----そうだな。アイツは一体どうなってしまうんだ?
冷子-----うーん…。絶望の淵を覗いたら、その時点で審査不要の地獄行き、って話もあるしな。本当に絶望の淵に行きたいなんて人は初めてなんだし。うーん…。わかんねえな。まあ、とにかく私は元の場所へ戻るべく努力はするんだし。オマエらもそうしたいなら協力する、ってことだけど。よく考えると良いんだし。
ニヒル・ムスタファ-----それはどういうことだ?オレ達だって、前向きになったらすぐ戻れるんだろう?
冷子-----それはマイクロ・ムスタファみたいな特殊な人に限った事なんだし。普通の人間は一度絶望するとなかなか元には戻れないんだぜ。
ミドル・ムスタファ-----だぜ、って。でもそうですね。私ももう絶望はやめたつもりなのに、マイクロ・ムスタファのようにここから消えたり出来ませんし。
Dr. ムスタファ-----何事にも努力は必要、ってことだな。
絶望の荒野にあるブラックホール・スタジオでは少し前向きな話も出てきたのですが、一方で最後の希望かも知れなかった背後霊さえも失ったLittle Mustaphaはその後も絶望の荒野を歩き続けていました。そして、とうとうこれまでとは違う景色が目に入ってきたことに気づいたのでした。
これまでは絶望しかなかった無限の荒野はしばらく先に行くと終わりになるような気がするのです。これまでは遠くに見えていた絶望の地平線が次第に自分に近づいて来るような感じでした。Little Mustaphaはこれでやっと「これまでの絶望が報われる」と思い、さらなる絶望を胸に先に進みました。
しかし、しばらく進むとLittle Mustaphaはあることに気がつきました。どこからともなく音楽が聞こえて来ます。それは決して明るい音楽ではありませんでしたが、この場所に比べたら何の絶望感も感じさせないものでした。Little Mustaphaがその音を聞きながら歩いて行くと、微かに聞こえていた音楽が次第に明瞭に聞こえるようになってきました。
そして、音楽が終わった後に誰かが話し始めて、それがプリンセス・ブラックホールの声だということに気がつきました。Little Mustaphaはすっかり忘れていましたが、今日はクリスマスイブ。毎年恒例のプリンセス・ブラックホールのラジオ特番の日でもあるのです。
ラジオの音-----「また素敵な曲でしたわね。今の曲はあたくしの作曲したインストゥルメンタル作品。『死神と踊るプリンセス』でしたのよ。完璧なメロディーに完璧なハーモニー。死の天使と言われたあたくしにぴったりじゃございませんこと?…ウフッ!みなさまは今日はなんでこんなに暗いクリスマス特番なのか、ご存じないから驚いているかも知れませんわね。ではここで、あたくしの怒りのメッセージをお届けしたいと思うんですのよ。良く聞くんですのよ。『ちょいと!どういう事なんですの?!なんであたくしの名前がプリンセス・オブ・ダークネスになっているんですの?それに、何なんですの?!今日はクリスマスイブだというのに、どうしてブラックホール・スタジオには誰もいないんですの?今日という特別な日にパーティーをサボるなんて許せませんわ!あたくしは別にあんなサイトに興味はないんですけれど、このような事が続くのであれば、あたくしの実力を行使して、あたくしがLMBの主役になりますわ!いや、そうなったらLMBじゃなくてPBBですわね。では、みなさま。来年からはあたくしの素敵な素敵なサイトで沢山のダークネスに出会えるかも知れませんのよ。もしもLMBの連中があたくしに謝罪したい気持ちがあるのなら、今すぐテレゴングに電話するんですのよ!謝罪なら番号は666の…』」ザザザザ…。ジー…。
ここでラジオの音はノイズにかき消されてしまいました。Little Mustaphaはこれは聞いてハッとして顔を青くしました。それと同時に目の前まで迫っていた地平線がまた元のように遠くに離れていくのを感じていました。
そんなことを思っているうちにLittle Mustaphaの姿は荒野の端の方から消えてしまいました。そして、誰もいなくなった荒野にブラックホール君と白色矮星君が現れました。彼らは力を合わせて一つのラジカセを持っていました。バブルな80年代ラジカセなので大きくて重くて一人(というか一マスコット)では持てないようです。
白色矮星君-----危ないところだったね!
ブラックホール君-----そうなんだなぁ。いつも世話が焼けるんだなぁ!
白色矮星君-----そうだね!
そういうと二人は満足げに消えて行きました。