「Dimensions」

15.

 モオルダアとスケアリーがゲームのパッケージのまとめられたファイルを持って別の部屋に行くと、そこでは刑事達がモニタの前で現場に踏み込む時の映像を見ていたところだった。刑事の一人が「何か用か?」という感じで二人の方を振り返った。するとスケアリーは「見たいものは同じですからそのまま続けてくださいな」というと、刑事はまたこれまでのように画面に集中した。

 ここでは先ほどから、あの現場に突入する手順などに問題がないかなどを調べるために何度も同じ映像が再生されていた。それはちょうどネトゲが銃撃された時でもあり、テレビ中継の画面にも映ったあの女性が窓のところに現れた直後でもある。

 ネトゲが撃たれて警官達が部屋になだれ込むところまで来るとビデオの再生が止められ、また銃撃の少し前の場面が映し出された。ここで再生されている映像は警察が撮影していたもののようで、テレビの中継よりも見やすくなっていた。

 包丁を持ったネトゲが外の刑事と話しているところが映っていた。この状態で発砲したということだと、ちょっと問題かも知れないのだが、F.B.L.の二人のとってそこはそれほど重要ではないので気にしないことにした。それよりも、このすぐ後に窓のむこうに女性が横切るはずである。モオルダアは持っていたファイルを開いて一度ゲームのパッケージに描かれている女性の服装を確認した。ブラウスにタイトスカートという格好にも見えたのだが、よく見るとパッケージの女性は何かの制服を着ているようで、その服にはロゴのマークのようなものも描かれていた。

 モオルダアがそのことを確認して画面に視線を戻すとちょうど画面に女性が映るところだった。ここで再生を止めてもらうことも出来たのだが、そうするまでもなくモオルダアには画面に映っている女性とパッケージの女性が同じ格好であることは解った。

「スケアリー、見た?」

「見ましたわよ。確かにあなたが言っていたように、服装は同じだったようですわね」

スケアリーは少し驚いていたのだが、だから何なのか?というところはまだ何も解っていない。

「ですけど、あの服装をしていたからと言って、それがネトゲの幻覚とか想像とか、そういうことだとは言えませんわよ。ただ、そのパッケージのゲームが少しは関わっているというのは解りますけれど」

「問題は彼女がこのパッケージの女性と同じぐらい美女なところでもあるけどね。引きこもりの立て籠もりの部屋にあんな美女がいたら誰だっておかしいと思うけどね」

「そうかしら?それだったらおかしな理屈で新兵器とか地底人とかで盛り上がっている捜査官と美女の一流捜査官が一緒に捜査をするのもおかしな事ですわね。オホホホホッ!」

モオルダアはスケアリーが何を言っているのか良く解っていなかったので何も答えなかったのだが、そろそろ彼らの会話が気になってきた刑事の一人が彼らに言った。

「あの、我々に何か言うことがあれば言っていただけますか?それとも、ここで証拠映像を見て雑談するだけなら出て行ってもらいたいのですが」

そう言われても仕方ないぐらい二人の会話は怪しい感じだった。スケアリーはまたモオルダアのせいで自分の評判が悪くなったと思ってイラッとしていたが、これ以上彼らの邪魔をするわけにはいかないので部屋を出ることにした。

 とりあえず、あのゲームのパッケージと部屋にいた女性の服装が似ていることは解ったのだし。まあ、それだけといえばそれだけだが。

16. またまた薄暗い部屋

 モオルダアとスケアリーが証拠品を調べている間、この部屋にいた倉井はずっとゲームを続けていた。そして今も続けている。こういうゲームにはゲームの単なるジャンルの他にも色々と種類があって、仕事の合間や通勤通学途中にやるのに適した「すぐやめられるゲーム」というのもあれば、休日などに家でじっくり遊ぶような「なかなかやめられないゲーム」というのもある。倉井が今やっているのは後者の中でも特にやめられない類のゲームのようだ。しかも倉井はこのゲームを何度も遊んでいるようなのだが、いまだにこのようにのめり込んでいる。

 「なかなかやめられないゲーム」を作っても作り方が悪ければ、それは「なかなか進まないゲーム」あるいは「退屈なゲーム」であり、人によっては「クソゲー」と呼ぶこともあるゲームになってしまう。

 それを考えたら倉井が何度も遊んで、しかもその度に夢中になれるこのゲームは名作と呼んでも良いゲームなのだろう。そのゲームをどこのどんな人物達が作ったのか、という事が解るとそれは恐ろしい事かもしれないが。


 倉井は相変わらず無表情のままテレビ画面を凝視していた。そして、その固まってしまったような感情をなくした表情とは裏腹に、コントローラーを持った手の指先は絶えず動いていた。そして、激しい銃撃戦の音と爆発音。その爆発のたびに明滅するテレビからの光がそのまま部屋の明るさになっているのは、この部屋ではずっと同じだった。

「急いで!**を射殺するのよ!」

テレビからゲームの主人公(つまり倉井自身)に指示する女性の声が聞こえてくる。倉井はそれが聞こえているのかどうか解らないが、とにかくコントローラーを動かして標的を追いかけていった。もう何度もやっているゲームなら簡単にできそうなものだが、そうはいかないのがこのゲームの面白いところなのだろうか。

 そうしている間にもテレビからは女性の声が聞こえてくる。あらかじめプログラムされたものとはいえ、ゲームの画面にあわせて上手く台詞が選択されるので、実際にゲームで遊んでいるのならのめり込んで当然かも知れない。

 そんなことを考えるまもなくゲームに熱中していた倉井だったが、あとちょっとのところで標的を取り逃がしたようだった。そして画面にはやり直すか終わるかの選択画面が表示されていた。もちろんこんなところで諦めるつもりのない倉井は「やり直す」を選択しようと思ってボタンを押そうと思ったのだがその時思わぬ事が起きたのだった。

「ちょいと!何なんですの?!」

これまでこのゲームのこの画面でそんな音がしたことは一度もなかったのだが、おかしな台詞が流れてきて倉井はギョッとしてボタンを押す手を止めた。そして、その声はテレビのスピーカーから聞こえて来たのではないこともなんとなく解った。

「次は成功させないと承知いたしませんわよ!」

また声が聞こえた。倉井はハッとして首を横に向けてそこを見上げた。なぜかは知らないがそこには女性がいて、倉井に挑戦的な視線を投げかけていたのだった。