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#213 「第2の始まり」 2025-12-25 (Thu)

いつもじゃない森

 謎めいた森の中の謎めいたLittle Mustaphaのようなサンタのいる場所では相変わらずLittle Mustaphaのようなサンタが雪をかき分けて紙を集めていました。カバンから溢れそうな量の紙が集まったようですが、カバンの口から見えているその紙を良く見てみると、それはサンタへの手紙のようでした。

 Little Mustaphaのようなサンタはまた新たに手紙を見つけると、荒っぽくカバンに押し込むので手紙はしわくちゃになりそうです。

 Little Mustaphaのようなサンタは明らかに苛立っている様子でした。そして一度雪をかき分けるのをやめて真っ直ぐに立つと少し離れたところを見つめて気持ちを落ち着けようとしていました。それでも彼の腹立たしい気持ちは収まらないようでした。


 するとその時、薄暗い森の木々の間に更に暗い場所が出来たような気がしたと思ったら、そこには何かが立っていました。それはブラックホール・スタジオ(Little Mustaphaの部屋)やその周辺から遠く離れたところまで、もしかするとこの世のありとあらゆる意味不明な場所を満たしているかも知れない謎の物質の具現化でもあるダー・クマタンです。

 暗がりの中で次第に輪郭がハッキリしてきたダー・クマタンはゆっくりとサンタのLittle Mustaphaの方へ歩いてきました。

「いけませんねえ。そんなふうに腹を立てたところで何かが良くなるってことはありませんよ」

ダー・クマタンがサンタのLittle Mustaphaに向かって言うとLittle Mustaphaもその存在に気付いたようです。

「あ、ダー・クマタンか。そんなこと言ってもさ。コレ見てよ」

サンタのLittle Mustaphaはカバンをダー・クマタンの方へ向けて中を見せました。そうしなくてもカバンの口からは手紙が溢れそうな状態なので何が入っているのかは良く解りました。

「これ全部サンタへの手紙なんだよ。ちゃんと届かないからこうやって探さないといけないし。それだけじゃなくて、差出人は全部Little Mustaphaってなってるんだけど。これって何かのイタズラなのかなあ」

「そんなことはありませんよ。そのLittle Mustaphaって人は真面目にプレゼントが欲しいと思ってるんですよ。彼の友達もですけどね。それで五人分のリクエストが書いてあるんですよ」

「それじゃあダー・クマタンはこのLittle Mustaphaっていう人も知っているの?」

「一応友達になってくれたんですけどね。最近はややこしい事が起きて彼のところに行こうとしても上手く辿り着けないんですよ。でもそれがあったからあなたはサンタになれたんですけどね」

「ふーん。なんだか良く解らないけどなあ」

このサンタのLittle Mustaphaはブラックホール・スタジオ(Little Mustaphaの部屋)にいるLittle Mustaphaよりもダー・クマタンと親しいみたいです。

 サンタのLittle Mustaphaはカバンの中から手紙を一枚取りだしてちゃんと読んでみました。自分と同じLittle Mustaphaという人の書いたプレゼントのリクエストの手紙には、ダー・クマタンが言ったとおり五人分のリクエストが書いてあります。

 サンタのLittle Mustaphaはこの森の中に一人で暮らしていて、たまにやって来るダー・クマタン以外に話す相手もいないのです。人が沢山いるという感覚はサンタのLittle Mustaphaはずいぶん前に忘れてしまっていました。

「だけど、なんでボクと同じ名前なんだ?」

「同じなのは名前だけじゃありませんよ。その手紙のLittle Mustaphaは別の世界のあなたなんですよ。本当はもっと沢山のLittle Mustaphaが存在しているはずですけどね。私の友達のLittle Mustaphaはあなたとその手紙のLittle Mustaphaだけです。そのもう一人のLittle Mustaphaはあまり私に構ってくれませんけどね」

「酷いヤツだなあ。でもリクエストされたからにはプレゼントを持っていかないといけないの?」

「それがサンタの仕事ですからね。残念なことに今年のクリスマスにプレゼントのリクエストをしたのはLittle Mustapha達だけみたいですよ。本当におかしな事になっているんですよ」

「じゃあ、同じ手紙がこんなにあるっていうのも、何か原因があるってことかなあ」

「そうでしょうね。色んな次元があるということを知っている人の中には、これをもう一人のあなたのせいだと言っている人もいますけどね。結果だけ見ればそうですけど、実際にはもっと複雑なんですよ」

サンタのLittle Mustaphaはもう一人の自分がいるとか、別次元の話が出てきても特に驚く様子はありません。ダー・クマタンと友達になっているぐらいなので、ブラックホール・スタジオ(Little Mustapha部屋)のLittle Mustaphaと同様に次元を超えた世界のことをを知っていたり、経験したりしているのかも知れません。

「じゃあ、プレゼントを渡しにいくなら、あの洞窟を使わないといけないのか」

「そうなりますけどね。でも気をつけないといけませんよ」

「あの洞窟は全ての混乱が吹き出してきたところだからね」

「そういうことです。それじゃあ私は行きますね。出来ればもう一人のLittle Mustaphaにも会って話したいことがあるんですけどね。今は無理みたいですね。それじゃあまた」

「ああ、またね」

ダー・クマタンがフワッとした感じで姿を消すと辺りはまた静寂に包まれました。

 サンタのLittle Mustaphaは最後の手紙を見つけると、それをカバンに押し込んでから自分の家に戻ることにしました。