二回目の ペケファイル課と クリスマス!
今回は二度目のサイト内コラボ企画でthe Peke-Filesの二人も登場するのでthe Peke-Filesの登場人物紹介なども参照してください。
12月25日:いつもの街
防弾チョッキを身につけた警官達が取り囲んでいるのはLittle Mustaphaの家だった。暗い深夜の静かな街だが、何かのきっかけで大きな騒ぎが起きるような、そんな気配が漂っていた。警官達は指示があるまで待機している様子だったが片時もLittle Mustaphaの家からは目を離さなかった。
そこへ少し離れた所からエフ・ビー・エルの二人が小走りにやってきた。
「何か動きはありましたの?」
スケアリーが警官の一人に聞くと警官は首を振った。
「スケアリー、行こう」
モオルダアが言うとスケアリーも頷いてLittle Mustaphaの家の玄関の方へと向かって言った。その後に警官達も続いた。そして、こういう状況でいつもそうするように、スケアリーは銃を取り出し、モオルダアはモデルガンを取りだして、二人とも銃口を上に向けて構えるとドアの両脇に立った。
モルダアがドアノブに手をかけてゆっくり回してみると、ドアには鍵がかかってないことが解った。スケアリーにそのことを目で合図すると、彼女も了解したようだった。そして、次の瞬間、モオルダアがドアを開けると、二人に続いて警官達も一斉に家の中へ入っていった。
彼らが家の中に入ると、それぞれが手分けして一部屋ずつ確認して回った。モオルダアは一階の部屋を、スケアリーは上の階。その他の警官達は適当に慌ただしく家の中を確認して回っている。
モオルダアはモデルガンの銃口を踏み込む先に向けて構えながら一部屋ずつ確認したが、一階にある最後の部屋でも特に異常はなかった。するとその時上の階でスケアリーが少し取り乱したような大声を上げた。
「モオルダア!モオルダア!」
モオルダアはハッとして振り返ると、階段を上って上の階へ向かった。そこには部屋の外の廊下からドアの向こうの部屋の中を見つめるスケアリーの姿があった。
「一体どうしたって言うんですの!?ここの人達は?Little Mustapha達はどこへ行ったと言うんですの?」
スケアリーは状況が理解できていないかのように、沸き上がる疑問をそのまま口にしているようだった。その様子からはいつもの冷静さは少しも感じられない。
モオルダアは彼女の隣まで来ると、そこから部屋の中を覗いてみた。それを見て、思わず変な悲鳴を上げそうになったモオルダアだったが、今はそれなりに緊張感があったので、なんとか情けない悲鳴は上げずにすんだようだ。
しかし、部屋の中は異様だった。それは血なのか、あるいは何か他の液体なのか解らないが、床一面、そして壁にもかなりの量が飛び散っていたようだが、赤い液体で覆われていた。赤いというのは、恐らく間違っているかも知れない。今はそれが変色して黒に近い茶色に変わっているのだが、それがあまりにも血のように見えるので、見た瞬間それは血の色、すなわち赤に見えたのだろう。そしてそこに遺体が転がっていたりでもしたらモオルダアは悲鳴を上げるどころか卒倒していたかもしれないが。
しかし、もし本物の血だとしたら、あの特有の臭いがしていたはずだが、それは僅かに感じるだけだった。一体この部屋で何があったのか。そして、ここにいるはずだったLittle Mustaphaはどこにいるのか?
「一体何が起きたと言うんですの?!」
スケアリーがまた言ったが、モオルダアに解るワケもない。スケアリーとしてもモオルダアが知っていると思って言ったのではないが、何かを言わずにはいられなかったようだ。
12月1日:事件現場
話は遡って一ヶ月前の12月1日。ペケファイル課の二人はいつものように厄介な事件の捜査にかり出されて事件現場へと向かった。ペケファイル課的に「やっかい」というのはモオルダアにとっては盛り上がる事件で、スケアリーにとってはウンザリするような事件に違いないのだ。解りやすく言うと超常現象とかそういうことが絡んでいそうな事件なのである。
今回はどんな事件なのだろうか。現場に到着した二人が事件のあったアパートの一室に入ると、そこでいきなりモオルダアの変な悲鳴が聞こえてきた。彼は恐らく殺人事件があったということは聞かされてなかったのだろう。スケアリーはモオルダアがこの変な悲鳴を上げる度に彼と一緒にいることがスゴく恥ずかしくなるのだが、そこは気付かないふりをして現場にいた刑事に話を聞くことにした。
そこで殺されていたのはサンタクロース、ではなくサンタクロースの格好をした男だった。だいたい、その格好をサンタクロースとすることを誰が決めたのか?という所から考えたらそれは誰の格好か解らないのだが、とにかく赤い服に白のアクセントのある一般的にサンタの格好と言われている格好をした男が椅子に座った状態で殺されていたのである。
ヒゲは偽物で、突き出したお腹も服の下に詰め物をして太っているように見せているだけで、その男はかなり痩せ形という感じの体型だった。恐らくまだ20代かそこらであろう。頭部を銃で撃たれたために顔の半分は血で薄暗い色に染められて、そして元はフサフサしていたであろう白い付け髭も、血によって固められてモップの先端のようになっている。その下には男の細くこけた頬と何かを叫び出しそうに開いた口が覗いている。そして、まだ男の目は殺人の瞬間の恐怖を焼き付けられたかのように開かれたままなのだった。
モオルダアは遺体も血も苦手である。なのでこんな所にはあまり長居はしたくなかったのだが、殺人現場に彼らが呼び出されたということはそれなりに面白い話があるに違いないのだし、逃げ出すわけにも行かなかった。しかし、ちょっとでも遺体の方を見ると、虚ろに開かれたままの男の目がモオルダアを見つめているようにも思えて来る。モオルダアは刑事が早いとこ事件の謎の部分とかを話し出さないかと思っていた。
刑事はまだ死亡推定時刻やら死因についての話をしていた。スケアリーは真面目に聞いていたが、モオルダアとしては、そんなことは警察が知っていれば良いという情報だとも思っていた。犯行はどうせ深夜に違いない。なぜかは解らないが、なんとなく部屋がそんな雰囲気だし、昼間にこんな風に残酷な感じで殺される殺人事件は起きて欲しくない、というモオルダアの考えだが。
「ちょいと、モオルダア!聞いているんですの?」
モオルダアが話を聞いてないようなのは、その態度から明らかに解ったのでスケアリーが言った。モオルダアは「ああ」と答えたが、それはウソなのはバレている。
「それよりも、ボクらがここに呼ばれたということはそれなりの理由があると思うのですが。例えば宗教的な儀式の痕跡があるとか、使われた凶器が変だとか、あるいはその人が人間じゃないとか…」
モオルダアは自分でもこのまま話していると収拾がつかなくなりそうなので、そこで止めた。すると刑事が小さく「うーん」と唸ってから話し始めた。
「確かに、あなた方を呼ぶのには理由があったんですよ。でも、それが我々の早とちりだったとしても気を悪くなさらないで欲しいのですが。要点を言いますとですね。まず第一に、被害者は銃で殺されたのは明らかなのですが、銃弾が見付からないんです」
確かに「うーん」と唸ってしまいそうな話だった。それは超常現象なのか、どうなのか。
「それはおかしいですわね」
モオルダアがおかしな話を始める前にスケアリーが話し始めた。そうしておかないと、モオルダアが自分勝手にオカルト話を始めてしまう可能性があるので、そのまえに考えられる事をスケアリーが確認しておかないといけないのである。
「被害者は正面から銃で撃たれて、銃弾は額から後頭部へ貫通していますわ。そして、この現場の状況からして、被害者はここで殺されたのは明らかですわね。この床に広がった血からもそれが解りますわ。他の場所で殺されたのならこうはなりませんわね」
スケアリーの言ったことは現場を見たら誰にでも解りそうな事だったが、それによってモオルダアに変なことを言わせなくする効果はあったようだ。
「ちょっとでも証拠を減らそうとして、犯人が見つけて持ち去ったんじゃないの?」
モオルダアは自分で言って、なんでこんな適当な推測をするのか?と思ってしまった。
「銃の持ち主が登録されているような場合は、銃弾から犯人を推測することが出来ますがね。そういうのはアメリカとかそういう所では良くありますけど。日本でも猟銃は一般の人でも持つことが可能ですが、銃創の状態から推測しても猟銃ではないですし…」
じゃあ、犯人はアメリカ人かな…とか言いそうになったモオルダアだったが、この状況でそれを言ったら冗談にもなりそうになかったのでやめにした。このままではせっかく呼ばれたのに優秀な捜査官らしい所を全く見せられない。そこでモオルダアはちょっと話を変える作戦に出た。
「それよりも、さっき第一に、って言ってましたよね。まだ不可解な点があるんじゃないですか?」
モオルダアが言うと、刑事はまた「うーん」と小さく唸ってから話し始めた。
「犯人の目的なんですがね。それが謎なんですよ」
「謎?」
「まあ、猟奇殺人だとしたら話は別ですが。被害者の交友関係を調べてみても、彼が銃で殺されるなんてことは考えられない、っていうのが我々の見解なんですが。それに、このサンタの格好ですけど。これは子供達のためにボランティアでやってた事らしいんですよ」
それを聞いて、この哀れな被害者に同情してしまったのか、エフ・ビー・エルの二人は無意識のうちにお互いに目を合わせてからまた刑事の方を見た。
「何かなくなっているものとかはありませんの?被害者の持っている物が目的だったかも知れませんわよ」
「しかし、特に部屋が荒らされた形跡もありませんし。やはり謎が多いのです」
刑事がそう説明すると、モオルダアは心の奥の暗がりで何かが蠢いているような気分になってきた。何かは解らないが、自分は重要な何かを見落としているとか、そんな感じだった。
モオルダアもまた「うーん」と唸るしかないようだった。