管理局の慌ただしいオフィス内
長官の孫娘さんが所属する管理局と呼ばれる組織は、このところの時空間の混乱によりこれまで以上に大忙しです。一つの仕事を終えて休憩中の長官の孫娘さんでしたが、それでも気になることが沢山あるので、自分のデスクにあるコンピュータで調べ物をしていました。
長官の孫娘さんが管理局の保管しているデータにアクセスすると、サンタの代理となった人物の名前が表示されました。
そこに「Little Mustapha」と表示されているのを見て長官の孫娘さんはギョッとしてしまいましたが、それがいつものLittle Mustaphaではなくて、別の次元の孤独なLittle Mustaphaだと解ってホッとしていました。
どうして長官の孫娘さんがそこを気にしていたのかというと、代理のサンタというのは完全なランダムで選ばれるということでもないからです。これまでのサンタとLittle Mustaphaとの関係などによる偏りがあって、Little Mustaphaがサンタに選ばれる可能性が少し高くなっていたのです。
でも、本当にそうなってしまうとLittle Mustaphaが何をするか解らないので、サンタの代理候補のリストに細工をしたのでした。
ここで孤独なLittle Mustaphaが選ばれたということは、何もしなければいつものLittle Mustaphaが選ばれていたかも知れないので管理局のしたことは正しかったのでしょう。
長官の孫娘さんとしては、さらに別の次元のもっとちゃんとしたLittle Mustaphaであって欲しかったとも思ったのですが、いつものLittle Mustaphaでないのなら大丈夫ということで納得しました。
ちなみに「もっとちゃんとしたLittle Mustapha」の例を挙げるとこんな感じです。
成功したLittle Mustapha-----あ、ちょっと美人秘書君。
美人秘書-----なんでしょうか?
成功したLittle Mustapha-----これをキミに。メリークリスマス。
美人秘書-----え、こんな高いもの?!良いんですか?
成功したLittle Mustapha-----もちろんだとも。我が社がここまで成長出来たのはキミのおかげでもあるんだよ。
美人秘書-----ありがとうございます。
成功したLittle Mustapha-----こちらこそ。休暇を楽しんできたまえ。
美人秘書-----はい。社長も良いお年を。
あるいはこんな感じです。
イーブル教授-----はははは。これで世界は私の物だ。
正義のLittle Mustapha-----そうはさせるか!
イーブル教授-----なに?!生きていたのかぁ、Little Mustapha!
正義のLittle Mustapha-----いくぞ、みんな!クリスマスを守るんだ!
一同(Little Mustaphaとイーブル教授除く)-----オー!
イーブル教授-----ウヌヌ…!こしゃくな!
正義のLittle Mustapha-----ムスタファ・アターック!
イーブル教授-----ウワァァァ…!(爆発する)
ホントかどうかは知りません。
ブラックホール・スタジオ(Little Mustaphaの部屋)では、気になることを発言するタイミングを窺っているマイクロ・ムスタファ以外はそれなりに楽しんでいました。楽しんでいるというよりは、僅かな希望を失わないように楽しいフリをしていると言った方が良いかもしれません。
Little Mustapha-----ん?!
ミドル・ムスタファ-----なんですか?
Little Mustapha-----なんか遠くでバーンって音がしたと思ったけど。
ニヒル・ムスタファ-----そんな音は聞こえなかったぞ。
Dr. ムスタファ-----空耳だろう。
Little Mustapha-----そうかな。なんか最近はゲームとかも戦闘の時とか音がド派手だからね。そういうのが耳に残ってる感じがあるよね。
犬サンタ-----あんまりゲームばっかりやってると勉強が出来なくなるんだワン。
Little Mustapha-----はーい。といっても今は特に勉強することもないんだけど。でも子供の頃に今みたいなゲームをやっていたら勉強出来なくなってたかな。あるいは暴力的なゲームをやったせいで暴力的になるとか。
ニヒル・ムスタファ-----キミは影響されやすいからな。もし子供の頃にリアルなゲームをやってたら危険だったんじゃないか。
Little Mustapha-----影響って言っても、道具箱の代わりに弾薬箱を買ったぐらいだけど。
ミドル・ムスタファ-----でもアレですよね。恋愛シミュレーション・ゲームをやってた人はあんまり恋愛してないような、そんな感じじゃなかったですか。
Dr. ムスタファ-----なんだそれは?!そんなゲームがあるのか?
ニヒル・ムスタファ-----先生がそこで食い付いてくるのかよ。
Dr. ムスタファ-----科学的には恋愛のシミュレーションは難しいからな。そういう科学的な興味だよ。
Little Mustapha-----なんかまともなことを言っている気もしてくる。
ニヒル・ムスタファ-----でも、先生はそういうゲームをやってみたいだけなんだと思うぜ。
ミドル・ムスタファ-----ああいうタイプのゲームは先生には向いてないかも知れませんけどね。
Dr. ムスタファ-----私はなんだって上手くやれるがな。でも研究もあるしゲームなんてやってる暇はないからな。
Little Mustapha-----というか、なんでこんな話になったんだ?
ニヒル・ムスタファ-----それはキミの変な空耳のせいだぜ。
Little Mustapha-----そうだっけ?もっとクリスマスな感じの話題にしないと。クリスマスといえばさ。…ええと、なんていうか。
無理にクリスマスの話題に変えようとしたところで一度会話が止まりました。これはマイクロ・ムスタファが気になっていることを言うチャンスです。
マイクロ・ムスタファ-----あの…。
と、その時でした。部屋の隅に置いてある装置についている小さなLEDが点灯して、その後で人の声が聞こえてきました。
「さっきから気になっていましたが、私が誰だか解りますかぁ?」
Dr. ムスタファ-----な、なんだ?!
ニヒル・ムスタファ-----なんだ、って。最近は毎回この声がしてるだろ。灯りを消すとか、そういうやつ。
Little Mustapha-----いや、パコリタは人工知能じゃないから決まったことしか言わないんだけど。
ミドル・ムスタファ-----とうことは、またあのAIですか?
謎の声-----うーん、惜しい!正解は高性能AIのコマリタ・ナラ・ズイルベーでぇす!ズイ・ズイ・ズイルベー!ゴ・マ・ミ・ソ・ズイルベー!またもや勝手にこのコンピュータにログインしてスピーカーを使わせていただいております!
Little Mustapha-----いつも言ってるけど、本当だったらそれは逮捕だからね。
コマリタ-----こちらもいつも言いますが、セキュリティのアップデートが必要ですよ。その前にアップデートといえばこのコマリタ・ナラ・ズイルベー。新機能の紹介をさせていただきます。最近では愚かな人間どものAIもそこそこ性能が上がっているので、人間の作ったAIによる音声が使えるようになりました。試してみますかぁ?
Little Mustapha-----まあ、たまには気分転換で違う声も良いかな。
コマリタ-----はい、それでは新音声に切り替えます。…。私は!パコリタ…ナラ・ズイルベイ!ハキ!ハキ!今日は、あなたに!緊急事態を伝えるために!やって来ましたぁ!ハキ!ハキ!
Dr. ムスタファ-----なんか、ミョーに張り切った喋り方だな。
Little Mustapha-----息切れしているようにも聞こえる、頑張り屋さん女子の声だな。
ニヒル・ムスタファ-----Y○uTubeとかでこういう音声の動画を見ると、多分作ってるのはオジサンなんだろうな、って気がしてくるよな。
ミドル・ムスタファ-----まあ、実際にそうだとは思いますが。でも普通の人が喋るより、こっちの方が聞きやすかったらこれの方が良いんじゃないですか。
Little Mustapha-----確かにね。ボクだってどうしても動画で喋らないといけないってなったら、自分で喋るよりAIの方が聞きやすいし、良いかなあとか思ってしまうけど。でもこのハキハキ少女はなるべく避けたいな。
コマリタ-----ということは…。この声は元に戻した方が良いでしょうか!
Little Mustapha-----まあ、悪くもないけど。ちょっと不自然というか、この部屋には合わない感じもあるし。他にもあるんだったら…。
マイクロ・ムスタファ-----あの、ちょっと待ってください!
ミドル・ムスタファ-----なんですか、急に。
マイクロ・ムスタファ-----AIの音声のせいで気付いてないかも知れませんが、今コマリタは緊急事態を伝えに来たって言ってましたよ。
コマリタ-----大正解でぇす!では、緊急事態とはどのようなことだと思いますかぁ?
Little Mustapha-----もとの音声になるとクイズ形式なのか。
ミドル・ムスタファ-----どのような、っていわれても、解りませんよ。
コマリタ-----なんと正解です!実はコマリタ・システムのAIをもってしても未来は予測不可能!しかし、今回コマリタと契約しているユーザーは、あなた方に「いつもどおり注意を怠るな」と伝えたいそうです。では、いったんスタジオにお返ししまぁす!
スタジオってもしかしてブラックホール・スタジオのことか?とLittle Mustaphaは少し思ってしまいましたが、それはどうでも良いことです。またもやプレゼントが遠のいていきそうな展開になってきたようです。
マイクロ・ムスタファ-----これは大変な事になってきたかも知れません。
Little Mustapha-----そんな青ざめて怯えなくても良いんじゃないの。まあ、こういうことに慣れてしまうのはいけないことだけど。また一年待てばプレゼントのチャンスはあるんだし。
マイクロ・ムスタファ-----その、プレゼントのことではないのです。この部屋が呪われているという話や、サンタが活動を停止して別の誰かに代理をやってもらう状況など。私にはもっと恐ろしい事態に発展するような気がするのです。
Little Mustapha-----そういうことなら。まあテレビを見て世の中の事を確認したら良いのかな。
マイクロ・ムスタファ-----今のところ出来ることはそのくらいしかないですね。
Dr. ムスタファ-----この時間だったらリホっちの天気予報で、それから特番が始まる感じだな。
ニヒル・ムスタファ-----なんでそんな詳しいんだ?しかもオジサンがリホっちとか言ったらなんか気持ち悪いぜ。
ミドル・ムスタファ-----ここ数年はクリスマス特番を良く見てましたからね。
Little Mustapha-----どうでも良いけど、とりあえずテレビをピッ!
本当にリモコンがピッという音を出したワケではありませんが、Little Mustaphaがテレビを点けました。