17.
警察署を出たモオルダアとスケアリーはとりあえずスケアリーの車が止めてある駐車場までやって来たのだが、それからはどこに行けばいいのか見当も付かずに困っていた。こういう時に良いタイミングで何かが起きてくれたら良いのだが、そういうことは滅多にない。
セーフハウスにかくまうことになった男の家には今は警察がいて異常がないか調べていたのだが、迅速に行動してF.B.L.の二人よりも先に謎のゲームを持ち出す犯人が他に証拠を残すわけもない。他に何かがありそうな場所はないか?とモオルダアは考えてみた。もしかするともう一度ローンガマンのアジトに行って話していたら面白い最新兵器の話などが出てきて、それが捜査を進展させるきっかけになったりしないかとも思ったのだが、そんなに都合良く行くはずないとも思ってやめることにした。
そうなってくると本格的にやることがなくなってくる。二人とも黙ったまま、お互いの苛ついたような焦っているような、何とも言えない無言の圧力のようなものを相手から感じていた。するとその時、ピコン!という何かが閃いた時の効果音のようなものが聞こえて来た。
二人は何かと思ってお互いを見ていた。しかし、なんの音なのか良く解らないし、二人の晴れない表情からは何かを閃いたような様子は見えなかった。しばらくまた別の種類のミョーな沈黙が続いたが、スケアリーが何かに気づいたのか「あら、いやだ…」と言いながらポケットから携帯電話を取りだした。
最近買い換えたばかりのiPhoneなので、スケアリーは自分で設定したメールの着信音を忘れていたに違いない。モオルダアは「なんだ…」と思っていたが、どうでも良いことでもあったので、スケアリーがメールを読むのをなんとなく眺めていた。するとスケアリーの目にちょっとした輝きが戻ってきたような感じがした。
「ちょいと、モオルダア。良い情報が入りましたわよ」
どうやらスケアリーもこの事件にのめり込んできているようで、新たな展開があると知って多少興奮しているようだった。
「あたくし、あのゲーム店の店員に名刺を渡しておいたんですけれど、多分それを店長様に見せたのですわね。店長様が常連客のリストをメールで送ってくれましたわ!」
それは確かに良い情報である。そして、モオルダアは都合の良いタイミングでこういうことも起こるものだ、と思って関係ないところでも盛り上がっていた。
スケアリーがゲームソフト屋さんの店長に確認の電話をした後に、モオルダアのところにもメールが届いた。スケアリーが先ほどのメールを転送したようだ。
「で、どうする?」
モオルダアは送られてきたリストを見ながらなんとなく聞いて見た。するとスケアリーは少しムッとして答えた。
「どうする、ってなんなんですの?鍵はあのゲームだと言っているのはあなたなんですのよ。それほどたくさんの名前があるわけではありませんから、手分けすれば今日中に全員から話が聞けるかも知れませんわよ」
スケアリーが日が暮れてもこのように捜査を続けようとするのは意外だとも思った。しかし、殺人ではなくともネトゲは命を落としているのだし、それ以外にも謎が多い事件でもある。こうなるとスケアリーとしても家に帰ってゆっくりなどしていられないのだろう。
あるいは、モオルダアのおかしな説が間違いであると証明しようと躍起になっているのかも知れないが。いずれにしても時間がかかればかかるほど事件の解決は困難になってくるような気もした。
それよりもどこがどう事件なのか?というところから良く解らないのだが。まずは立て籠もったネトゲが狙撃された。そして、そこにいたはずの女性が行方不明になった。F.B.L.の二人がすべきことはその女性を捜すことだったのだが、彼らはいつの間にか謎のゲームを追っている。そこに必然性がないわけでもないのだが、まともに考えればおかしなことでもある。しかし、女性が行方不明になることからしておかしな事が始まっているので、考えがおかしな方向に進むのはある意味では正しい事なのかもしれない。
どこからともなく湧いてくるそんな考えが時々二人の頭をモヤモヤさせるのだが、とにかく今は急いだ方が良いのである。
「あたくしは車を使って少し遠くの方の家を訪ねてみますわ。といってもそれほど遠くからあの小さな店に来る人はいなかったようですけれど。あなたはこの近くから始めてくださるかしら?」
「全部で10軒なら五軒ずつって感じかな。そのゲーム屋さんの常連って意外と少ないんだな」
「それはどうでもイイと思いますけれど。小さなお店でしたし。とにかく行きますわよ。何かあったらすぐに連絡するんですのよ」
「じゃあ着信音の確認も忘れないようにね」
最後にモオルダアが気の利いた冗談を言ったつもりだったが、歩き出したスケアリーは振り返って彼を睨み付けた。ともかく二人は謎のゲームを受け取った可能性のある人物の家を回って話を聞くということになったようだ。