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#213 「第2の始まり」 2025-12-25 (Thu)

洞窟

 孤独なLittle Mustaphaは洞窟までやって来ました。この別次元への入り口があるという洞窟は奥から光が漏れて来ていて、夜でも普通に歩いて入ることが出来ました。

 光の方へ進んでいくと、何もない空間に丸い窓が開いたようになっていて、そこから渦巻く波のような青白い光が漏れて来ます。それは炎のようにも見えましたが、近づいても全く熱を感じない不思議な光でもありました。

 孤独なLittle Mustaphaが光の窓に近づくとアンパン2の声が聞こえてきました。ここには音を出す機械は何もないのですが、その光の窓の奥から聞こえてくると考えたら納得がいきます。

「良い決断をしたようですね。我々もあなたの復讐の手助けをすべく活動していました。今向こうにいるLittle Mustapha達はちょっとした混乱状態です。この光の中に入るとすぐに向こうの次元に立っている自分に気付くでしょう。以前に起きた混乱によって直接むこうのLittle Mustaphaの部屋にはいけませんが、すぐ近くで彼らの声がするはずです。彼らは混乱しているので、あなたが入った途端に小さなランプも消されて真っ暗になる可能性もありますが、あなたは冷静に対処するのです。仕事が終わったらまたこの光と同じものを通って帰ってきてください。解りましたぁ?」

孤独なLittle Mustaphaは光に向かって黙って頷きました。

「それでは良い復讐を!」

孤独なLittle Mustaphaが光の中へ消えていきました。

調査局のオフィス

 調査局では調査官達が今夜の出来事がなにを意味しているのか?ということを調査している最中でした。

 謎のAIを使って生成された爆弾人間が現れたり、小さな時空のポータルが現れたりもしていますが、それらに関連性もないように思えました。

 長官の孫娘さんは色々な可能性を考えながらコンピュータの画面に映されている地図上のポータルの印を眺めていました。すると、そのうちの一つが点滅を始めました。それはブラックホール・スタジオ(Little Mustaphaの部屋)のすぐ近くに現れたポータルです。

 それを見て長官の孫娘さんの顔はみるみる青ざめていきました。

問題のポータル

 孤独なLittle Mustaphaは彼が見たこともない街の中にいる自分に気付きました。住宅街ではありますが、彼のいた次元の暗い夜の森に比べたら眩しいほどの夜の街です。孤独なLittle Mustaphaは少し呆気にとられたように辺りを見回していましたが、近くで人の話す声が聞こえてきてすぐにその方向に目を向けました。

 どこかで聞いたことのある声。あそこにこの次元のLittle Mustaphaがいるに違いないと思いました。

 孤独なLittle Mustaphaは一度持っていた銃を確認してから、仲間達の復讐を遂げるべくブラックホール・スタジオのある方へ歩き出しました。

 するとその時、孤独なLittle Mustaphaの背後で声がしました。彼はギクッとなって立ち止まって振り返りました。

「Little Mustapha!」

そこにいた女性と孤独なLittle Mustaphaはしばらくお互いを見つめ合っていました。

「あなたなはあたくしの知っているLittle Mustaphaですわ」

孤独なLittle Mustaphaも彼女の事を知っている。しかし、そこに彼女がいるのが信じられないような表情で言葉がなかなか出てこなかった。

「キミは…Princess Black-hole!」

孤独なLittle Mustaphaがそう言った途端、Princess Black-holeと言われた女性が彼に抱きついてきた。

「良かったですわ。あたくしのこと忘れてしまったのかと思いましたわ」

「まさか、忘れるなんて。ボクはずっと一人で毎日みんなのことを考えていたんだから」

孤独なLittle Mustaphaが改めて目の前の女性のことを見ると、思わず涙ぐみました。

「でもどうしてここにいるんだ?ボクはてっきりキミ達が…」

「あたくし達はちゃんと生きていましたのよ。するとあなたが一人だけ元の場所に残っていたということなんですの?」

「そうみたいだね。でもみんながいるなら今日連れて帰ることが出来るよ」

「本当ですの?それならすぐにここへ来ますわ!」

「それなら、ボクはどうしよう」

孤独な、というかだんだん孤独でないような感じになってきたLittle Mustaphaは持ってきた銃を取り出してブラックホール・スタジオの方を見ていました。

「あなた、どうしてそんなものを持っているんですの?それに、あそこ。あそこはLittle Mustaphaの住んでいる家なんですのよ」

「なんでキミもそれを知っているの?」

「それが不思議な話なんですのよ。あたくし達は四年前にあの洞窟にいましたでしょ。それが気付いたらこんな騒々しい街にいて。それからは大変な思いをしていたんですけれど、色々な方に助けてもらって、ここで暮らしていくことが出来たんですの。そうしていく中で、自分と同じPrincess Black-holeという人がここにもいることが解ったんですの。それでついさっきそのPrincess Black-holeに会ってきたんですのよ」

それはたまたま同じ名前なのではなくて、この次元におけるPrincess Black-holeなのだと孤独でなくなってきたLittle Mustaphaは説明しようとしましたが、すぐに理解出来るような事でもなさそうなのでそのまま話を聞いていました。

「そのPrincess Black-holeって人と話している時にまたおかしな事が起きたんですけれど。4年前にLittle Mustaphaって人とはぐれて探しているって話したら、その人なら知っているなんて言うんですの。でもそれはあなたとは違うLittle Mustaphaみたいだったんですけれど、なんだかその話を聞いていたらあなたにソックリな気がしてきて笑ってしまいましたわ。ウフフッ…!それでその帰りにここへ寄ってみたら、あなたがいたって事なんですの」

「そうなのかあ」

孤独でなくなってきたLittle Mustaphaはもう一度ブラックホール・スタジオの方を見てから銃をしまいました。

「それ、どうするつもりだったんですの?」

「あそこにいるLittle Mustaphaは人を傷つけたりするような人だと思う?」

「毎年クリスマスになるとみんなでサンタを待っている人達なんですって。そんな人が他人を傷つけるなんて気はしませんわね」

「キミ達が生きているのなら、この銃は使い道がなくなったみたい」

「あら、そうなんですの。それは良かったですわ」

しばらくすると、孤独でなくなってきたLittle Mustaphaの洞窟パーティーの主要メンバーがやって来ました。

 彼らも孤独でなくなってきたLittle Mustaphaとの再会を喜んでいました。そして、すぐにでも元の世界へ帰ろうと言うことになって彼らの近くに幽かに見えているポータルの中へと入っていきました。

何が起きているか知らない人達

 すぐ近くで別次元の自分達が感動的な再会を果たしていたことなど全く知らないブラックホール・スタジオ(Little Mustaphaの部屋)にいるLittle Mustapha達ですがクリスマスマーケットの会場からいなくなった爆弾人間達がここへやって来るのではないかとヒヤヒヤしているところでした。

 危険が迫れば犬サンタ君と犬弟子サンタ君の嗅覚によって早めに察知出来ることにはなっているのですが、何も起きない中で待っていても恐怖心が増していくばかりという気もしていたのです。

 時刻はあと数分で午前零時。

 その時、部屋の隅にある機械のスピーカーから声が聞こえてきました。今度はコマリタではなくてアンパン2の声です。


アンパン2-----はい、こちら現場のアンパン2でぇす!

Little Mustapha-----エッ、なんだ?!また変なのが勝手にログインしてるってこと?

アンパン2-----変なのとはどういう事でしょうか?アンパン2はアンパンの不具合を修正した優秀なバージョンのアンパンでぇす!まだあなた方は銃撃から逃れたという事実に気付いていないようですが、この後に別の恐ろしいことが起きたらどうなさるおつもりですかぁ?

Little Mustapha-----何を言ってるか解らないけど。そういうことがあれば犬サンタ君と犬弟子サンタ君が事前に教えてくれるからね。

犬サンタ-----そうだワン。まあ一瞬だけ火薬の臭いがした気がしたけど、すぐになくなったから大丈夫なんだワン!

Little Mustapha-----えぇ?!火薬の臭いって。ちょっとしたことでも言って欲しかったんだけど。

犬弟子サンタ-----あなた方はパニックになりやすいから、少し間を開けるように言われているんだバウ。

アンパン2-----そうでしたか。しかしそれは大ハズレ!今回はどの次元のLittle Mustaphaでも仕事を最後までやりきることが出来ない無能であることが証明されたしまいましたが、あなた方はまだ殺されずに済んだワケではありません!

Little Mustapha-----なんだ、いきなり失礼な事を言うと思ったら、殺されるとか。


 するとその時、留守番電話機から昔の黒電話みたいなけたたましいベルの音が鳴り響きました。この音を聞いてビックリしない人はいないという感じで、一同ビクッとしました。


犬サンタ-----あ、これはきっと緊急事態なんだワン!ご主人様からだから早く出るんだワン!

Little Mustapha-----え、ホントに!それなら早く出なくちゃ!二人きりで話したいところだけど、緊急事態ならハンズフリーモードでピッ!


 着信の音は黒電話の音ですが、ボタンを押せばピッと鳴ります。


留守番電話機-----「良かった、まだ部屋にいた。みなさん、良く聞いてください。今夜は私がイイというまで絶対にそこのトイレの扉は開けないでください!」

Little Mustapha-----もちろん、長官の孫娘さんがそういうのなら、いつまでだってトイレは我慢するよ。

Dr. ムスタファ-----ああ、まあな。さっき行っておけば良かったかな。

ニヒル・ムスタファ-----先生はいつもその辺のタイミングが悪いな。

ミドル・ムスタファ-----でも外に行って公園のトイレとか使えば大丈夫じゃないですか。

アンパン2-----それは良くないことじゃないでしょうか?今夜は爆弾人間達がここを襲いに来るのですよ。

留守番電話機-----「どうしてそのAIがそこにいるのですか?そのAIの言うことは聞いてはいけません。全部嘘です」

アンパン2-----AIじゃなくて、優秀になったアンパンのアンパン2でぇす!そして残念ながら嘘は一つも言っていないのでぇす。という理屈だと嘘を言っているのはそちらになりますがよろしいでしょうか?

留守番電話機-----「そんなことはどうでもイイのです。とにかくトイレの扉を開けたら次元の出入り口が何者かに乗っ取られることになります」

Little Mustapha-----でも壊れてるんじゃないの?

マイクロ・ムスタファ-----もしかして修復が進んでいたのではないでしょうか。ダー・クマタンがメッセージを残せるようになったのは、それと関係していたかも知れません。

留守番電話機-----「そうなのです。そして深淵の暗殺者達もそこに気付いていたのです。そして何とかしてあなた方に気付いてもらおうとしていたのです」

アンパン2-----残念ながらもう手遅れではないでしょうか?すでにもう一人のLittle Mustaphaが次元の扉を使ったことで今回のクライアントは扉を半分手に入れたようなものなのです。後は爆弾人間達が上手くやってくれるでしょう。爆発に巻き込まれるか、トイレに逃げ込んで助かるか、どちらがいいですかぁ?それでは私は爆発に巻き込まれないように、一足先に逃げたいと思いまぁす!

Little Mustapha-----ということなら、ボクらも外に逃げれば…。

犬サンタ-----あ、ちょっと待つんだワン!もうすでに爆弾人間が家の周りを囲んでいるんだワン!

犬弟子サンタ-----でもどうして気付かなかったのかバウ?爆弾だったらもっと早く臭いに気付いてたはずなんだバウ。

マイクロ・ムスタファ-----あ、ちょっと良いですか。

Little Mustapha-----緊急事態なんで良いも悪いもなく話して良いんだけど。

マイクロ・ムスタファ-----ああ、すいません。でも、これまで爆発すると見せかけて何も起こらなかったですし、犬サンタくん達が気付かなかったということは、爆発しないということではないですかね。

留守番電話機-----「その可能性はあります。最初に出現した時から中身が変わってなければ危険は少ないはずです」

ニヒル・ムスタファ-----少ないってことは、少しは危険ってことなのか。

Little Mustapha-----まあ、なによりも見た目がヤバいからね。

留守番電話機-----「私も出来るだけのことはしますから、絶対にそこから動かないでください。では行きますね。頑張って」

犬サンタ-----ご主人様が何とかしてくれるからみんなここにいるんだワン。

犬弟子サンタ-----もうすでに家に入ってきてしまったから、ここにいるしかないんだバウ。

Little Mustapha-----入ってきたって。ドアの音とかしてないけど。

犬サンタ-----なにか謎の力で動いているものだから神出鬼没な能力があるに違いないんだワン。

Dr. ムスタファ-----なんだそれは?


 夜の12時が近づくにつれてピンチになるという久々のパターンになったようです。