18. 関係ないけど
スキヤナー副長官はキモエを車に乗せて「安全な場所」へと向かっていた。マサシタのストーカー事件から男性恐怖症になっていたキモエだったが、なんとかそれを克服しようとスキヤナー副長官が彼女の警護をすることに同意したのだ。しかし、やはり落ち着かずにそわそわしているキモエを見てスキヤナー副長官は「もしかして私に気があるのではないか?」と変な想像をしていた。
「お嬢さん、安心してください。あなたのことはきっと私が守って見せる」
この余計な一言がさらにキモエを不安にさせた。
19. 真っ暗なキモエの屋敷
塀の上からモオルダアがキモエの屋敷の裏庭に落ちてきた。今回はどうしても塀を乗り越えるのが上手くいかない。手には怪しげな機械も持っている。塀の外からスケアリーの声が聞こえてきた。
「中の様子はどうなんですの?」
「庭には誰もいないみたいだ。きっと中にも誰もいないだろうねえ」
モオルダアは塀の方を見ながらスケアリーが塀を乗り越えてくるのを待っていたが、彼女は門から入ってきてモオルダアの後ろから声をかけた。
「何をぐずぐずしているんですの?」
モオルダアは不思議そうに振り返ったが、よく考えたら門から入ってくるのは普通のことなので、特に気にせず二人して表の方へと回っていった。
スケアリーは念のため銃を取り出していたが、モオルダアはモデルガンではなくて怪しい機械をいじりながら歩いていた。
「それは一体何なんですの?」
「朝にここで撮った写真が上手く写らなかったでしょ。あれはきっと強力な磁力が原因じゃないかと思ってね。きっとAKB計画で強力な磁力を発生させる装置とか使われていたに違いないよ。怪しい場所があればこれが磁気を感知して知らせてくれるはずだよ」
「そうかも知れませんが、もう怪しい場所はあの絵のある部屋だと解っているんだから、そんなものは必要ないんじゃありませんの?」
それはそうなのだが、もしも強力な磁力が検出されたらそれでカメラが写らなかったことの説明になるので、それでいいのだ。
屋敷の玄関に近づくにつれて、モオルダアの持っている磁力計の示す数値が少し増えてきた。使い方も良く解らずに使っているモオルダアにはそれが何を意味しているのかは解らなかったが、他の場所よりも電磁波とかそんなものが多いのではないかと思っていた。ただし、こんな僅かな数値の増え方では、デジタルカメラに影響を与えるほどではないだろう、とも思っていた。
玄関に鍵は掛かっていなかったようで、スケアリーが静かにドアを開けるとギィーッと音を立てて開いた。また幽霊屋敷みたいですわ、とスケアリーは思って嫌な気分になっていた。
スケアリーが懐中電灯であの陰鬱な絵の並んでいる廊下の方を照らした。彼女は懐中電灯の明かりでは少しも明るくならない廊下を見ながら、どうして自分がこんなに怯えているのか不思議にさえなっていた。あの怪物はおそらくもう出てこないし、ましてや幽霊なんているわけはないのに。それでも、スケアリーは恐ろしい感じがしていたのでモオルダアを先に歩かせた。今はモオルダアもこの屋敷の雰囲気を不気味に思っているようだったが、彼にはそれよりも手にしている磁力計が気になっているので、スケアリーに言われるまま先に廊下を歩いていった。
磁力計を見ながら歩くモオルダアはなかなか前に進まない。ゆっくりと歩きながら、スケアリーは姿の見えない何かが後ろからやって来て彼女の肩に手をかけたりするんじゃないのか、とそんな想像をして恐ろしくなるとモオルダアの前に出て歩いた。しかし、前を歩くと懐中電灯の光の当たらない影から何かが飛び出して来るのではないかと、また恐くなりモオルダアの後ろに下がった。
こんなふうに怯えるスケアリーのことは少しも気にせずにゆっくりと歩くモオルダアが、問題の部屋の前で立ち止まった。
「やっぱり、ここに近づくにつれて数値が上がっているなあ」
「どうでもいいですけど、早く部屋に入りませんこと?」
「うん、まあそうだねえ」
モオルダアが部屋の扉を開けた。開けると中から何かが飛び出してくるのではと、スケアリーはまた恐ろしい想像をしていたが、何も起こらなかった。
二人は部屋に入って懐中電灯の明かりに照らし出されたあの怪物の絵をみてギョッとした。この絵のギョッとするような恐ろしさは何度見ても変わらないようだ。
「あれ、おかしいなあ」
ギョッとした後にすぐに元に戻ったモオルダアが磁力計を見ながらつぶやいていた。モオルダアの予想では、この部屋に来たら磁力計の数値が一気に上がるはずだった。この部屋のすぐ外は彼のデジカメが正常に動作しなくなった事件現場だったし、単純に考えればそうなるはずだった。
「そんな使い方の解らない機械なんか使っていても埒があきませんわ!」
「うん、まあそうだねえ」
モオルダアはそう言うと磁力計をしまって辺りを見回した。
「何かあるとしたら、あそこしかないよね」
モオルダアは怪物の絵の方を指さした。スケアリーもそう思っていた。青写真でこの部屋は絵のある壁から反対側の壁の窓までがもっと広くなっていたのだ。ただし、絵の裏に秘密の扉があるとは思えなかった。しかし、モオルダアはすっかりそう信じ込んでいるようだ。
モオルダアは腕まくりをしていかにも力仕事をする時の姿になると、自分の背よりも高い大きな額縁の両端に手をかけた。
「モオルダア。まさかその裏に隠し扉があるなんて考えてないでしょうね?」
スケアリーがそう言った時にモオルダアはすでに半分ぐらい額縁を動かしていた。重たいのは額縁だけで絵のキャンバス自体はそれほどの重さではないので、モオルダア一人の力でも簡単に動かせたようだ。
「あれ、おかしいなあ」
絵を壁からどけて別の壁に立て掛けたあと、モオルダアは少しガッカリしていた。絵の裏側には隠し扉などなく、他と同じ木製の板を並べた壁になっていた。
「そんな単純な話ではありませんわよ。その壁の裏に何かがあるとしても、ここは秘密基地じゃございませんのよ」
スケアリーは他の場所を調べようと辺りを懐中電灯で調べている。
モオルダアは憮然として腕を組むとたった今額縁をどけた壁に背をもたせかけた。腕組みをして壁に背をもたせかけて考え込むのは彼の思っている優秀な捜査官の仕草でもあったのだ。しかし、彼が背をもたせかけたその瞬間、モオルダアの後ろの壁がくるりと横に回転してモオルダアは変な悲鳴をあげながらそのまま後ろに倒れた。
驚いて振り返ったスケアリーは半分だけ開いた回転式の隠し扉から出ているモオルダアの下半身を目にした。
「やっぱりここは秘密基地だよ」
隠し扉の奥でほとんど見えないが、モオルダアが上体を起こして言っているらしい。スケアリーはゆっくりモオルダアの方へと近づいて行くと隠し扉の中を懐中電灯で照らした。モオルダアが倒れているすぐ横から地下へと階段が続いていた。
「まあ…」
スケアリーはそれだけを言って真っ暗な地下へと続く階段を眺めていた。
モオルダアは懐中電灯を持って階段を降りて行った。
「ちょいと危険じゃございませんの?」
「大丈夫だよ。幽霊なんか出ないから」
そう言われてスケアリーが恐ろしい形相でモオルダアを睨んでいたのだが、暗闇の中でモオルダアはそれに気付かなかったようだ。「まさか、モオルダアはあたくしが怖がっていることに気付いてあんなことを言うのかしら?」とスケアリーは思っていたが、モオルダアにそれだけの洞察力があるとは思えない。きっと冗談のつもりで言ったのだと思ってスケアリーはモオルダアについていった。彼女がこの屋敷の不気味さに怯えていると言うことはモオルダアに絶対に知られたくなかった。
「ボクが思うに、この下はもぬけのカラだよ」
「どうしてそう思うんですの?」
「彼らがこの秘密基地を放置しておくと思わないけどね。さっきの怪物を捕らえた時みたいに、アッという間に全てを無かったことにしてしまうんだよ」
「そうだと良いですわね。でもこの階段の下からあの怪物みたいなのが何匹も出てきたらどういたしますの?」
これはあまりスケアリーらしくない想像である。しかし私はこのスケアリーの考えを聞いて「DOOM」というシューティングゲームを思い出してしまった。そんなことはどうでも良いのだが。とにかくスケアリーは恐ろしくて思考が混乱していたのかも知れない。彼女は汗をかいた手に握られた銃を何度も握り直していた。
暗い階段を慎重に降りてきた二人の前に鉄製の扉が現れた。
「これはますます怪しい感じだね」
モオルダアはそう言いながら扉に手をかけたが、一瞬スケアリーの言っていた「あの怪物みたいなのが何匹も…」という話が気になって手を止めた。スケアリーの方を振り返ったモオルダアだったが、暗いためにどんな表情をしているのかは解らなかった。ただ、いつでも銃を使えるように構えている人間の緊張感みたいなものは強烈に伝わって来た。
モオルダアはもう一度扉に手をかけて、そしてもう一度スケアリーの方を振り返った。今度はスケアリーがゆっくりと頷いたようにも思えた。とにかくこの扉を開けなくては何も解らないのだから開けるしかない。
扉には鍵が掛けられていたわけでもなく簡単に開けることができた。ゆっくりと重い鉄の扉が開いて二人は中を覗き込んだ。それと同時に部屋の中から「ゴーッ」という猛獣の咆哮とともに、何かが硬いものにぶつかるバーンという音がした。
張りつめた緊張感の中にいた二人をパニックに陥らせるにはこれ以上の出来事はない。スケアリーは思わず銃の引き金を引いていた。乾いた音とともに放たれた弾丸は硬い金属の壁にぶつかって跳ね返った。それとほぼ同時にモオルダアの小さな悲鳴が聞こえた。
いまだにパニック状態のスケアリーは部屋中に懐中電灯の光を向けて彼らに襲いかかってきた相手を探した。すると、光の中に肩のところを押さえてうずくまっているモオルダアの姿が現れた。
「モオルダア!大丈夫ですの?」
「い…痛い…」
スケアリーの撃った銃の弾は壁に跳ね返ってモオルダアを襲ったようである。流れ弾というやつだろう。しかし、ここでモオルダアはもの凄く後悔していた。肩を撃たれて、反対の手で傷口を押さえている時に言うべきことは何なのか。モオルダアはいつでもそんなことばかり妄想の中でシミュレーションしてきたのだ。ここは「なに、かすり傷さ。大したことはないよ」と言わなければいけなかったのだ。例え相手がスケアリーであっても。しかし、実際にはもの凄く痛かったので、情けない感じで「痛い」としか言えなかったようだ。
スケアリーはもしかすると自分がモオルダアに大怪我を負わせてしまったと思い、慌ててモオルダアに近づいて肩の傷に懐中電灯の光をあてた。破れた上着の下にモオルダアの腕が見えた。出血はしていたが、ただのかすり傷だった。怪我の程度としては転んで擦り剥いた程度であろう。
大げさなモオルダアにあきれていたスケアリーだったが、背後に気配を感じて慌てて後ろに懐中電灯を向けた。そこには黒猫が一匹いて二人の方を見ていた。懐中電灯の光に少し驚いていたようだったが、そのままゆっくりと開けっぱなしの扉の外へと歩いていった。どうやら先ほど二人を驚かせたのはこのネコだったようだ。
「なんでネコがここにいるんですの?」
「さあね、ネコはどこにでも入り込むからね」
自分の怪我がそれほどひどくないことに気付いたモオルダアは起きあがって部屋の電気を点けるスイッチを探していた。大抵の場合、電気のスイッチは部屋の扉の隣にあるのだが、この秘密基地でもそれは同じだった。灯りを点けるとそこに現れた予想外の光景に二人は少し驚いていたようだった。
「あれ、おかしいなあ」
モオルダアの3度目の「おかしいなあ」は良い意味でモオルダアの予想を裏切った「おかしいなあ」だった。もぬけのカラだと思われていたこの秘密基地は、おそらくここが使われていた時と同じ状態だったのだ。
秘密基地というよりは秘密の研究所という感じだろうか。ここにある器具類は古すぎて現在ではほぼその役割を完全に果たすことは難しいと思われるものばかりだった。しかし、部屋のあちこちに積まれている資料などはつい最近作られた物のようだった。
「これは一体…」
最後まで言わないとどっちが言ったのが解らないが、これはスケアリーの言葉である。モオルダアはすでに部屋に散らばる資料に興味を示して、夢中になって次から次へと目をとおしていた。
「この部屋は一体何なんですの?」
スケアリーが唖然として眺めている部屋は彼女が想像していたよりも広かった。5メートル四方ぐらいのこの部屋の壁は全て金属で出来ている。以前は何かの研究に使われていたのだと思われるが、現在はモオルダアが夢中になって読んでいる資料を置く場所にされているようだ。
「ボクが思ったとおりAKB計画は続いていたんだよ」
モオルダアが興奮気味に言った。
「でも、ここは研究施設としては使われていなかったみたいですけれど」
「それはそうだけど、でも研究資料は最近のものだよ」
モオルダアの目が妙な物を発見して輝いている時にはちょっとやそっとのことでは引き下がらないのはスケアリーにも解っていた。ここは彼の話を聞くしかないのだろうか。
「キモエさんの両親は交通事故で亡くなったんじゃないみたいだよ」
モオルダアが興奮気味に話し始めた。
「この写真の撮影はあの事故の報告書に書いてあったのよりも後の日付になっているからね。あの事故はAKB計画のためにでっち上げられたものに違いないね」
モオルダアは持っていた資料をスケアリーに渡した。見るとそこには白衣を着たキモエの母と手術着のようなものを着せられたキモエの父と数名の研究員らしき人物が写っていた。
「キモエさんのお父さんは出増田清(デマシタ・キヨシ)っていうのか。なんだかあれな感じだね。しかし、どうしてこんなことになったんだろう?」
そう言いながらモオルダアは次の資料をスケアリーに渡した。それを見たスケアリーは多少の困惑を秘めた表情をモオルダアに向けた。
「どうしてこんなことが起きるんでございますの?」
スケアリーの見た資料によるとキモエの父キヨシはAKB計画のための人体実験のモルモットにされていたことが解る。
「こんな姿にされてしまって、これはまるであの怪物のようじゃございませんこと」
スケアリーの目は写真に釘付けになっている。
「そうだね。あの怪物はもしかするとキモエさんの父親かも知れないよ。でも、あれが父親だからキモエさんを守ろうとしたと考えるのは間違っているような気もするけどね。こっちの資料によるとキモエさんの父親はそんな姿になる前に実験に失敗して亡くなっているいるみたいだよ」
モオルダア渡された次の資料を見てスケアリーはちょっとムカッとしていた。
「どうでも良いですけど、資料は古い順に渡してくださらないかしら?」
「まあ、そうだけど。ボクだって上から順に見ているだけだから、時間は前後することだってあるでしょ。でも、その資料から解るのは、あの怪物は新たな生命を与えられた屍ということだよね。こんなことをキミは否定するだろうし、ボクもちょっと信じられないけどね」
めずらしくこういう現象に関して半信半疑なモオルダアであったが、スケアリーの感心はそれ以外にあったようだ。
「あたくしが腑に落ちないのはあの絵のことですわ。あれはキモエさんのお父様が描いたということですけれど、どうして自分の描いた絵にそっくりな姿に変えられてしまったんですの?」
確かにおかしな事である。キモエの父キヨシは芸術的感性によって自分の運命を予見していたとでもいうのだろうか?モオルダアはこの疑問に納得のいく説明は出来そうにないと思っていたが、これまでの出来事をつなぎ合わせたら一つの結論に達するのではないかとも思っていた。
その時二人は同時に部屋の扉の方に気配を感じて振り返った。そこには先ほど二人を驚かせたネコがいた。ネコは二人に見つかると慌てて階段を昇って逃げていった。
「ちょいとモオルダア…」
このネコの様子に何かを感じたのかスケアリーはモオルダアの方を見ていた。モオルダアもきっと似たようなことを思っていたに違いない。二人は部屋を出て階段を昇っていった。先ほどのネコの姿はもうなかったが、庭の方から自動車のエンジン音が聞こえてきた。二人は大急ぎで隠し扉を閉めると、怪物の絵を元のように壁の前に戻した。
モオルダアは誰がやって来たのかを確かめるために前庭を見渡せる部屋まで行って、窓から少しだけ顔を出して、外の様子をうかがった。庭に入ってきた車は一台だけで、乗っていたのも一人だけだったようだ。
車の中から出てきたのはクライチ君だった。クライチ君は車を降りて玄関の方へと向かって来た。それを見てモオルダアは一度スケアリーの方へ振り返ったが、彼女も自分と同じようなことを考えていることが解った。二人は玄関の内側でクライチ君が扉を開けるのを待っていた。
静かに玄関の扉が開いてクライチ君が中に入ってくると、モオルダアのモデルガンとスケアリーの本物の銃がクライチ君に向けられた。
「おい、クライチ!ここで何をしてるんだ」
モオルダアがそう言うと同時に懐中電灯の光がクライチ君の顔にあてられた。クライチ君は眩しそうにしながら両手を静かにあげた。
「特にどうってこともないんすけど。ちょっとした好奇心てやつですよ」
クライチ君はいつもの口調で説明している。
「しらばっくれたって無駄ですわ!あなたはここに何をしに来たんですの?あなた達がさっきそこの庭でしていたことをあたくし達はしっかりと見ていたんですからね」
そう言われてもクライチ君は少しも表情を変えずにニヤニヤしていた。しかし、次の瞬間にそれは一変した。クライチ君は恐怖におののきながら自分に銃を向けている二人の後ろにある螺旋階段の上の方を凝視していた。
「で、で、でたあ…!怪物だ…!」
まさか、とは思ったが二人は思わず振り返ってクライチ君が見ていた方を確認してしまった。するとクライチ君は素早く玄関の方へ向き直り、外に出ると扉を閉めて車の方へと全力疾走した。
「しまった!」
クライチ君の迫真の演技にまんまと騙されたモオルダアは扉を開けてクライチ君の方へ向けてとモデルガンを構えたがクライチ君はすでに車に乗り込むところだった。
「おい、待て!クライチ」
そう言いながらモオルダアはモデルガンを車のタイヤに向けて発射した。何発かは見事タイヤに命中したのかも知れないが、BB弾でタイヤをパンクさせられるワケはない。車は悠然と門を出て走り去っていってしまった。
遠ざかっていく車の音を聞きながらモオルダアは震えるコブシで何かを思いっきり殴りつけたいと思い辺りを見回したが、殴っても痛くないような物が見つからないので、その怒りは胸に納めることにした。
「もしかすると、あの方達はあの秘密の研究室の存在をまだ知らないのかも知れませんわ」
モオルダアよりは冷静だったスケアリーが銃をしまいながら言った。彼女の言うことも理解できる。知られたくないことはアッという間に「無かったこと」に出来てしまう組織があの秘密の研究室を放って置くはずがない。彼らはあの部屋を探すために何度もここへやって来るのだろう。
「とにかく、あの研究室の資料は全て持ち出さないといけないみたいだね」
二人は再び研究室へと戻ると出来る限りの研究資料を持ち出してスケアリーの車に積み込んだ。