時間がない 最初のこれは 後回し!
12月24日:夜
モオルダアは車を降りるとすぐにニコラス刑事に電話をかけた。
「もしもしモオルダアですが。今どこですか?」
「いやLittle Mustaphaの家の近くにいるんだが、ちょっとトラブルでな…」
トラブルとはいったい何か?と思っていたモオルダアだったが、彼の近くで歓声というか奇声のような大勢の大きな声がしてモオルダアは慌てて振り返った。そこにはサンタの格好をした大勢の若者がいて、酔っ払っているのかしらないが、かなり浮かれているようだ。そして大声を上げながら道をこちらの方へ走ってきた。モオルダアは道の端に避けたが、それだけでは駄目そうだったので、ビルの入り口の少し奥まったスペースに入って彼らを避けた。サンタの格好をした若者達はフォー!っと裏返ったような声を上げながらそのまま走っていってしまった。
「モオルダア君、大丈夫か?」
電話の向こうにも今の騒ぎが聞こえたようで、ニコラス刑事が心配しているようだった。
「ああ、大丈夫ですが。それよりも銃を持った男が警察署から逃亡して、もしかするとそちらに向かうかも知れないんです」
「なんだって?!それで、そいつはどんな男なんだ?」
「かなり歳をとっているような外見ですが、一番わかりやすい特徴はサンタの格好です」
「まあ、普段ならわかりやすい特徴だがな。今はそれどころではないようだな」
「いくらクリスマスだからって、そのヘンの路地にサンタの格好は…」
「それが、サンタだらけなんだよ。どういうワケだか知らないがね。このあたりではいつもこうなんだ。クリスマスイブには大混乱じゃないことなんてあり得ないんだ。まったく。今はちょっと避難していたところだが、そういうことなら私はLittle Mustaphaの家の監視を続けるよ」
もしかすると、さっきの集団のサンタもそれだったのだろうか?とにかくモオルダアは伝えることは伝えたので電話を切ると自分の目的の場所へと急いだ。
一方スケアリーは二時間以上もかかってようやく警察署にたどり着いた。渋滞の原因がサンタの格好をした若者達が暴れているからだ、ということが解ってスケアリーは腹が立ったが、警察署に入ると予想外の光景にそんなことは忘れてしまった。暴れ回って警察に連行されてきたサンタ姿の若者達で中は溢れかえっていたのだ。
それはともかく、スケアリーは色々と調べないといけないことがある。警察署に入ると今回の事件を担当している刑事を見つけて奥にある部屋へと入っていった。
どうして留置場の扉の鍵が開いていたのか、そして、どうして逃亡したサンタが押収した銃を持ち出すことが出来たのか。スケアリーは警官達に聞いていたのだが、彼らはいつもどおり鍵は閉めてあったし、銃の保管の仕方にもミスはなかったと言っている。それを嘘だと言って疑うのは簡単だが、そんなことをしても意味がないように思えた。
警察署に入った時のあの異様な光景。サンタの格好だらけのあの室内を見たらなぜかサンタの逃亡を許した原因は他にあるようにも思えたのだった。
スケアリーは署内の監視カメラの映像を調べてみることにした。
:ブラックホール・スタジオ
Little Mustapha達はあれから何を心配して良いのか解らないまま適当に飲み続けていました。
Dr. ムスタファ-----ということでな3Dプリンタで女風呂を作ったとしてもだな、覗いたりしたら犯罪なんだよ。
ニヒル・ムスタファ-----それはいったいどんな科学なんだ?
Dr. ムスタファ-----科学でもありテクノロジーでもあるぞ。
ミドル・ムスタファ-----いや、ただの法律の話じゃないですか?そんなことよりもまだ九時なんですね。
Little Mustapha-----ホントだ。なんかプレゼントを諦めかけているから盛り上がりに欠けるんだけど、もしかすると、ってこともあるしもっと楽しくクリスマスしないと駄目だな。
犬サンタ-----そうなんだワン。でも今も楽しいと思うんだワン。
Little Mustapha-----でもDr. ムスタファの科学の話はイマイチな気もするからね。もう少し夢のあるスケベ話を聞きたいよね。
Dr. ムスタファ-----スケベってなんだ?私の話はすべて科学的な科学なんだぞ。
ニヒル・ムスタファ-----科学的っていうのは本当に怪しい言葉だけどな。
Dr. ムスタファ-----キミには科学の偉大さは解らんだろうがな。
犬サンタ-----アッ!…だワン。
Little Mustapha-----オッ!犬サンタ君がワン付きで何かに気づいたようだけど。もしかしてプレゼントの臭いが漂ってきたりする?
犬サンタ-----そんなことはないんだワン。そうじゃなくて電話がかかってくるんだワン。
Little Mustapha-----なんだ、そうなのか。
犬サンタ君が電話がかかってくると言うので一同黙って電話の方を見つめていました。そして、いつものように「なんだ、かかってこないじゃん」と言いたくなるタイミングで電話が鳴り出して、一同ドキッとしてビクッとなったのですが、恥ずかしいのでお互いそこには気づかないフリ、といういつものパターンでしたが、Little Mustaphaがいつものようにハンズフリーモードで電話に出ました。
電話-----「ちょっと、オマエら何やってるのか?ってことだけど…」
Little Mustapha-----アッ、その声はボクの背後霊の葉井後冷子(ハイゴレイコ)さんじゃないですか!
電話-----「そういうことなんだけど。うーん…。そんなことよりも、オマエら気を抜き過ぎなんだし。何にも感じてないのか?ってことなんだけど」
Little Mustapha-----何が?っていうか、背後霊が電話でそんなこと言ってもね。ボクの背後霊なんだから、キミがなんか思ってるならボクが何かを感じ取るとか、そういう感じじゃないとおかしいよね?
電話-----「本来ならそういうものなんだけど。飲み過ぎて私がどんなにイヤな予感を感じさせようとしても全然気づかないんだし。だからこうして電話してんだし」
Little Mustapha-----ええ?そんなに飲んだかなあ?まあ、いいか。それよりも何がそんなに気になるの?
電話-----「うーん…。それが解ったら苦労しないんだし。まあ万が一のことがないように、もう一度いろんなことを振り返ってみたら良いんじゃないか?ってことなんだけど。まあまあだけど…。あばよ!」
Little Mustapha-----あれ?勝手に切っちゃったけど。何だろうね?
ミドル・ムスタファ-----なんだろう?って言われても。あなたの背後霊でしょ?
Little Mustapha-----まあ、そうだけど…。
マイクロ・ムスタファ-----アッ!しまった!
一同(マイクロ・ムスタファ除く)-----ウワッ!急に喋ったからビックリ!(だワン!)
マイクロ・ムスタファ-----いや、今はそんなことを言ってふざけている場合ではないですよ。私たちはあることをすっかり忘れているのです。
一同(マイクロ・ムスタファ除く)-----あること?(かワン?)
マイクロ・ムスタファ-----そうなのです。ずっと心の奥で引っかかる何かがあったのですが、今の電話を聞いてその正体がわかりました。我々はあの留守番電話のメッセージの声のことばかり気にしていましたけど、それとは別に我々を恨んでいるような人がいたのを覚えていませんか?
Little Mustapha-----ボクらは、なんていうか人に恨まれるようなことはしてないからなあ。
マイクロ・ムスタファ-----しかし、人はどんなことで恨みを買うか解らないものです。それに、その男がどうして我々を恨んでいるのかも私には理解できないのですが。
ニヒル・ムスタファ-----それで、いったいそれは誰なんだ?
マイクロ・ムスタファ-----最初のクリスマスです。我々がサンタからプレゼントを奪おうとして集まったあの日、我々は銃を持ったサンタに襲われましたね。幸い偶然が重なって助かりましたが、あの犯人が誰だったのかまだ解っていません。
Little Mustapha-----その人が今日やってくるっていうの?去年まで来なかったのに?
マイクロ・ムスタファ-----そうです。去年まではあの謎の声が仕組んだと思われるいろいろな現象があったりしましたし、それであの銃を持ったサンタも我々に手が出せなかったのだと思うのです。でも今回は謎の声は退治されたという話です。ですから、あのサンタにもチャンスがあるのです。
犬サンタ-----そうかワン!だから過去の話を読むように、って言われてたのかワン!
Little Mustapha-----今更気づいてもなあ。
犬サンタ-----文字を読むのは大変なんだワン。仕方ないんだワン。
Dr. ムスタファ-----でも、そのサンタが来たらどうするんだ?もう私の電撃銃も長いこと使ってないしな。
ニヒル・ムスタファ-----あんなものは何の役にも…
その時です。Little Mustaphaの部屋の明かりが消えて、真っ暗になりました。
ニヒル・ムスタファ-----なんだよこれ?電撃銃の話をしただけでブレーカーが落ちたのか?
犬サンタ-----シッ!静かにするんだワン。何か気配を感じるんだワン。
Little Mustapha達は急に恐ろしくなりました。この展開はあまりにも不意打ちという感じで、しかも今回はいつものようにヘンな酒も飲んでないし、奇跡的に助かる要素があるような気もしないのです。これがただの停電であることを祈るしかないLittle Mustapha達でした。
しかし、そうではないようです。Little Mustaphaの胸のあたりに赤い小さな点が見えました。それはレーザーポインタの光が当たっているのとほとんど同じような赤い光でした。それがLittle Mustaphaの胸のあたりから次第に頭の方へと移動していきます。赤い光が一瞬Little Mustaphaの視界に入ってLittle Mustaphaが「なんだ?」と思ったと同じ時に犬サンタ君もその赤い光に気づきました。
「アッ!危ないんだワン!」
犬サンタ君はそう言いながら飛び上がりました。それと同時に銃声が響き渡ります。
「キャイーン…だワン…」
銃声が聞こえてLittle Mustapha達はパニックになりました。
Little Mustaphaは頭を抱えてうずくまり、ミドル・ムスタファは這って逃げる場所を探しています。Dr. ムスタファはちょうど電気のスイッチの近くにいたので、スイッチを何度も動かして明かりを点けようとしていました。ニヒル・ムスタファは、どうやら腰を抜かしているようです。
しばらくそんな感じだったのですが、銃声の後に何も起きないので彼らも次第に落ち着きを取り戻してきたようです。そして、また部屋に明かりが灯りました。