「マキシマム・ビューティー」

12.

 モオルダアがうなだれているところへスキヤナーが入ってきた。今度は多少怒っているような感じだったが、モオルダアが椅子に座ってうなだれているので彼にはなんだかワケが解らないことになっていた。

「おい、いったい何があったんだ?あの人が怒って出ていこうとするから声をかけたら、あの女、うるせえハゲ!とか言って出ていったんだぞ。おい、モオルダア。いったいあの人に何をしたんだ?」

モオルダアはスキヤナーの声にゆっくりと反応して彼の方を見た。

「副長官。世の中の関節はガタガタですねえ」

「なんだそれは?」

「ガタガタだけど、それでもちゃんと繋がっていることになっていて、そんなふうにいろんな事をごまかしながら前に進んでいるんです」

何のことだか全然解らなかったが、スキヤナーにはモオルダアが柄にもなく落ち込んでいることだけは解った。

「どうでもいいが、ちゃんと解るように話してくれないか?」

スキヤナーにこう言われてモオルダアは一度考えをまとめるのに少し間をとってから話し始めた。

「さっきの女の人、双江さんって言うんですけど、捜査の依頼をしてきた婚約者の中場って人は双江さんがブスになった原因を彼女に知られないように調べて欲しかったんですよ。でも本当は恋が盲目で双江さんには何も起きていなかったんですが、双江さんはもう一度中場を恋で盲目にしろって言うんです」

まとめすぎて全然ワケの解らないことになっているが、スキヤナーはなんとなく解ってきた気がした。

「それで?」

スキヤナーが続きを聞いた。

「それで?って言われてもだいたいそんな感じですが。双江さんはエフ・ビー・エルをなんだと思ってるんでしょうねえ?なんでボクがそんな二人の仲を取り持ったりしなくちゃいけないんですか?それもあんなドロドロした二人の仲を」

「まあ、それもそうだなあ。だいたい、なんでキミがそんなことを捜査してたんだ?」

「そんなの知りませんよ。相談窓口でボクが紹介されたということですけどねえ。これはきっと陰謀なんです」

モオルダアがなんとなく口にした「陰謀」という言葉で、なんだか急にモオルダア本人が盛り上がってくる感じがした。そうだ、確かにこれはおかしな話だ。

「きっと、こういうことですよ。ボクにスケアリーの捜索をさせないために誰かが意図的にこんな厄介な事件の捜査をボクにやらせたに違いない!」

スキヤナーがモオルダアがなぜか元気になってきたので少し安心したが、彼の意味不明な被害妄想みたいな考えも気にかかる。

「キミが望んでもスケアリーの捜査は他の捜査官にやらせることになってたから、そういうことはないんじゃないか?だいたいキミはスケアリーに狙われている立場なんだぞ」

「副長官。ボクは優秀な捜査官ですよ。たとえ上司に止められたって力ずくで捜査をする優秀な捜査官なんですから」

モオルダアの妄想が暴走し始めている。

「だいたい今スケアリーの捜査をしている捜査官は彼女の行方が解ったんですか?」

「彼らは今、全力で捜査を続けている」

スキヤナーは毅然としてモオルダアを見据えた。


12.2(スケアリーの部屋)

捜査官1-----なあ、なんかあったか?

捜査官2-----なんにもないよ。もう面倒だから帰んねえ?

捜査官1-----そんなこと言ったって、手ぶらじゃ帰れねえだろ。


12.3

「全然やってないじゃないですか!」

「あれ、本当だねえ」

スキヤナーはちょっと困ってしまった。しかし、ここはもう一度彼らを信じてみよう。きっと何かの手掛かりを見つけてるはずだ。


12.4(スケアリーの部屋)

捜査官2-----おい、ちょっと見てみろよ。タンスの中に凄いのがあったぜ。

捜査官1-----なんだそれ、下着か?

捜査官2-----そうだよ。凄いだろこれ。あの人こんなの着てるんだな。

捜査官1-----そのセクシー大胆下着が何かの手掛かりになるかな?

捜査官2-----なるわけないだろ!

捜査官1-----それもそうだ!アハハハハ!


12.5

「これはもうボクに捜査をまかせるしかなさそうですねえ」

モオルダアにこう言われてスキヤナーは返す言葉がなかった。彼はしばらく黙ってうつむいていたがやがてモオルダアを見て言った。

「よし、こうしよう。私はキミが単独でスケアリーの捜査をすることに関しては目をつむろう。そしてそこで何か問題が起きたなら私は出来る限りキミに協力する。それでどうだ?」

「うーん。ついでにペケファイルも再開してくださいよ」

「それはどうにもなあ…。それじゃあ、私が幽体離脱をした時の話を聞いてくれたら再開してあげるがね。どうだ?」

幽体離脱の話ってなんだか解らないが、きっと知ってる人は知ってるだろう。でもモオルダアはそんな話を聞くのは面倒だった。

「それよりか、ボクが無事にスケアリーを見つけたらペケファイル再開、というのはどうですか」

「幽体離脱の話は聞きたくないのか?いい話なのになあ。でもまあいいか。じゃあそれで交渉成立だ。しっかり頼んだぞ!」

見る見るうちにモオルダアにやる気がみなぎってきた。彼がスケアリーを見つける。そうすればペケファイルが再開されるだけではなく、パートナーはあの美人になったスケアリーだ。しかも密かにセクシー大胆下着を持っているスケアリーだ!

 モオルダアは颯爽と部屋をあとにした。

13. どこかの山の中の別荘

 ここはスケアリーの車が止まっていた別荘。それほど大きくないログハウスのドアは外から開けられないよう扉の内側に本棚が倒された状態でおかれていいる。そして、これから訪れる雪の季節に備えて全ての窓は板で打ち付けられてほとんど外からの光は入ってこない。この状況でここに入るのにも、それからここを出ていくのもかなり苦労しそうな感じだ。ログハウスとはいえ、そこは今ではちょっとした監獄とさえ思える光景である。

 この簡易牢獄のちょうど真ん中当たりにスケアリーが倒れている。体を横向きにして両腕は胸の前にだらりと投げ出されている。その腕の少し先には注射器が落ちていた。きっとそれはスケアリーに使われたものだ。スケアリーの上着の袖が片方だけヒジのところまでめくれている。何を注射されたのか解らないが、スケアリーは意識を無くしてこの暗いログハウスの中に一人で倒れている。

 スケアリーの顔はいまだにモオルダアを襲った時の美しさを残していたが、頬がこけて、目は大きく落ちくぼみその周りに影を作っていた。生気が失われている。今のスケアリーにはこの言葉が見事に当てはまった。