クリスマス こっちはそれから ドンドコショ
:こっちのLittle Mustaphaの部屋
Little Mustapha達がサンタの酒を飲み続けていつの間にか「どうでも良い荒野」へと消えてしまった後、しばらくは静寂が暗い夜を支配していました。そしてそのまま12時になり日付が変わった頃、この部屋からベランダへ出られる大きな窓が開きました。そして、誰かが入ってきたようなのですが、その姿はよく見えません。それは辺りが暗いからなのか、他に理由があるのか。すると、その窓とは反対の奥の方から声が聞こえてきました。
「オーホッホッホッホ!驚いたかね?」
それは何度か聞いたことのある声。Little Mustapha達とも何度も会っているあのサンタの声のようでした。(厳密に言うとサンタの事業は他のサンタに引き継がれたので、なんと呼んだらいいのか解らない人ですが。)
「なぜだ?どうしておまえがここにいる?」
サンタの声を聞いて窓の方からも聞いたことのある声がしました。それは留守番電話に謎のメッセージを残すあの声と同じでした。
「今度こそ終わりにしようじゃないかね。悪魔のような男。いや、裏ムスタファ君」
裏ムスタファ君とはどういうことでしょうか?彼もLittle Mustapha達の仲間なのでしょうか?でも、この恐ろしい男が仲間とは思えませんが。
すると今度は裏ムスタファ君と呼ばれた男の背後から別の声がしました。
「どうして彼らを苦しめるのです?」
そこにはサンタの孫娘さんと、その背後には筋骨隆々のトナカイ兵士、通称筋肉トナカイさん達がいます。
「あいつらは偽善者だ。生きている価値もない。私が彼らに変わってこの世界に生きて、そして真実を知らしめるのだ」
「あなただって元は彼らの中に生きていた。それを忘れたのですか?」
「そんなでたらめは通用しないぞ」
「どうやら話しても無駄なようだな。裏ムスタファ君。これでキミも最後だよ。オーホッホッホッ!」
サンタがそう言うとあの何時もはプレゼントが入っている袋から何かを取り出しました。裏ムスタファの背後でもサンタの孫娘さんが何かを取りだしたようです。
「まて、何をする?おまえ達に私は殺せない。解っているだろう?私を殺せばLittle Mustapha達も死ぬ。それでおまえ達はずっと私を殺せなかった。その優しさのためにな。それを知って私は今日の勝利を確信したのだよ。最後なのはおまえ達だ。フッフッフッフッフ…!」
「オーホッホッホッ!残念だったね裏ムスタファ君。Little Mustapha達は今『どうでも良いこと』になっているのだよ」
「なんだって?!どういうことだ?」
「どうでも良いことはどうでも良いんです」
そう言いながらサンタの孫娘さんが部屋の中に入ってくると、サンタとサンタの孫娘さんの持っていたものが明るく輝き始めました。彼らの持っているのはロウソクのようでした。サンタの国のサンタのロウソクなので、それはただのロウソクではないに違いありません。そして、さらに筋肉トナカイさん達も部屋に入ってきて彼らの持ったロウソクに火を点けました。
すると、今までほとんど姿の見えなかった裏ムスタファの姿がロウソクの炎に照らされるようにして次第に明らかになってきました。その顔はLittle Mustaphaのようでありミドル・ムスタファのようでもあり、ニヒル・ムスタファのようでもあり、Dr. ムスタファのようでもありました。…アッ!そしてマイクロ・ムスタファのようでもありました。
ただ、その邪悪な眼からは彼らを感じさせるものは全くありませんでした。そして、その肌は血を固めたような濃い赤、別の言い方では茶色でした。それは、ぎりぎりキツネ色と言えるかも知れませんが。
「やめろ!何をするんだ」
裏ムスタファの方へロウソクを持ったサンタ達が近づいてきました。すると裏ムスタファの顔が恐怖で引きつりました。そして、彼の顔には汗が噴き出してきたようです。
全身から出ているのは本当に汗なのか?それは裏ムスタファの着ているサンタの服をぐっしょり濡らしています。そして服からあふれ出すようにして、汗のようなものが滴り落ちてきました。それは彼の肌と同じ血のような色をした液体でした。
「やめるんだ!」
サンタ達がさらに近づくと、裏ムスタファは苦痛に顔を歪めました。それと同時に、彼の全身が本格的に溶け始めて腐ったトマトのようにグジグジな状態になっています。
「ぅぅうううああああ…!」
自分の体が溶けていく苦しみから逃れようと、裏ムスタファは最後の力を振り絞るようにして身もだえながら唸ったのですが、最後にはプチッと何かが破裂するような音がして、彼のかろうじて原形ををとどめていた体は水風船が割れるようにして崩れてしまいました。そして部屋一面は赤い液体で覆われました。
サンタ達はしばらく床を見つめていましたが、サンタの孫娘さんが口を開きました。
「終わりましたね、おじいさま」
「そのようだね。オーホッホッホッ!さあ行こう。また後始末が大変だぞ」
「はい、おじいさま」
サンタ達はベランダに出て行くとそのままどこかへ消えてしまいました。特にソリとかはなかったようですが。
:FBLの二人
モオルダアとスケアリーはLittle Mustaphaの家へと向かっていたのだが暴れ回るサンタの格好の若者たちのために交通はほとんど麻痺状態になっていて、なかなか先に進めなかった。付近にいた警官達をLittle Mustaphaの家に向かわせたのだが、その付近にもこの暴れ回るサンタ達がいるとしたら、Little Mustaphaの家の監視などは出来ないだろう。
スケアリーはイライラしながら車を運転していた。いっそのこと車を乗り捨てて歩いていきたいとも思ったのだが、サンタ達が暴れて、いろんな物が飛び交っている状態の中を進むのは危険だった。
スケアリーは自分が無駄なことばかりして捜査に時間がかかったのではないかと少し後悔していた。特にゾンビ風の横屁端アナやキツネ色の男のこと、そしてそれに関して直感的に何かを感じていたものの、その直感を信じなかったことに対して自分に腹が立っていた。
時計を見ると、もうすぐ日付が変わるようだった。スケアリーは一つ大きなため息をついてから口を開いた。
「モオルダア、どう思います?Little Mustapha様は無事なのかしら?」
「どうだろうね。ニコラス刑事があのサンタを逮捕した後も、Little Mustaphaの家からは人のいる様子がうかがえた、ってことだけど。でも、サンタの格好をしているくらいだしね。そのキツネ色の男っていうの。もしかすると日付が変わるのを待っているのかも知れない…」
そんなことを言いながら時計を見たモオルダアだったが、12時まではあと数分しかなかった。スケアリーの表情が不安で曇っていくのが解ったモオルダアは余計なことを言ってしまった、と思っていた。
そして車がほとんど動かないまま、日付が変わった。辺りで暴れ回っているサンタ達は相変わらずだったが、しばらくたつと次第にその数が減っていることに気がついた。そして、全く動かなかった大渋滞も次第に解消されてきた。
「どうしたのかしら?暴徒達が…」
車がスムーズに進めるようになると、サンタの格好をした暴徒達の姿は全く見えなくなっていた。モオルダアは「キツネ色の男が仕事を終えたのか?」と思ったのだが、口にするのはやめておいた。
車が動き出すとすぐにLittle Mustaphaの家の近くに着いた。彼らは車を止めると大急ぎでLittle Mustaphaの家の方へとやってきた。
そして家の中に入ると誰もいないLittle Mustaphaの部屋が赤黒い液体で覆われているのを発見したのである。