06. さっきの公園
スケアリーは次の行動に出た、ということになっていたのだが、一体何をしたら良いのかしら?と思う以外に他に出来る行動はなかった。それでも何かやることがあるような感じで警察署を出てきたので、何かをしなくてはいけない。それでなんとなく先程の事件現場の方へとやって来た。
人質らしき女性の行方が解らない事もあって現場付近はまだ警官達が大勢いて物々しい雰囲気が漂っていた。スケアリーはこの光景にどこか違和感を感じながらも、彼女自身もなぜそう思うのか解らずに警官達の姿を眺めながら現場の前を通り過ぎた。
あの女性は確かに現場にいた。それはテレビカメラが証明している。しかし彼女が何者で、なぜあの場所にいたのかは全く解らない。人質なのか、そうでないのか。もしもそうでないとして、彼女は安全なのか?それはつまり、彼女の身の安全ということよりも、彼女が危険な人物ではないのか?ということだが。スケアリーはそこまで考えを進めると少し不安になって、どこでもいいから走って行かないといけないような、焦った気持ちにもなっていた。なぜそんな感覚に陥るのか解らなかったが、それがスケアリーが自身では否定している乙女の第六感なのかもしれない。
それはそうと、現場の前を通り過ぎたスケアリーは、先程子供達が携帯ゲームで遊んでいた公園に近づいていた。すると、そこに良く知っている後ろ姿を見付けた。そしてにわかにスケアリーの機嫌が悪くなったようだ。
「ちょいと、モオルダア!」
いきなり呼ばれてビビったモオルダアはいつものようにビクッとしてから振り返った。もちろん、いつものようにビクッとしたことは気付かれていないような素振りで。
「やあ、やっぱりキミもここが気になったのか」
「やあ、じゃないですわよ!それは一体何なんですの?」
スケアリーの視線はモオルダアの持っている物に注がれていた。
「ちょっと気になったからね。借りてきたんだけど…」
そう答えたモオルダアの手には、先程ここで遊んでいた子供達が持っていたのと同じような携帯ゲーム機があった。
「あなた、それって。自分がしていることが解っているんですの?勝手に人の使っているインターネットの回線を使ったりしたら、それは犯罪ですのよ!あたくし、先程も子供達にそのことを言おうかと迷ったのですけれど。でもあなたがそんなことをしているのなら…」
「いや、ちょっと待って」
今にも怒り出しそうなスケアリーに対して冷静に返事をするモオルダアは何か面白い発見をして得意になっている時なのだが、こういうことはスケアリーにとって気に入らない状況でもある。とにかくスケアリーはモオルダアの話を聞くことにした。
「ボクだって勝手に他人の無線LANを使う事がいけないことだってことは解っているけどね。ただし招待を受けたなら話は別だってことになるけど」
モオルダアはこういう時には必ずちょっと遠回しな感じで話し始めるのだが。それがまたスケアリーは気に入らない。モオルダアは持っていたゲーム機を操作してからスケアリーに見せた。
「ここにやって来るとこのゲーム機に謎の招待状が届いていてね」
「なんですのそれ?」
画面には意味不明の文字の羅列が表示されているようだった。
「ボクも初めはゲーム機が壊れたのかと思ったけど、さっきの子供達の事と、この場所の事を考えると何か意味があるように思えてね。おそらくこの付近でインターネットに接続できる機械を持っていたらどんな機械にも何かしらのメッセージが送られてくるんじゃないかと思うんだけど。もちろん、それを表示できる機能がないと何も起こらないと思うけど…」
「つまり、勝手にネットワークに接続されていたということですの?」
スケアリーはモオルダアの言うことの最後の方は聞かずにそう言うと、ポケットから自分の電話を取り出して操作を始めた。
「あらいやだ。何かがおかしいのかも知れませんわ!これってどういうことですの?あたくしのiPhoneも勝手にネットワークに接続されているようですわよ」
わざわざ「iPhone」と言わなくても良いのだが、モオルダアがいつの間にかスマートフォンなので、私もそれくらいなら使いこなせていますわよ!ということでiPhoneであることをアピールしてるに違いない。
それはともかく、スケアリーが不思議そうな表情をモオルダアに向けると彼はちょっと満足したような表情になったので、スケアリーは「しまった」と思った。そんなことはどうでもイイが、これはおかしな話である。
普通は野外でネットワークに接続しようとするのならそれなりの契約が必要になるはずである。接続の種類にはイロイロあるのだが、少なくとも完全な無料というのは聞いたことがないし、自分で接続の設定をしない限りは接続できるはずもない。しかし、この場所ではなんの設定も無しにそれが可能になっていた。
「そうなんだよね。ボクもさっき気付いてから何だか気持ち悪くてね」
そう言いながらモオルダアは自分の電話もネットワークに接続されていたということをスケアリーに言うと同時に自分のスマートフォンのアピールも忘れなかった。
「同じWiFiのネットワーク上にあるとセキュリティーの面でも外部のネットワークより危険なこともあるらしいしね」
モオルダアが言ったがスケアリーはなんで彼がこんなにこの辺の技術に関して詳しいのか疑問だった。それで彼女が怪訝な表情をしていると、モオルダアが気付いたのか、付け加えた。
「ああこの話は、さっきこのゲーム機を借りに行くときにヌリカベ君達から聞いたんだけど…」
ヌリカベ君とは政府の陰謀を暴こうとかイロイロと頑張っている組織「ローンガマン」のリーダーである。彼らのことはCAST参照。ちなみにモオルダアの借りてきた携帯ゲーム機はフロシキ君の持ち物である。
それはどうでもイイが、それが本当だとすると大変ですわ!とスケアリーは思っているようである。
「それって、凄く危険なことなんじゃないかしら?どうやったか知りませんが…。勝手に他人の使っている回線を使うということはありますけど、逆に勝手にあたくしの端末が知らない人のネットワークの中に取り込まれているって…」
そこまで言ってスケアリーは慌ててiPhoneの電源を落とした。
「まあ、そこはこのゲームを調べてみないとね」
モオルダアはスケアリーに反して冷静な感じで答えると、持っていたフロシキ君の携帯ゲーム機を持ち上げてスケアリーに見せてちょっと得意気な顔になっていた。