他の二人が罵り合う声を聞きながらうずくまっていた腹パンだったが、ふとあることを思いだして自分のカバンの中を覗き込んだのだった。
「やっぱり持つべきは良き相談相手でよろしかったでしょうか。あの時、横パン先輩に出会って本当に良かったと思われます。なぜなら、私のためにホントに良く効くという胃薬を用意してくれていたからなのです。あの二人があの調子なので、ここは腹パンが責任を持ってリポートを最後までやり遂げるしかないようです」
ウッチーと亜毛パンはまだやり合っていて、そんなことには気付いていないのだが、番組を最後まで無事に放送させるために立ち上がった腹パンである。
「さあ、この胃薬を飲んで、頑張ります。それでは早速いただきまぁす!…うーん。私胃薬というものを初めて飲みましたが、この口の中でシュワシュワとはじけるような感じ。そして、ものすごく苦いですね。これで、最後のリポートも頑張れるかと思われます」
最後のリポートの時間が迫って来たのだが、ウッチーと亜毛パンはかなりヤバいと判断したスタッフは腹パンにカメラを向けていた。
腹パンもそのつもりで、最後にリポート予定だった場所。亜毛パンの言うところによるとモンスターが出現するという場所へ向かおうとしていたのである。しかし、リポートが始まる直前になって腹パンにまたしても異変が起きたようだ。
「ウプゥ…。…ウプゥ!」
これは胃の方からややこしいものがこみ上げてくる時の音ではないだろうか?この調子だとスタジオからこの場所へカメラが切り替わった瞬間に盛大な噴射が映し出されることになりそうである。
スタッフ達は慌てて元の場所に戻ってほとんど取っ組み合いになっているウッチーと亜毛パンにカメラを向けた。そこへスタジオのキャスターからの音声が届く。
「それでは、現場から腹パン…ではなくて、ウッチーに亜毛パンですか?…はい。最後のリポートはどうなってますか?」
ウッチーと亜毛パンが驚いてカメラのに顔を向けると、二人の顔にはそれぞれ一つずつ青アザが出てきている。
「はい、こちらウッチーでぇす!」
「こちら亜毛パンでぇす!」
「今日の締めくくりは私達仲良しコンビでお送りしたいと思いまぁす!亜毛パンはクリスマスの思い出って言ったら、どんな感じ?」
「そうですねえ。やっぱり現役合格して入った一流大学で仲間と楽しく過ごした学生時代のクリスマスが思い出に残ってますね」
「それは仲間じゃなくて素敵な彼と、じゃないんですかぁ?」
「もお、やめてくださいよぉ、ウッチーさんたら。…あっ!?」
ウッチーと亜毛パンの偽りのリポートが続いていたのだが、亜毛パンがあることに気付いて固まってしまった。それを見たウッチーもあることに気付いて驚愕している。
彼女達の視線の先には、先程内臓から怪しい音を発していた腹パンの姿があった。もしかして、今日食べたもの全てが勢いよく吐き出されているのではないか?と思ったのだが、それだけで驚くような女子アナ達ではない。
腹パンの口からは何かが吹き出しているが、吐瀉物という感じの出方ではない。それは吐き出されるとすぐにフワフワとした煙のようになって、それがさらに固まって繊維状になっているように見える。そんな謎の物質を延々と吐き出しているのだ。
「はい、こちら現場のウッチーです!みなさん、大変な事が起きました!急遽予定を変更してあちらをご覧ください!」
「はい、こちら同じく現場の亜毛パンです。なんとクリスマス特番最後に大事件が発生してしまいました!」
「これから私達仲良しコンビが危険を顧みずもっと近寄ってリポートしたいと思いまぁす!行きましょう亜毛パン」
「はいウッチーさん」
偽りの仲良しコンビだが、この異常事態なのでそれは気にすることもない。
「みなさん、ご覧いただけますでしょうか?ここにいるのは、お馴染みの食いしん坊の腹パンこと腹屁端アナなのですが、口から謎の物質を吐き出し続けているのです。このフワフワした物質は一度腹パンの頭の上に吐き出されると放射状にゆっくりと落ちてくるのです。かなり軽いもののようで、それは地面まで落ちずに腹パンの周辺に膜のようなものを形成しています!」
「はい、こちら隣にいる亜毛パンですが、只今入った情報によりますと、先程腹屁端アナが何かの薬のようなものを飲んでいたようです。それがこの現象と関連しているのでしょうか?ウッチーさん、これはなんなのでしょうか?」
「そんなものは私に解るワケがありません!でも、そうこうしている間に、謎の物質がすっかり腹パンを囲んでしまい、中にいる腹パンの姿が見えなくなってしまいました!」
「これはまるで繭のようじゃないですか?ウッチーさん」
「まさにそうですね。これは巨大な繭。ということは中で腹屁端アナはサナギになっているのでしょうか?」
「イモムシもサナギになる前に大量のエサを必要とすると言われています。腹屁端アナの食いしん坊キャラはそういった理由からだったのでしょうか?」
「そして、サナギになった腹パンはさらに別の何かに変態していくのでしょうか?」
腹パンがすっかり繭に包まれてしまって、もはや推測だけで話している二人でもあった。