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#151 「Epoch」 2013-12-24 (Tue)

こっちでは いつものとおり クリスマス


12月24日:ブラックホール・スタジオ


 ここで全く雰囲気が変わっていつものようにブラックホール・スタジオ(Little Mustaphaの部屋)では主要メンバー達がクリスマスパーティーのために集まっています。もちろんその目的もいつもどおり。彼らはクリスマスのプレゼントをサンタからもらう事が出来るのでしょうか?


Little Mustapha-----今日はみんな集まりが良いね。

ミドル・ムスタファ-----そんなこと言っても、なんか不安になってたんですよ。この間は集まって確認作業出来なかったですし。

ニヒル・ムスタファ-----ちゃんとリクエストの手紙は出してくれたんだろうな?

Little Mustapha-----そんなの忘れるわけないじゃん。もう何年やってるのか?って事だしね。

Dr. ムスタファ-----しかし、また宛先を間違えるとか、そういう事もあるからな。やっぱり完成記念パーティーもいつもどおりやるべきだったんだよ。

Little Mustapha-----ボクにだって忙しい時ぐらいはあるんだし。逆に集まって変な話が始まるから間違いが起こったりするんじゃないか?とか思うんだけどね。とにかくボクらはすでにリクエストの手紙を送ることに関してはプロ並みなんだし。大丈夫だよ。

ミドル・ムスタファ-----リクエストのプロって、なんですかそれは?

Little Mustapha-----なんていうか、理想論だよ。

ニヒル・ムスタファ-----理想論って意味もよく解らないけどな。

Little Mustapha-----どうでも良いけど、集まったんだから早速パーティーを始めましょう。というか、なんでいつもこんな早くから始めるんだろうね?サンタが来るのは12時過ぎだし、9時ぐらいから始めたらちょうど良い雰囲気の時にサンタが来るとも思うけど。

ミドル・ムスタファ-----ちょっと、余計な事は言わないでくださいよ。私たちはプロ並みなんでしょ?なんか、そんなこと言ったら私たちが集まったのが間違いみたいですし…。

ニヒル・ムスタファ-----キミこそ余計なことは言わない方が良いぜ。確かに5時から飲んでるっていうのもヘンかも知れないがな。でもこれまでずっとこの方式でやって来てプレゼントに近づいて来たんだぜ。今更変えるのは逆に危険だぜ。

Little Mustapha-----なぜか最近はニヒル・ムスタファがプレゼントに関して前向きな気もするんだけど。まあ正直なのは良いことだしね。

ニヒル・ムスタファ-----そういうことじゃなくて、冷静な分析をしただけだよ。

Little Mustapha-----そんなこと言っても、キミが一番プレゼントを楽しみにしているのはバレつつあるからね。まあ、それはともかく、始めますよ。今日はいつものウィスキーに加えて特別にワインが2本もあるよ!

ミドル・ムスタファ-----ウワッ!出ましたね。ペットボトルの1リットルワイン。

Little Mustapha-----ワインなんてのは料理次第でどうにでもなるんだよ。

Dr. ムスタファ-----そんな事は聞いたことがないが。

ミドル・ムスタファ-----ワインに合わせて料理を選ぶっていうのはよく言いますけどね。

ニヒル・ムスタファ-----それで、料理は何が出てくるんだ?

Little Mustapha-----よくぞ聞いてくれました。ボクが長年研究を重ねてきて、最近になってついに達人並みになったとウワサされているタルタルソースでございます!ほら!スゴいでしょ。

ミドル・ムスタファ-----ウワッ!ボールいっぱいのタルタルソース…。

Little Mustapha-----そして、胸いっぱいの愛を!

ニヒル・ムスタファ-----そんな適当なネタはどうでも良いぜ。それよりも、そのタルタルソースは何につけて食べるんだ?

Little Mustapha-----つける、って意味が解らないけど。スプーンですくって食べるんだけどね。

ミドル・ムスタファ-----ウワッ!やっぱり…。

Dr. ムスタファ-----なんか今日はきみ「ウワッ!」が好きだな。

ミドル・ムスタファ-----そうですか?なんかネットやり過ぎですかね。

Little Mustapha-----また話がそれ始めているけど。そろそろホントに始めるよ。それじゃあ飲み物をグラスに注いで…。って、やっぱりみんなウィスキーなのかよ。

ミドル・ムスタファ-----前にも言ったかも知れませんが、ここに来たらウィスキーじゃないと雰囲気が出ないというか。

Little Mustapha-----まあ、なんでもイイや。それじゃあ今年も乾杯音頭で、せーの…!

マイクロ・ムスタファ-----…あの、ちょっと待ってください…!

一同(マイクロ・ムスタファ除く)-----ウワッ!キミいたの?!


 ということで、クリスマスイブのLittle Mustaphaの部屋ではなかなかパーティが始まらないようですが、なんとなく盛り上がりつつあるようです。

12月10日:FBLビルディング・ペケファイル課


 ペケファイル課の二人は無残に殺されたサンタ姿の青年について捜査を続けていたが、これといった進展もなかった。モオルダアの説によると悪魔を崇拝するカルト教団の仕業だとか、あるいは寂しいクリスマスを過ごす多くの人々がその他の人々を妬む気持ちが一つの大きな塊となって、それが目に見えない殺人鬼と化したとか、そんな話まで飛び出してきた。

 スケアリーもカルト教団ぐらいまではまともに話を聞いていたのだが、それから先は聞くフリもせずに他のことを考えていた。

「被害者の周辺のことは何度も調べましたけれど、本当に誰かから恨みを買うようなことのない人だってことでございましょう?だとしたら、ただ殺すことが目的の猟奇殺人で間違いないと思うんですけれど。そうだとしても、おかしな事は次の被害者が現れない事ですわね。そこが謎だと思うんですのよ」

スケアリーはモオルダアが話していた事と全く関係のない事を言ったのだが、そんなことはいつものことなので、モオルダアも普通に聞いていた。

「それは獲物がいないから、ってことじゃないかな。犯人の狙いがサンタだとしたら、あの時はまだサンタの格好は時期としては早すぎたけど、今なら充分クリスマスムードだし。キミの言うことが正しいのなら、もしかすると次の被害者が現れるのかも知れない」

「そうですわね。でも、だからといってサンタクロースの格好をしないように警告するなんて出来ませんわよ」

「そうだけどね。それよりも本当に被害者が誰からも恨みを買ってなかったのか、というとそうは思えない所もあるよね」

「あたくしはそんな風には思えませんでしたわ」

「ボクは被害者の知り合いから、被害者がFacebookに書いていた日記を見せてもらったんだけどね。それを読んでみると、どうにも気になることがあるんだよね」

スケアリーはモオルダアが珍しく何か重要な発見をしたのかと思った。

「気になることですの?」

「うん。なんていうか、こう自慢するっていうのかな。この日記にその情報は必要か?ってところで『彼女が』とか『彼女と』とかそういうことを書いてるんだよね」

「それが何だって言うんですの?」

「そんなものを読まされたら、クリスマスを一人で過ごす人達の怨念がどんどん大きな塊となっていくんじゃないかな?」

それよりも、モオルダアの得意げな表情と共にそんな話を聞かされたスケアリーの怒りの方が大きな塊となりそうだった。モオルダアはスケアリーに睨まれているのに気付いてヤバいと思ったのだが、ちょうどその時に部屋の電話が鳴って、モオルダアはビクッとなってしまった。

 ビクッとなったのを誤魔化すのに慌てたフリをして電話に出たモオルダアだったが、いつものように彼が格好いいと思っている声色で対応している。いつものことなので、スケアリーはそこは気にせずにいたのだが、電話をしているモオルダアの顔色が一瞬にして変わったのに気付いて、スケアリーもこれが殺人事件の捜査だと言うことを思い出した。スケアリーの表情にも緊張感が戻ってきた。

「またサンタが殺されたよ」

受話器を置いたモオルダアが言うと、二人は事件現場へと向かった。

同じ日 20時:事件現場


 事件現場は最初の事件があったのと同じ街のスーパーだった。まだ営業時間だったが、殺人事件が起きてしまっては営業を続けることも出来ず、すでに閉店しているのだが、周囲には沢山の野次馬が集まっていた。その間を縫ってエフ・ビー・エルの二人がスーパーの中へと入っていった。

 モオルダアは恐ろしい光景に悲鳴を上げないように心の準備をしていたのだが、入ったところは普通の閉店後のスーパーという様子だった。二人が辺りを見回していると、奥の方から前の事件で会った刑事が二人を呼んでいた。現場は店内ではなくて、その奥の事務所などのあるスペースという事だろう。

 事務所へ続く店員だけが通れる扉に向かうモオルダアは、ここでも悲鳴を上げないように、中がどうなっているのかあらかじめ予想してみることにした。しかし、スーパーの店の裏側が一体どうなっているのか。彼はそんな所に入ったことはなかったので、そういう場所で起きた凄惨な事件の様子を想像することができない。そういう状況で、モオルダアはなぜか急に先に進むのが恐くなってしまったのだが、先に進むスケアリーに隠れるようにして進むしかなった。

 スケアリーが奥のドアを開けて中を見ると「まあ…」と声を上げた。前回同様に酷い状況に違いない。モオルダアも彼女の後ろから中を覗き込んでみた。しかし、それは彼が予想できなかったような恐ろしい光景、というほどではなくて彼は少し安心したようだった。

 その安心感がモオルダアをまた「優秀な捜査官に憧れる捜査官」に戻してしまう。モオルダアはそこに遺体がないので内心ではそれが良かったと思ったのだが、優秀な捜査官としてはそれでは困る。

「遺体は?どうして遺体を動かしたんだ?」

モオルダアが刑事に優秀な捜査官らしい台詞を言った。

「なるべく現場の状況は保持しようと思ったのですが。場所が場所なもので、あまり遺体をそのままにしておくことも出来ませんで。でも検証は充分やりましたし、遺体の様子だったらここに写真も沢山ありますから」

刑事はすまなそうにしながら言うと、モオルダアに持っていた写真を渡した。モオルダアは怒った様子でそれを受け取ったが、写真を見ると、そこに写った恐ろしい遺体の様子が目に入ってきて思わず「シュワッ…!」と有り得ない悲鳴を上げてしまった。このヘンな悲鳴にはスケアリーもちょっと驚いてしまったようだが、あまりヘンな事を気にしているのを見られると自分たちの信用に関わるので気付かないフリである。

 モオルダアもヘンな悲鳴が恥ずかしかったので、そんなことはなかったかのように写真を適当に何枚か見た後に刑事に返した。

「うん。特に問題は無いようだね」

「そうなんです。遺体の状況などに関しては問題がなかったので、それもあって移送してしまったのですが。それよりも、やっぱりおかしな部分はあるんですよ」

「また銃弾が見付からないのかしら?」

「まあ、そうなんです」

「でも、あたくし気になるのですけれど、本当に凶器は銃だったのかしら?最初の事件は深夜でしたし、今回は人の沢山いるスーパー。銃声がしたら気付くんじゃないかしら?」

「でも逆に、ほとんどの人が寝ている深夜とそれなりに騒音のしているスーパーですし、消音器をつけた状態なら気付かれないかも知れません。それよりも、傷口をみたら銃による犯行以外には考えられないんですよ」

どうやらまたしても謎の部分があるようだった。そして、今回は更に興味深い事も見付かっていたようだった。

「それから、犯人の目的ですがね。もしかすると猟奇殺人なんかじゃないかも知れませんよ」

刑事は深刻な表情になってさらに続けた。

「今回も金が持ち去られるようなことはなかったのですが、店主に聞いてみるとある物が無くなっているようなんです。でも、それは気のせいかも知れないという事でもあるんですが。まあ、追々調べたら解る事ですから、そこは置いておくとして。それで何がなくなったのか、といいますとね。その部屋の隅の所にダンボールが置いてあったんです。そこには店のキャンペーンとしてやっているサンタクロースへのメッセージが書かれた用紙が入っていたそうなんですが。それが果たして犯人が持ち去ったのか、あるいはその前に店の誰かが別の場所に持っていったのか、ということですが」

サンタへのメッセージと聞いてモオルダアは急に妙な胸騒ぎのようなものを感じ始めていた。

「そのメッセージってどんな物だったんですか?」

「欲しい物を書いて応募すると抽選で何かが当たる、っていうキャンペーンという事でしたが。まあ、欲しいものを書いてもそれがホントに当たるワケじゃなくて、あらかじめ決まった物が当たるだけですけどね」

「つまり、サンタへの手紙ということか」

「それが殺人事件と関係ある、っていうんですの?」

モオルダアがまたヘンなところにこだわりだしたと思ってスケアリーが声をかけた。

「ねえ、キミ覚えてる?何年も前だけど、サンタの家でサンタへの手紙が盗まれた事件」

スケアリーは「なんの事かしら?」と思ってちょっと考えてみたのだが、あの事件は簡単に忘れられるものではなかった。そして、その事件とこの街とは何か関連があるかも知れないという所まで気付いてしまったようだ。

「あらいやだ…」

スケアリーとモオルダアは何とも言えない表情のまま目を合わせていた。

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