「404」

0. まえがき

 この話はシーズン2の途中から時々やっている本物の方(つまり「the X-Files」)のパロディでもあるので、大量のネタバレを含みます。もしもこれから本物の方を見る予定があるのなら気を付けてください。

1. F.B.L.ペケファイル課の部屋

 スケアリーが部屋に入ると、恐らくこれまでも部屋のあちこちをそうやって何かを探しまわっていたのだろう、という感じで何かを探しているモオルダアの姿が目に入ってきた。机の下を覗き込んだり、引き出しを開けたり、机の上にある書類をめくってみたり、考えられるあらゆる場所を探した後にもう一度引き出しを開けてからモオルダアは動きを止めて考え込んでいたようだった。

「ちょいと、どうなさいましたの?」

スケアリーがいたことに気付いていたのかいないのか解らないが、突然声をかけられてもそれほど驚かないモオルダアというのはちょっと意外だった。それほど探し物に集中していたのかも知れない。

「このあいだこの部屋にプロジェクターがあったでしょ。あれどうしたのかな?」

「プロジェクターって、あのプロジェクターですの?」

「そうだけど」

モオルダアは何でそんなことをスケアリーがいちいち確認するのか?と思っていたのだが、スケアリーはスケアリーでモオルダアが書類の下とか、机の引き出しにあのビデオデッキほどの大きさのプロジェクターが入っていると思って探していたのか?と不思議に思っていたのである。どう考えてもないものを探していて、そしてどうしてもそれが必要だという時にはあり得ない場所でも探してみる価値はあるということなのだろうか?それはどうでもいいが、スケアリーはモオルダアにとって残念な報告をしなければならなかった。

「アレなら捨てましたわよ」

「捨てたって。あれは結構イイものだったんじゃないの?」

「そうですけれど、ダメなものはダメですから捨てたんですのよ!」

ここでスケアリーの機嫌が悪くなって、モオルダアはどうして機嫌が悪くなるのか不思議に思ったのだが、そこを追及するとさらに機嫌が悪くなるような気もしたので、プロジェクターはあきらめるしかなかった。プロジェクターが処分された理由については前回のエピソードを読むとだいたい解る、という宣伝だが、あの事件の直後にプロジェクターはスケアリーによって破棄されてしまったのだ。

「それじゃあ、まあいいか」

あれほど必死で探していたモオルダアだが、プロジェクターがないと解ると意外とあっさりあきらめてテレビのところに向かった。それからテレビの横にあるDVDプレーヤーにラベルの付いていないDVDを入れて再生ボタンを押した。

 スケアリーは少し嫌な気がした。いつもの怪しい話に関するDVDなのだろうが、わざわざ自分を呼びだして見せるというからにはそれなりのものなのであろう。しかし「それなりのもの」というのはスケアリーにとっては面倒なものに他ならないのだが。


 再生が始まると、何の前置きもなく画面には縦長の部屋が映し出された。数々の医療器具が置かれて、中央には手術台のようなものがある。そのまわりに防護服を着てマスクを付けた何人かの人間が立っていて手術台の上の何かを調べているような感じだった。部屋の天井に付けられた監視カメラで撮影したような映像なので、部屋にいる人間達が何をやっているのか、正確なところは良く解らないし、映像自体も鮮明さに欠け、時折画面に現れるノイズのために見るのに苦労するものだった。それにカメラにマイクが付いていないためか音は少しも聞こえてこない。

「これが何だって言うんですの?」

「コレハ、チョット、オモシロイモノデスネェ」

スケアリーが聞くとモオルダアがヘンな発音で答えた。どうしてそんな話し方なのか解らないが、いちいち気にしているのは面倒なのでもう一度スケアリーが聞いた。

「だから何なんですの?」

スケアリーに言われると、モオルダアはこのディスクの入っていたケースをスケアリーに渡した。ケースには「衝撃映像・エイリアン大解剖!(¥2,980)」とパソコンでプリントされたようなラベルシールが貼ってあった。

「これは何かの冗談かしら?こんな作り物の映像に2980円を払ったのなら、あなたはものすごい無駄遣いをしたことになりますわね」

スケアリーは皮肉めいた笑みを浮かべながらモオルダアにケースを返した。

「ただし、これは他のエイリアン解剖ビデオとは違うんだよね。コレヲ・チョット、ミテクダサイ。コレハ、オモシロイモノデスネ。…ほら、こういうところとか。解剖のやり方が専門的だと思わない?他のだったら、この辺は適当だから映画やテレビのまねごとみたいになっていたり、専門家ならおかしいと思うところが沢山見つかるんだけどね」

「確かに解剖のやり方は専門的のようですけど、でもどうしてこの人達は防護服や防毒マスクをつけているんですの?」

「エイリアンの毒ガスから身を守るためだと思うけどね。彼らの体液が気化すると猛毒のガスになるという話はこれまでに出てこなかったかも知れないけど、ボクはそんな気がするんだよね」

「何を言っているのか意味が解りませんわ。それに、何を解剖しているのか全然映ってないじゃございませんこと?これではエイリアン大解剖としては詐欺ですわよ」

「それが本物であることを裏付けているとも言えるぜ。ニセモノならどうしてもエイリアンを見せようとするけど、これは本物の監視カメラの映像だから、エイリアンが映るか映らないかにかかわらず部屋全体を映しているんだよ。そして、ここからがオモシロイトコロデスヨ。コレヲ・チョット、ミテクダサイ」

モオルダアはまたヘンな発音で話しながら映像を少し早送りした。そして普通の再生速度に戻すと、画面では部屋の奥にあるビニールのような半透明のカーテンがかけられている向こうから機関銃を持った「特殊部隊のような人達」がなだれ込んでくるのが解った。そして彼らが部屋の中にいた人間達に機関銃を発射した直後に画面が真っ暗になって、そこで映像が終わってしまった。

「なんなんですの?」

この映像を見てスケアリーは少し嫌な気分になっていた。あのような「特殊部隊のような人達」というのは実際に以前の捜査で何度も登場している。そして、彼らが登場するということはこれが何かややこしい大きな問題をはらんだ事件と関係しているかも知れない、ということを意味しているのだ。

「ナンダ、アヤツタチ!?」

という感じだよね。モオルダアがまたヘンな発音で言った。そろそろスケアリーもその話し方にイライラしてきたようである。

「さっきから一体なんなんですの?!別に面白くないですからそんな喋り方はやめてくださるかしら?」

「そうじゃなくてね。実を言うとこのDVDは『カタコト日系人密入国事件』の捜査の過程で見付けたものなんだけどね」

「なんですの、そのカタコトなんとか、っていうのは?」

「アメリカの日系人が日本人になりすまして密入国しているってことで、スキヤナー副長官にその捜査を頼まれてたんだよね。ボクはF.B.L.ってそんな捜査もするのか!?ということに驚くと同時に、どうしてボクにそんな事件の捜査を依頼するのか?とも思ったんだけど、スキヤナー副長官が言うところによると、ボクがカタコトが得意だからだとかいうことで」

モオルダアが何を話しているのか、話に付いていくのが大変になりそうだったが、どうしてヘンな話し方をしているのかだいたい解ったのでスケアリーはうなずいていた。

「すると、今回はその密入国者達を探すということですのね?」

「いや、そうじゃなくてね。その事件はもう捜査しなくてよくなったんだって」

「何でですの?」

「彼らの射殺体が川で発見されて、そうなってしまうともうF.B.L.が扱うところではなくなるとかで…」

「射殺体って、まさか?」

スケアリーの頭の中に先程の映像に出てきた特殊部隊のような人達の姿が甦ってきた。

「だからスキヤナーに言われたとおりにこのままおとなしく手を引くわけにはいかないと思うんだよね」

どうやらこの謎のDVDについて調べなくてはいけなくなりそうだ。それよりF.B.L.がどんな団体でどんな事柄を捜査しているのかまた解らなくなってきているが、そこは気にしてはいけない。