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#192 「リポータル」 2020-12-25 (Fri)

 クリスマスの話であると書いたのだが、今はまだクリスマスよりも少し前。そして、場所はいつものブラックホール・スタジオ(Little Mustaphaの部屋)ではなくて、さっきのテレビ局のスタジオのままである。

 先輩と電話での面倒なやりとりを終わらせてホッとしていた腹屁端アナだったが、そこへ近づいて来たのは、彼女の後輩アナでもある亜毛パンこと亜毛屁端アナ。

「おはようございます、腹パン先輩。今日も昼のニュース最高でしたぁ」

「これは亜毛パンでよろしかったでしょうか。でも今ウッチー先輩から指導を受けていたところで、まだまだ勉強しないといけないと思っています」

「そうでしょうか。でも確かにエヌ・ジー・オーはマズかったですね。この前もンポをエヌ・ピー・オーなんて言ってましたよ」

「亜毛パンまでそんなことを言うのですか?これはちゃんと調べないといけませんね。あとでWikipediaで検索してみたいと思いまぁす」

「ところで、先輩。これから一緒にランチでもいかがですかぁ?」

「えーっと、実はニュースの前にお弁当を箱ごといただいているのです。しかも夕方はまたグルメリポートということで、胃袋の空きの方が少なくなっているのですが」

「そうですか。ちょっと良い情報を入手したのでお話ししたかったのですが、ここでは人に聞かれるからマズいと思ったのです。先輩はクリスマスの予定は、いつもどおりでしょうか?」

「はい、そのようになっております」

「では、あとで連絡しますから、よろしくお願いしまぁす」

この亜毛屁端アナはウッチーの天敵ということもあって、ウッチーと仲の良かった腹パンとも関係がよろしくなかったのだが、女子アナの本能からなのか、順調に出世している腹パンに取り入ろうとしているようだ。

 しかし、ウッチーに続き、亜毛パンからもクリスマスについての話があると言われた腹パン。もしかして、コレは中間管理職の板挟み状態みたいなことでよろしかったでしょうか?と、あまり穏やかな気分ではなかったのである。

 さて、この話は毎年恒例のクリスマスの話なのでそろそろブラックホール・スタジオ(Little Mustaphaの部屋)の様子を見てみることにする。さっきのテレビ局での出来事のあったのと同じ頃。それはクリスマスを間近に控えた午後。

 今年はリモートでクリスマスパーティーを開く事になって少しテンションの低いLittle Mustapha。そして、クリスマスの日に誰もこの部屋に来ないとなると、一人で恐ろしい事に巻き込まれるかも知れないと思って少し憂鬱にもなっていました。

 だからクリスマスっぽいことは何もしていないし、それにコレまでだってこんなに早くからクリスマスの準備なんてした事もないので、ここでブラックホール・スタジオ(Little Mustaphaの部屋)を覗いてみるのは間違いだったようだ。

 せっかくブラックホール・スタジオが出てきたのだが、ここは話を女子アナ達の方へ戻すことにする。

 数日後のことである。腹パンこと腹屁端アナは先輩の人気女子アナのウッチーのさらに先輩である元祖ウッチーの経営するウッチーのリコール社へやって来た。ちなみに、数日経ったがブラックホール・スタジオ(Little Mustaphaの部屋)ではまだ何も起きていないので心配はいらない。

 腹パンがここへやって来たのは取材のためではない。彼女が数日前に不安に思っていた事が現実になりつつあり、困っていた彼女が助けを求めにやって来たのがここなのである。


「はーい、こちらウッチーのリコール社・社長のウッチーこと内屁端でぇす!このたび、わたくし社長のウッチーが大変忙しい中、無理を言ってアポをとって私に会いに来た腹屁端アナとはあなたの事ですかぁ?」

「はい。私が腹パンこと腹屁端でよろしかったでしょうか。女子アナをやめて社長になって久しい内屁端社長ですが、現役女子アナをしのぐ見事な登場だったと思います」

「それは当たり前の事なのです!一度身につけた技術を簡単に忘れてはいけないと思いませんかぁ?」

「はい、まことにそのとおりでよろしかったでしょうか」

「それは大ハズレ!なんとですね。今の登場の仕方は女子アナとはちょっと違う社長の喋り方なのです。アナウンサーとしてはそのぐらいは気付かないといけません」

「そうでしたか。気付かずに失礼いたしました。ところで、そろそろ本題に入ってよろしかったでしょうか?」

「よろしいもなにも、無駄話が多すぎます。ビジネスは短く簡潔に、ですよ」

「はい、すいません。実は、今日ここに来たのは…」


 ここで意味が解らない人のために説明しておくが、今腹パンと喋っているウッチーというのは、最初に電話で話していたウッチーとは別の人である。社長のウッチーはかつての人気女子アナで、当時新人女子アナとして入社したのが現在の人気女子アナのウッチーなのだ。入社時は須樫屁端(スカシヘバタ)という名前だったが、人気女子アナのウッチーが社長になる時に、人気女子アナのウッチーの名を襲名したのである。


 余計な事を書いたかも知れないが、さっきの続きである。

「実は、今日ここに来たのは、女子アナ間での醜い争いを終わらせるための助言をいただきたいと思ったからなのです。以前から私が慕っていたとある先輩アナ、そして最初は生意気だと思っていたけど、意外と素直なところもあって可愛く思えてきたとある後輩アナ。この二人がお互いをつぶし合おうとしていて、そして二人ともその争いに私の立場を利用しようとしているのです。このままでは女子アナ界が崩壊してしまうような気がしてきたのです」

「あなたは女子アナの問題を一企業の社長に解決してもらおうと思っているのですかぁ?」

「いや、そうではなくて。元人気女子アナのウッチー社長になにか良いアドバイスがもらえないかと思ったもので」

「そういうことならお答えしまぁす!私が思うに、それこそが女子アナの本来の姿ではないでしょうか?他人を利用し、ライバルは蹴落とし、そして頂点を目指す。そうすることでやっと真の人気女子アナとなる事が出来るのでぇす!」

「そんな…、ドロドロしたことでよろしかったのでしょうか…」

ウッチー社長の言葉に腹パンがうろたえたようなそぶりを見せると、これまで笑顔だったウッチー社長の表情が一変して真顔になった。

「あなた、女子アナってどういう意味だか解る?」

「えーっと、女子のアナウンサーということでしょうか?」

「そう。でもアナウンサーの意味をわかってないよね。アナウンサーっていうのはね、アナのウンサーなのよ」

「ウンサー…ですか?」

「最近の若い子はそういうところが解ってない人が多いの。でも私が人気女子アナの座を簡単に須樫屁端に譲ったのも良くなかったわね。彼女にももっとウンサーを理解して貰うべきだったわ。そこは私も反省しなきゃいけないんだけど」

「はあ…」

「あなたね」

「はい」

「あなたがここに来た時から私はあなたに強いウンサーを感じてたの」

「ウンサーを…?」

「そしたらあなたが女子アナ界の未来を心配しているような事を言い出すし。これはもしかすると、って思ったんだけどね」

「なんでしょうか?」

「あなたは女子アナにバランスをもたらす者かも知れないの。それは選ばれし者ってことなの」

「なんだか意味が解らなくなっているのですが。まずはウンサーとはなにか…」

「はい、ここでお時間が来てしまったようです!もっとお話を続けたいところなのですが、ただいまウッチーのリコール社はウイルスとワクチンとリコールで大忙しなのです」

「エッ、なんでしょうか?今の発言はニュースを読むようになった女子アナとしても気になるところですが。この会社でワクチンなんか作ってたらスクープじゃないでしょうか?」

「それでは、この会合はここで終了でぇす!」


 結局なにも解決しないまま、さらに最後のウッチー社長の発言が気になって仕方がない状態で、腹パンはウッチー社長の部屋を出なければならなくなったのである。しかし、この腹パンの会社探訪はコレだけで終わらなかったのである。

 腹パンが会社のビルの外へ出てくると、そこで待ち構えていたかのように現れたもう一人の女子アナ。

 それは地獄へ行ったり、異次元に取り残されたりして、今ではウッチーのリコール社の専属女子アナという良く解らない立場になった横パンこと横屁端であった。