ここはとあるテレビ局のスタジオ。特に異常事態のなかった昨年に続き、今年はステイホームな一年になったこともあり、毎年近くの街で起きる怪現象をリポートしてきた局の女子アナ達もまともに女子アナ業する日々を送っていたのである。
騒がしく、やかましく、そして時には真剣なフリもしてリポートを続けた女子アナ達。そんな中で意外なしたたかさを発揮したのが、食いしん坊がウリの腹パンこと腹屁端アナであった。最近ではスタジオで昼のニュースを読み上げていたりするのだ。
そしてちょうど今、生放送が終わって腹パンがスタジオから出てきたところである。いつものように一息ついてから腹パンがスマホを確認すると「お電話お待ちしております」のメッセージが。これを確認して腹パンはさらにもう一息ついてから、電話をかける。呼び出しの音が鳴ったと思ったらすぐに相手は電話に出たようだ。
「ハーイ!こちら人気女子アナのウッチーです」
「ウッチー先輩。何か御用でよろしかったでしょうか?」
「今日はたまたまスケジュールが空いてたから、昼のニュース見てたんだけどね。腹パンだいぶ上手くなってきたな、って思ってたの」
「そうですか。ありがとうございます」
「でもね。一つだけ言わせてもらっても良いかな。こんな事は私が言うことじゃないかも知れないんだけど、先輩としては言っておいた方が良いかな、って思ったの」
「なにか問題でしょうか?」
「あのね。なんていうのかな。まだ表情が硬いのよね。ニュースだからって硬ければ良いって事じゃないの。かと思ったら、真面目なことを言ってるのに、時々グルメリポートのノリになるでしょ?これも問題よね。でもいつでもそれがダメって事でもなくてね。ほら、今日も途中でパンダの亀蔵(カメゾウ)のニュースがあったでしょ?ああいう時には軽くやっても良いんだけどね。先輩風ふかすワケじゃいないんだけど、気になるな、って思ったから」
「えーと、一つといったのにずいぶん言ったと思われますが。これからは気をつけたいと思います」
「あと、コレだけは言っておかないと、って思ったんだけど。番組内で訂正が入ると思ったら何もなくてビックリしたんだけどさあ」
「そんな重大な間違いがあったでしょうか?」
「海外の医療の話題の時にエヌ・ジー・オーとか言ってなかった?」
「えーっと。それが何か問題でしたでしょうか?」
「もぉ、コレだから若い子は…。良く覚えておいて。あれはンゴって読むの」
「いや、あれはエヌ・ジー・オーであっていたかと…」
「それって、一番やっちゃいけない間違いよ。だってナトーはエヌ・エー・ティー・オーって読まないでしょ?」
「それはそうですが…」
「これからはちゃんと気をつけるのよ」
「解りました…。えーと、話は以上でよろしかったでしょうか?」
「ああ、そうそう。こんな事のために電話したんじゃないのよ」
「電話したのは私ですけど…」
「それはどうでもイイの。腹パン、今年のクリスマスはどうなってるの?」
「クリスマスですか?それはもちろんイブの方と思われますが、今年もクリスマス特番でリポーターをやることになっています」
「まあ、そんなことじゃないかと思ったんだけど。でも今年はどうせ『人が少ないですねえ…』なんて話になるでしょ?それじゃ、全然面白くありません!って感じでしょ。そこで、ウッチーがスゴい事思い付いたの。でも、これは聞かれたらマズいから、またあとで連絡するわね」
「そうですか。それじゃあ、私の方から企画を…」
腹パンが話そうとしたのだが、人気女子アナのウッチーは言いたいことだけ喋ってさっさと通話を終了してしまったようである。
ずいぶん出だしが長くなってしまったのだが、これは毎年恒例のクリスマスの話なのである。