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#213 「第2の始まり」 2025-12-25 (Thu)

いつもじゃない場所のクリスマスイブ

 数日前、森の中でサンタ宛の手紙を集めていたサンタのLittle Mustapha。ここまでの話からすると彼はブラックホール・スタジオ(Little Mustaphaの部屋)のある次元とは別の次元のLittle Mustaphaということになりそうです。沢山の次元に沢山の同一人物がいたりいなかったり。そしてそれぞれの次元は似ているものもあれば全く違うこともあるというのはコレまでも書かれてきました。

 以前には頭と胴体が後ろ前逆になっている人の住む次元のLittle Mustaphaが登場したこともありましたし、そういう意味ではサンタのLittle Mustaphaは、いつもの次元からみればかなり普通の人という感じのLittle Mustaphaです。

 ただ、このサンタのLittle Mustaphaはいつもの次元のLittle Mustaphaとは違って、自らがサンタになることを望んでいて、そしてやっとサンタになれたということです。

 サンタといえば、これまでも色んなサンタが登場して、その中には本物ではないサンタもいましたが、少なくとも本物のサンタは次元の違いに関係なくプレゼントを配ることが出来る特殊な存在だったはずです。このサンタのLittle Mustaphaのような人がいくら望んでも勝手にサンタになることは出来ないような気もするのですが、一体彼はどのようにしてサンタになったのでしょうか?

 疑問が次々に湧いてきますが、サンタのLittle Mustaphaはそれどころではない感じでサンタとしての初仕事に苦労しているようです。何しろプレゼントを渡す相手が子供達ではなくて、別次元の自分とその仲間で、リクエストされたプレゼントも特殊なものだったからです。

 マニュアルどおりにやっていたら上手く行きそうにないと思ったサンタのLittle Mustaphaはネットを使って対処法を見つけようとしていました。

 ここはサンタのLittle Mustapha以外に誰もいないような森の中ですが、この小さな家でもパソコンがあってネットも使えるという、そういう次元ということのようです。

「楽器や野球盤というオモチャまでは問題ないんだけどなあ。マニュアルではモデルガンのような物がリクエストされた時には代替品を検討する必要もあるって書かれてるけど。でもこの人達はボクと同じ大人みたいだから、これも大丈夫だよな。それよりも問題は残りの二つだよなあ」

サンタのLittle Mustaphaはネットの検索結果を眺めながら画面をスクロールさせていました。しかしそこに答えになるような事は書かれていないようでした。

「反重力リアクタって、そんなものはこの世界に存在してないみたいだし。もしかすると別の次元ではあるのかなあ?それに横溝正史全集っていっても、マニュアルではサンタからのプレゼントとしてはふさわしくない可能性があるって書かれてるんだよなあ。だいたいこの世界じゃ、そんな作家はいないから、そんな全集も手に入らないんだし」

サンタのLittle Mustaphaは一度パソコンの画面から目を離して体を後ろの方に反らすと大きなあくびをしました。

「プレゼントを渡すのが五人だけだったから油断してたなあ。これじゃあ明日までにプレゼントを渡せるか解らなくなってきたな」

どうやらいつものLittle Mustaphaと同様に、この世界のサンタのLittle Mustaphaもギリギリまでやる気にならないし、ギリギリ間に合わせようともしないようです。

 とはいってもせっかくサンタになれたのだし、やる気がないワケではないのですぐに作業を再開しました。作業といっても、もうやることはあまりないようにも思えたのですが、ネットで検索する時のキーワードを変えてみたり、試行錯誤の余地はあるはずだと思っているようです。

 サンタのLittle Mustaphaが再び作業を始めると突然部屋で人の声がしました。集中して作業をしていたLittle Mustaphaだったので余計に驚いて、飛び上がりそうになっていました。

「だ、誰だ…!?」

解りやすく動揺しているサンタのLittle Mustaphaは、自分の心臓の音が聞こえてきそうなぐらい速く鼓動しているのに気付くと、一度胸に手を当ててから辺りを見回しました。

 サンタのLittle Mustaphaが少し大袈裟に驚き過ぎなんじゃないかと思われるかも知れませんが、ここはとても寂しい場所なのです。サンタのLittle Mustaphaが最近会ったのは先日のダー・クマタン以外にはいないのです。それぐらい人の少ない場所なので、部屋で人の声がいきなり聞こえてきたりするとパニックになりそうなぐらい慌ててしまうのです。

「突然すいませぇん。少しお話よろしかったでしょうか?」

また声が聞こえて驚いたサンタのLittle Mustaphaですが、今度は相手が何を言っているのかが解ったので少し冷静さを取り戻していました。その声の出所はパソコンに付いているスピーカーからだったようです。

「誰ですか?」

どこに向かって話せば良いのか解らなかったサンタのLittle Mustaphaですが、とりあえずパソコンの画面に向かって言いました。