「隠れ家」

22. 報告書を書く前に

 今回はあまりにも謎が多すぎて、さすがのモオルダアも報告書に「あることないこと」を書くのは困難だと思っていた。ここはせめてカメラが上手く写らなかった原因だけでも納得のいく理由を見つけたかった。

 モオルダアはまず技術者のところへ行ってあの磁力計の数値について聞いてみたが、キモエの屋敷で観測されたぐらいの磁力では電子機器に影響はないということだ。問題なのはあの場所ではなくて、あの場所にあった何かということだろう。

 異常な動作をしたカメラはモオルダアのカメラだけでなくて警察署の監視カメラもそうだった。あのカメラの前を通ったのは新米の警官だったのだが、あれは果たして本当にその警官だったのだろうか。カメラの映像を解析した技術者は、あの映像のゆがみも磁力とは関係ないと言っていた。

 新米の警官は屋敷の庭には来ていない。ということはモオルダアが写真を撮った時にあの警官が近くにいたからおかしくなった、ということではない。ここまで考えてモオルダアは自分の適当な推理があたりそうな気がして来て身震いしていた。

 警察署に連行されたのはマサシタではないし、監視カメラに映ったのは新米の警官ではない。それはあの怪物だったのだ。最初はマサシタの皮を被って警察署に入って、出る時には新米警官の皮を被っていた。悪臭も血溜まりのような液体もそれで全て説明がつく。

 例のバクテリアでマサシタを溶かして、残った皮を被っていたところを警察に捕まったのだ。そして、変異したバクテリアがマサシタの皮を分解し始めると、その時に近くにいた新米の警官を襲って、その皮を被って警察署を出たに違いない。

 それでは、どうしてカメラのや監視カメラに影響があったのか。それは、あの怪物にキモエの父親が乗り移っていたからである。実際あの怪物はキモエを守っていたのだし、それは十分に考えられることだ。霊魂というものが存在するのか、或いは人の記憶は脳だけでなく体の組織全体に刻まれているのか。いずれにしても一度死んだ人間の体を使って生まれたあの怪物が意志を持ってキモエを守るという事は何か霊的な力が働いているに違いないのだ。

 モオルダアの理論はどんどん飛躍していくが、彼としては完璧なものだと信じて疑わなかった。それから、モオルダアは立ち上がるとFBLビルディングの警備員室へ向かった。

「ちょっと、監視カメラの映像を見たいんだけど」

モオルダアが警備員室にいた警備員に言うと警備員は迷惑そうな顔をしていたが、捜査のためだと言うと渋々モオルダアに映像を見せた。

 モオルダアが見たかったのは彼らが駐車場にいた10時40分から11時までの間の駐車場の出入り口の映像だった。

「このどこかで必ず映像が乱れるはずだよ!」

モオルダアは息をのんで映像に見入っていた。しかし何時になっても映像は乱れなかった。そしておかしなことに、必ずそこを通ったはずの黒猫の姿も確認出来なかった。

「もう良いですかねえ?」

あっけにとられているモオルダアに警備員が少しイライラした感じで聞いた。

「ああ、まあ、良いけど…」

モオルダアは色々ワケが解らなくなって、また最初から考え直さないといけないと思ってガッカリしていた。

2008-06-14 (Sat)
the Peke Files #018
「隠れ家」