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#151 「Epoch」 2013-12-24 (Tue)

クリスマス 緊張感は いつもない

12月23日:警察署


 スケアリーはFBLで行った検証結果と警察にあるこまでの殺人事件の資料を見比べていた。FBLで行ったのは、駅前の事件の目撃者であったサンタの持っていた銃の検証だった。その結果、やはり銃弾の形跡すら残さずにあの至近距離から人を撃つのは不可能ということになった。少なくとも目撃者の持っていた銃ではそれが不可能ということだ。

 目撃者に殺人の容疑がかけられることはなく、銃も警察に戻された。だとするといったい犯人はどのような方法で被害者を殺害したのだろうか?もしかすると、凶器は銃ではないのかもしれない。ここは少しものの見方を変えてみる必要があるかも知れませんわね、とスケアリーは思った。

 銃でないとすると、他に人間の頭蓋骨に穴が開くような威力を持った武器があるだろうか?しかも、傷口は銃による傷跡とそっくりになるような。

 すこしものの見方を変えてみたところで、そんな武器は思いつかなかった。その代わりにスケアリーはあのスーパーの前で会ったゾンビのような横屁端アナのことや、そして目撃者の言っていた他の誰も見なかった犯人のことを思い出したりした。キツネ色の男。さらにスケアリーがこの言葉を思い出す。目撃者の言っていた犯人の肌の色もキツネ色と表現できるかも知れなかった。

 そして横屁端はLittle Mustaphaを救えとも言っていた。やはり今回の事件とLittle Mustaphaは何か関係があるのかしら?スケアリーはそう考えてから、自分が全く関係のないことばかり調べているのではないか?と不安になってきた。

 こんな時にはモオルダアの意見でさえ参考になることもあるのだが。スケアリーはこのままでは落ち着かなかったのでモオルダアに電話をかけてみた。

 モオルダアはモオルダアで駅前での事件を調べるために防犯カメラの映像を確認したり、色々とやっている。しかしどのカメラの映像も肝心の部分が人影になっていたり、たいした成果はなかったようだ。しかしカメラの映像を見ながらモオルダアはヘンなことを考えたりしていた。そんなところにスケアリーからの電話がかかってきたようだ。

「ちょいと、モオルダア。そちらはどうなんですの?」

「上手いこと現場か隠れてしまって上手いこといかない感じだよ」

「良く解りませんが、あまり上手いこと言えてないですわよ」

「別に上手いこと言おうとしたつもりはないんだけど。キミの方はどうなの?」

「こちらも特にありませんわよ。少なくともあの目撃者に殺人容疑はかけられませんわね。それよりも、あの目撃者の言っていた犯人のことですけれど、あなたはどう思いますの?」

モオルダアはさっきまでそのことについて考えていたのだ。ヘンなことを。そのヘンなことをここで説明するつもりらしい。

「ボクはあの話を聞いた時に最新のステルス迷彩みたいなものを想像したんだけどね。でも防犯カメラの映像を見ていたら違うような気がしたんだよ」

「見えない原因がわかったって言うんですの?」

「防犯カメラの映像を見ているとね、駅前にはサンタの格好をした人が大勢いるんだよ。ちり紙配ったりする人たちにとってあの格好は暖かいし、クリスマスっぽいってことで人気の格好なのかもしれないけど。ただ、大勢の中に一人のサンタだったら目立つけど、駅前に何人もいたら目立たなくなるよね。だからあの事件の時にも本当はサンタの格好をした殺人鬼は見えていたけど、誰も気にしなかったから見えてないも同然だったんじゃないか、って思ったんだよね」

「ただその場所を通るだけなら気づかれないかも知れませんけれど、人を殺したとなったら話は別ですわ」

「まあ、そうは思うけど」

モオルダアの考えはあっけなく否定されてしまった。

「それよりも、ニコラス刑事って方はまだLittle Mustaphaの家の監視を続けているんですの?」

「うん。まあ何かあれば連絡してくるようになってるし、今のところ何もないみたいだけど」

「そうですの。あたくし、どうしてもLittle Mustaphaという方が狙われているんじゃないかと思うんですのよ」

モオルダアはどうしてスケアリーがそこにこだわるのか気になったが、スケアリーが異次元世界から現れたかも知れない横屁端アナに会ったことなどをモオルダアに話していないから、彼には理解できないことでもあった。

12月23日・深夜:留置場


 駅前の殺人事件の目撃者であったが、今は銃の不法所持で拘留中のサンタ姿の男は体を横たえてはいたものの、眠りはせずにじっと天井を見つめていた。彼はどうすればここを出ることが出来るのかを考えていたのだが、恐らく無理であろう。「人間め…」と、彼は心の中でつぶやいていた。

 9年前のあの大量殺人でも一人だけ生き残り、そして今回は誰も見ることのなかった殺人者を目撃していた。この男にはなにか特別な能力があるのかも知れなかった。しかし、この牢屋に閉じ込められた状態では何も出来ない。男は自分の無力さに腹を立ててもいた。

 本来ならば彼がここに閉じ込められていようが、数年間刑務所で過ごすことになろうが、何でもないことなのだ。彼は普通と違う。誰も気づいてはいないが、ここに来てから一睡もしていないのだが体には何の異常もないようだ。そんな彼だがどうしてもクリスマスには外に出なければいけない理由が一つあったのだ。しかし、その目的も達成できそうにない。

 男は眠ることなくじっと天井を見続けていたのだが、ふと何かに気づいて半分体を起こすと「誰だ?」と言いながらあたりを見回した。部屋には誰もいない。しかし、誰かがささやくような声で彼を呼んだのが聞こえたのだ。隣の部屋にも誰かいるのかも知れないが、ささやき声では彼のところまで声は届かないだろう。空耳だったのか?しかし、確かに声がしたのだ。

 するともう一度声が聞こえた。男は慌ててあたりを見回したがやはり誰もいない。

「フッフッフ…。そう慌てなくても良い」

人の姿は無いが声だけが聞こえてくる。

「何者だ?」

「一度…いや、二度ほどキミには会っていると思うがね」

やはり声しか聞こえてこない、男はその声がどこからするのか解らなかったが、その姿を探すのは無駄なことに思えてやめた。

「まさかキミが持っていたとはね。気がつくまで無駄な命を奪ってしまったよ。しかし、キミはどうやら特別なサンタのようだね」

「何が言いたいのだ?」

「サンタへの手紙。つまり本物のサンタへの手紙だよ。あれを盗んだのはキミだったのだな。私の仕事の邪魔をするようなヤツは抹殺すべきだと思ったんだが、どうやらキミには目的があるようだね」

「なんのことだか解らないがな」

「隠すことはない。私がその手助けをしようと言うのだよ。良いか。明日の夕方にチャンスは訪れる。そこでキミは自由になれるだろう。そしてキミの銃も偶然目の前に落ちていたりするかも知れないね。ただし気をつけるのだ。どうやら弾丸は一発しか残っていないようだ」

「明日の夕方だな。でもどうすればその時が解る?」

「その時になれば解る。焦ることはない」

それを最後に声は聞こえなくなった。男はまた横になって、こんどは目をつむった。そして口元に引きつったような不気味な笑みを浮かべていた。

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