17. 呑川沿いのちょっとした広場
スケアリーはジエイレマイを車に乗せてこの広場までやって来た。モオルダアの指示した場所はかなりアバウトだったのだが、この周辺で車を止められそうな場所はそこしかなかったのだった。モオルダアもそこに気づいていたのか、スケアリーとジエイレマイが車を降りると、少し離れた川の方から彼女を呼ぶモオルダアの声が聞こえた。
車を降りた二人がモオルダアの方へ近づいて行った。するとスケアリーはモオルダアの顔にアザが出来ていたり、唇が切れて血が出ているのに気づいた。一体モオルダアは何をしていたのかしら?とスケアリーは不審に思わずにはいられない。そしてモオルダアはやけに緊張感のある顔つきになっていて、手にはあの武器を持っていた。棒状で尖った物が飛び出す武器の尖った部分は出しっぱなしの状態だった。
「スケアリー。彼から離れて後ろに来るんだ」
スケアリーはとりあえず言われたとおりにしたのだが、彼の手にしている物を見て「その千枚通しのような道具で何をするつもりなんですの?」と思っていた。一方でジエイレマイはそのまま歩いてモオルダアの前にやって来た。おそらくこういう状態になることをモオルダアが望んでいると思ったのだろう。
「私は危険を冒してやって来たのですよ。あなたを傷つけようなんて思っていません」
ジエイレマイはモオルダアの持っている武器が何だか知っているようで、自分はモオルダアに危害を加えないことを強調していた。そして、話を続けた。
「とても長くて複雑な話なんです」
「モオルダア。彼はあなたのお兄様のことを知っているそうですのよ」
今回はあまり喋ってない気がしたのでスケアリーの解説が入った。モオルダアはちゃんと聞いていたか怪しかったが、とりあえず軽く頷いた。
「あなたが本物だっていう証拠は?」
「私はあのファミレスにいたんです。そして人々を助けた」
「でも、どうやったんですの?」
またスケアリーが口をはさんだ。
「全て説明しますよ」
「その前に一緒に来て欲しいんだ。ボクの母親に会ってほしい」
モオルダアはこのまま入院して辛い時を過ごすと母親も降板すると思ったので、彼に母親を治してもらいたいと思ったようだ。この言葉にジエイレマイはモオルダアの悲しみとか苦しみを感じ取ったのか、同情を込めた瞳を彼に向けて頷いた。しかし、モオルダアの望みがそのとおりに叶えられることはあまりない。広場にもう一台の車がやって来て、そのヘッドライトが彼らを照らした。三人とも驚いて車の方をみたがライトが眩しくて、誰が来たのかすぐには解らなかった。
だが、少し荒っぽい運転でこの時間にこの場所へやって来る車に普通の人が乗っているような気はしなかった。ここにいるジエイレマイというのは特別な人のようだし、命を狙われているとも言っている。スケアリーは万が一に備えて銃を取り出していた。
彼らが見ている中で車から一人の男が降りてきた。そこにやってきたのは、一度ジエイレマイの暗殺に失敗しているあの男だった。その男は車を降りると、モオルダアが持っているのと同じ尖った物が飛び出す武器から尖った物を飛び出させて攻撃の準備をした。そして、大股で彼らの方へ近づいて来る。
「あの人は私を殺しに来たんです」
ジエイレマイがモオルダアにいった。モオルダアはそれまで彼の持っている尖った武器をジエイレマイの方へ向けていたのだが、この男がやって来てどうして良いのか迷い始めていた。しかし、あの武器を持っているということは、目的はジエイレマイ以外には考えられない。ということは、ジエイレマイが言っている事はやはり正しくて、彼を助けなければ「長くて複雑な話」というのは聞けなくなってしまうに違いない。
モオルダアはそう思うとここへ向かってくる男の方へ向き直った。先程のミスター・ペケとの格闘もなんとか切り抜けたし今回も大丈夫だろうと、根拠のない自信でモオルダアはここへやって来た男とやりあうつもりだった。しかし、近づいて来る男の姿が明らかになってくると、その自信はスッとどこかへ消えて行ってしまうのだった。
ライトの向こうに影になって見えていた時に、この男はもっと華奢に見えたのだが、それは間違いだったようだ。彼の顔が少し大きめだったので体が小さく見えただけだった。近づいて来るとその男は見上げてしまうほど大きい。そして、スーツの上からでも胸や肩の筋肉の盛り上がりが確認できてしまうほどムキムキでもある。さらにその表情は顔まで筋肉で凝り固まっているかのような恐ろしく冷酷さの塊といった感じだった。
包丁で刺しても、包丁が折れ曲がってしましそうだ、とモオルダアは思った。こんな男にどうすれば太刀打ちできるのだろう?ミスター・ペケなんかとは全く格が違う。
そんなことを考えている間に、男は冷酷な表情を全く変えないまま近づいて来る。モオルダアは心の中で「うわぁぁあああ…やばい…やばいょ…」となっていた。暗殺者は大股でどんどん近づいて来る。
TO BE CONTINUED