「GONE」

29. 十三階スキヤナーのオフィス

 翌日、モオルダアは大量の書類を持ってスキヤナーのオフィスに入ってきた。目の前に積み上げられた書類の山をスキヤナーが呆然として眺めている。

「なんだね、これは?」

「報告書ですよ」

モオルダアは誇らしげに言った。タイピングが上手くなったモオルダアは調子に乗ってこのとてつもなく長い報告書を書いてきたらしい。長ければ良いというものではないのだけれど。

「悪いが私にはこれを全部読んでいるヒマなどないぞ」

「また、そんなこと言って。副長官はいつもヒマそうじゃないですか?」

「キミ、これはシーズン2だぞ。都合によってエフ・ビー・エルの職員はヒマになったり忙しくなったり出来るようになったんだよ」

「なんですかそれ?」

「どうでも良いから、かいつまんで説明してくれたまえ」

モオルダアは不満げである。

「かいつまんで言うとこういうことです。ある少年が失踪したんですが、ボクはその少年がコンピューターの世界に閉じこめられたのだと思いました。そこでボクもコンピューターの中に入ってみたら、やっぱりそこに少年がいました。どうしてそんな事になるのか説明出来ませんが、ウィルスに感染したパソコンから送られる信号と関係しているはずです。それからこれも証拠がないのですが、それらは人間の脳をコンピューターの一部にするための実験だったと思われます。補足ですが、少年はやっぱりモジモジしていました」

スキヤナーは半分あきれて聞いていた。

「また今度も何も起きなかったことと一緒だな?」

「まあ、そう言ってしまえばそうですけどね」

「わかった。もういって良いぞ。…この報告書も忘れずに持っていけよ」

モオルダアが書類を抱えて部屋から出ていく。ドアの所でしっかりとまとめられていない書類をモオルダアが落として紙がそこら中に散らばる音がしていたがスキヤナーは気付かないふりをしていた。

30. 謎の建物

 謎の建物の地下室ではスーツを着た男が作業服を着た男に向かって話していた。

「それで、結局のところ原因はなんだったんだね?」

「謎のメッセージが多量に送信されてきたためだと思われます」

「そのメッセージとは?」

「面倒だから何も考えたくなーい、考えるの大嫌い!という内容でした」

「そうか、それは第一に修正しないといけない問題だねえ」

「はい、いま修正済みのプログラムをチェックしているところです」

「とにかく実験の第1段階は無事終了したんだ。この調子で頼むよ。それで、今回の実験データは?」

「はい、こちらです」

スーツを着た男は作業服を着た男から大きな封筒を受け取ると部屋を出ていった。

 スーツを着た男は長い階段を上り続けてやっと一階に辿り着いた。いくつかの部屋を通り抜けて安っぽいドアを開けて外に出た。最新の設備が整っていた地下室とは比べものにならないほど普通のドアの表札には小さく防衛省2.0(「庁」の文字が消されて上からマジックで「省」)と書かれていた。そこは見た目には良くあるアパートのようだった。

31. その他のダラダラしたこと

 その後の行方が書かれなかったTに関してだが、彼もきっとどこかにひょっこりと現れて、どうして自分がここにいるのか不思議に思いながら家に帰っていったことだろう。どうせ詳しく書いたところで特に面白いこともなさそうだし。今頃はもう飲みたくないと思っている友人達を集めてパーティをしているに違いない。

 それから、ヨシオ君の無事を確認した後のスケアリーは家に帰るとそのまま寝てしまった。目覚めてからは、今回の事件での自分の活躍がいまいちだったということを全部モオルダアのせいにしてイライラしていた。

 あと、彼女に好意をよせている技術者だが、最後まで名前を付けてもらえなかったということは、今後登場する可能性は低そうだ。ただ、彼は想像以上に優秀な上にモオルダアと同じくバイトという面白さもあり、もしかすると名前付きで再登場するかも知れない。ただし、スケアリーは彼のことをなんとも思っていないようだ。

 モオルダアの家の前にあった妖怪ポストはエフ・ビー・エルが費用を負担して処分された。一つ残ったペケファイルの部屋にあった妖怪ポストは清掃員がゴミと間違えて捨ててしまったということだ。

 結局全ては最初とあまり変わっていないようだ。

2007-04-17
the Peke Files #015
「GONE」