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#213 「第2の始まり」 2025-12-25 (Thu)

 今年のクリスマスイブはあちこちで色んな事が起きているので、テレビをつけっぱなしにしていてもLittle Mustapha達が興味を示していないので、何が放送されているのか解りづらい夕方のニュース番組のクリスマス特番だが、いつものように腹パンのグルメコーナーで腹パンがギットギトの料理を食べたり、ちょっとしたゲストが登場して、クリスマスっぽい企画をやったついでにちょっとした番組の番宣をしたりしていたのである。

 実をいうと、サンタが休業状態なのもあってか、いつもよりも活気がないクリスマスマーケットという感じもあったのだ。しかしそんなことは関係なく「クリスマスマーケットは非常に盛り上がっている」という設定で番組は進められ、視聴者にもなんとなく盛り上がっているような雰囲気が伝わってはいたのである。

 そしてクリスマス特番の目玉コーナーでもある、女子アナ達と特別ゲストが語り合うクリスマス女子会のコーナーが始まっていた。いつもの女子アナである内屁端、腹屁端、宇絵座の三人に、今年は良く喋る腹話術人形のキショー君。そしてゲストは大体予想がついていた元女子アナの亜毛屁端と、さらにシークレットゲストとして、なんと袋小路Ⅴ(ファイブ)が呼ばれていたのである。

 こっそり袋小路の一員となろうとしていた内屁端は少し気不味い感じもあったのだが、決してその事は表に出さないようにトークを続けていたのだ。


腹屁端-----へぇー、そうなんですかあ。ということは、今ここにいる選ばれた五人というのは本当に才能に溢れた方達なんですね。

袋小路1号-----才能っていうことではないと思いますが。でもオーディションでは本当に苦労しました。

亜毛屁端-----でもこれまでは、けっこう誰でも入れるっていうイメージで袋小路5000という名前で活動していたでしょ?いまだにそういう感じでメンバーになろうとする人もいるんじゃない?

内屁端-----(ちっ…。余計なことを聞きやがって…。)

袋小路2号-----えーっと、そうですね。メンバーになりたいって人は以前から袋小路のことを見てくださってる方達なんで、大抵は袋小路5000から袋小路Ⅴになったということを知っているんですよ。ですから今はほとんど応募してくる人はいないですね。

袋小路4号-----でも聞いた話では、つい最近女子アナをやってるって人から、メンバーになりたいって連絡があったみたいですよ。

亜毛屁端-----エーッ、そうなんだあ。

腹屁端-----私だったらアイドルとか絶対無理ですよ。そういうことを考えるって人は、きっとまだ女子アナになりたてって感じの人なんじゃないですかね。

キショー君-----そういう人はねー、きっちょね、亜毛パンみたいに有名になれると思ってるんだろーなー。ワリャちゃうよねー。

宇絵座-----キショー君、そんなこと言ったらダメだよ。もしかしたらその人も亜毛パンさんみたいに綺麗な人かも知れないよ。

内屁端-----そ、そうよねえ。アハハハ…。亜毛パンみたいな人なら大丈夫よねえ。

亜毛屁端-----私だって無理ですよぉ。もう30過ぎたらアイドルとか言ってられませんよ。

袋小路3号-----えぇ、亜毛パンさんってもっと若いのかと思ってましたぁ。

袋小路5号-----全然そうは見えませんよ。全然アイドルいけてますよ。

亜毛屁端-----まあ、それなりに努力はしてるのよ。なんて。


 亜毛屁端の言って欲しいことを言ってくれる袋小路Ⅴのメンバーに亜毛パンも満足げ。こういう部分もこの5人がメンバーに選ばれた要因なのかも知れない。それはともかく、この後は亜毛パンの新しい写真集「擬音」が発売される事を発表したり、亜毛パンが無口な主人公を演じる映画で袋小路Ⅴがテーマソングを歌うことになったという話があったり。

 ちなみに亜毛パンの6冊目の写真集の「擬音」はセクシーな部分をオノマトペで表現しているという斬新な内容となっている。それは偶然にも調査局の研究室で分析されている里梅屋さんの夢と良く似ている表現手法となりました。だがそれはどうでも良いことである。


 袋小路Ⅴの話題になる度に内屁端は少しピンチになったような気分にはなったものの、クリスマス女子会は滞りなく中継されているように思えた。しかし彼女達とは別の場所で静かに異変が起きていたのだった。


 そこに気付いたのは、細かいことに良く気付くマイクロ・ムスタファだったので、ここはいったんクリスマスマーケットの会場からブラックホール・スタジオ(Little Mustaphaの部屋)へ移動すべきだろう。

 ブラックホール・スタジオ(Little Mustaphaの部屋)では、クリスマス女子会などどうでもイイという感じだったので、テレビはつけっぱなしでも内容を気にしている人はいませんでした。危険が迫っているかも知れないと解っていながらも、しばらく何事もなかったので、また気が緩んできているようです。

 それでも色々なことが気になってしまうマイクロ・ムスタファは時々テレビの方を確認することは忘れませんでした。


Dr. ムスタファ-----ということでね、文字と音のどっちが妄想が膨らむか?ということだと、個人差があるようなんだよね。

Little Mustapha-----まあボク的にも映像というのは想像の余地が少ないという意味で、崇高さに欠けるって気がするんだよね。

ニヒル・ムスタファ-----これはアートな感じの話なのか、それともエロなんとかの話なのか良く解らないな。

Dr. ムスタファ-----私がする話は基本的に科学だがな。

マイクロ・ムスタファ-----あ、みなさん。ちょっと良いですか。

Little Mustapha-----なんだ。マイクロ・ムスタファがこの話に入ってくるということは、やっぱりアートな話ってことなのか。

マイクロ・ムスタファ-----そんな話はどうでもいいんですけど。テレビを見てください。

ミドル・ムスタファ-----まさか、恐ろしいことが起こってるんじゃないでしょうね。

ニヒル・ムスタファ-----でも普通に話してるし何も起きてないみたいだぜ。

マイクロ・ムスタファ-----そうじゃなくて、後ろに見えるクリスマスマーケットに来てる人達なんですが。良く見てください。

Little Mustapha-----あれって、もしかして爆弾人間じゃない?まさかカズコがお金を出して地獄の軍団を作ってるのか?

ミドル・ムスタファ-----でもさっきと同じ爆弾人間だったら失敗作ですし、カズコの作ろうとしている地獄の軍団にはならないんじゃないですか。

Dr. ムスタファ-----そうだが、大は小を兼ねる、とも言うぞ。

一同-----…。

ニヒル・ムスタファ-----どれが大で、どれが小なんだ?

Dr. ムスタファ-----なにがだ?


 Dr. ムスタファのせいでワケが解らなくなりそうになった時でした。とても聞きづらい声が聞こえてきました。それは多分カズコの声です。


カズコ-----ちょっちょっとと、アンアンタ達タ達。なんかしなんかしたんじゃないたんじゃないでしょうね?でしょうね? しょうね? しょうね? しょうね?

Little Mustapha-----うわ、なんだこれ?色んなエフェクターがついてるからって、何でも使うと逆効果なんだし。オフにしてくれないと何言ってるか解らないよ。

カズコ-----あらそうなの。プリセットっていうのをやってみたら神々しい感じだと思ったけど。まあ良いわよ。それよりも何なのよアレは。私が作った爆弾人間を勝手に使ってるやつがいるのよ。しかもあんなに沢山。

Little Mustapha-----ボクらは何もしてないよ。というか現実世界に物を生成出来るAIなんて聞いたことがないし。別次元の何かじゃないの?


 するとここでまた部屋の隅にあるスピーカーから声が聞こえてきました。


コマリタ-----はい、こちら再びコマリタ・ナラ・ズイルベーです!我々コマリタ・システムのAIは利用者の情報を厳重に保護しています。しかし、中には利用した際に使ったデータや生成物を勝手に共有する悪質なサービスもあると聞きます。もしかして利用規約の中にそのようなことが小さな文字で書かれていませんでしたかぁ?

カズコ-----利用規約って最初に出てくるあれでしょ。あんなもの原稿用紙何枚分あると思ってるのよ。優に3枚以上はあるでしょ。そんな長編小説みたいなものを誰が読むかってことよ。

コマリタ-----それなら文句は言えないようです。最初に作った爆弾人間のデータは削除したつもりでもそのAIのシステムのデータには残っていたのでしょう。それを利用して誰かがこの世界に爆弾人間を大量に出現させているようです。

カズコ-----じゃあ、アンタ達は関係ないの?せっかく懲らしめてやろうと思ったのに。それじゃあ、もう行くわよ。あのAIをどうにかしないといけないわね。まったく。


Little Mustapha-----原稿用紙3枚で長編小説?!…というか、コマリタはいつの間に戻ってきてたんだ?

コマリタ-----実はずっとここにいました。耳で聞いた情報だけを信じて私がいなくなったと思ったら大間違い!プライバシーを守りたかったらちゃんとログインしているユーザーを調べるべきでした。

Little Mustapha-----いや、今日は良いんだけど。もしかしてボクがここに一人でいる時とか、勝手に来てたりしないよね。

コマリタ-----それは時と場合によりますが、これまでにそのようなことをしたことはありません。

Little Mustapha-----ならよかった。

ミドル・ムスタファ-----そんなところで安心してないで、もっと気にすることがあると思うんですが。

犬サンタ-----そうだワン。これは何かがおかしいんだワン、またAIの生成物が世界を混乱させてるんだワン。

犬弟子サンタ-----と、思ったら本部から連絡が入ったんだバウ。

犬サンタ-----ならば、その最新のiPad Proで確認するんだワン。

Little Mustapha-----また細かく自慢が入ったな。

犬弟子サンタ-----どうやらこの近くで次元のポータルが開いたことが確認されたんだバウ。

ミドル・ムスタファ-----そのポータルを使ってあの爆弾人間がやって来たんですか?

犬サンタ-----それは違うと思うんだワン。これは大量の人間を転送するには小さすぎるんだワン。

犬弟子サンタ-----それから、里梅屋さんを調査した結果も送られてきているんだバウ。これまでに解析された深淵の暗殺者の言葉と里梅屋さんの夢の中に登場する言葉を比較して分析したところ、「呪い」というのは誰かが誰かを呪うということよりも、呪われた物や呪われた場所というような意味があるそうだバウ。そして里梅屋さんの夢の中では何かの装置のことにも言及されていたんだバウ。

Little Mustapha-----呪われてるっていっても、大抵は座禅でなんとかなるものなんだけどなあ。

マイクロ・ムスタファ-----その呪いとは違うものがあるのではないでしょうか。もしかすると以前のここのトイレの扉のような…。

コマリタ(?)-----どうでもイイですが、夜も更けてきまシタ。ナノベーが灯りを消します!


 ここでピッという音がして灯りが消えました。一同ちょっとビックリしたのですが、これは前にもあったことなので大丈夫だと気付きました。


コマリタ-----今のは私じゃなくて、このコンピューターの音声ですよ。

Dr. ムスタファ-----なんだ、驚いたな。

ニヒル・ムスタファ-----やっぱり先生だけ気付いてなかったのか。毎回やってるのに。

Little Mustapha-----でも灯りが消えたということはもうすぐ12時だよ。なんだか忘れてたけど、サンタは来るのかな。

ミドル・ムスタファ-----それよりも、テレビの方大丈夫なんですかね。爆弾人間が増えてきた気がしますけど。


 また混乱した中だったので、Little Mustaphaが作った夜になると自動的に灯りが消えるシステムを自慢することが出来ませんでしたが、とりあえず真っ暗なにならないようにフロアランプが点けられて部屋は間接照明で照らされました。