22. F.B.L.ビルディング
モオルダアがロリタを追って電車に乗り電話が切れた後、スケアリーはぺけファイル課宛に届いた写真を何度も見直していた。それから、モオルダアの持ってきたDVDを最初から注意深く見ていた。
ナレーションもキャプションもなく、ただ淡々と防犯カメラのようなものの映像が流れているというのは今のスケアリーにとっては恐ろしい感じのするものだった。しかし、そうすることが真実に近づくための方法であると確信していたので、恐ろしくても彼女が気になっている何かを見付けるまではDVDを見続けなければいけなかった。
30分ほど経ったころ、画面の中で一人の医師が移動して少し防犯カメラに近づく場面があった。スケアリーはそこでDVDを一時停止してそこに映っている顔と、送られてきた医師の写真を見比べていた。一瞬、気味が悪くて背筋が冷たくなるような感じがしたのだが、スケアリーはDVDに映っている顔と写真の顔が同じ人物のものだと確信した。
スケアリーがこの医師に興味を持ったのは他にも、理由がある。スケアリーはここに映っている医師のことをなぜか知っている気がするのだ。気がするというよりも、写真を見た時からその顔に見覚えがあって、どこかで会っているということを思いだしたのだ。
そこに映っているのが本物の医師ならばスケアリーと会っていてもおかしくはない。無免許ではあるが医師のスケアリーなら何かの会合などでその医師とあっているかも知れない。ただし、それがアメリカからやって来た日系人の医師ということになると可能性は低くなるのだが。
とにかくスケアリーはこの恐るべき事実をモオルダアに伝えようと彼の携帯電話に電話をかけたのだが、ちょうどその時はモオルダアがロリタを追いかけて横浜の街を急ぎ足で歩いていた時のようで、電話に気付かなかったようだ。スケアリーは「何なんですの!?」と思ったのだが、これ以上ぺけファイル課の部屋でやることもなくなったので、とりあえず自分の高級アパートメントに帰ることにした。
話の流れで行くと、ここで章が変わってスケアリーの高級アパートメントの場面になってスケアリーのシャワーシーンもあるかと思われるのだが、そうはいかなかった。
スケアリーが高級アパートメントの自分の部屋の入り口にやって来ると背後からミスター・ペケに声をかけられた。ミスター・ペケは時々登場してモオルダアに政府や、その他の怪しい機関の情報をこっそり教えてくれたりする怪しい人物なのだが、スケアリーはまだミスター・ペケのことを良く知らなかったので、始めはストーカーみたいな人だと思ってキモいと思っていた。しかし、モオルダアとスケアリーの捜査のことを知っていたり、本物の銃を持っていたり、ただ者ではない感じで、しかもスケアリーの持っている金属片のことを知っているというのが決め手となり、スケアリーはミスター・ペケの言うことを聞くことにした。するとミスター・ペケがマイクロチップを調べろというので、スケアリーは「それだったらF.B.L.ビルディングで言ってくれないと、また戻るのは面倒ですわ!」と思ってしまったのだが、とにかくミスター・ペケの言うことを聞くことにしたので、仕方なくまたF.B.L.ビルディングに戻ってきたのである。
なので、章は変わらずにまだF.B.L.ビルディングということなのだ。
スケアリーは再びF.B.L.の技術者のところへやって来て、マイクロチップのことを調べ直していた。技術者は今度こそスケアリーに良いところを見せようと張り切っていたのだが、スケアリーはそんなことは気にせずに技術者の作業が終わるまでブルボンのエリーゼを食べながら待っていた。
技術者はスケアリーの首の付け根から取り出したマイクロチップを何かの機械につなげて調べているようだった。機械とつながっているパソコンの画面には波形のようなものが表示されている。
「どうやら何かの情報が記録されているようですね」
技術者が言うと、スケアリーは開けようとしていたエリーゼの袋を箱の中に戻して技術者の方に目を向けた。
「それってつまり、メモリーカードみたいなものかしら?」
「いや、それよりももっと複雑な感じで…。どちらかというと脳が情報を記憶するという感じに近いんですよね」
それはやっぱりメモリーカードみたいなものじゃないかしら?とスケアリーは思ったのだが、技術者が違うといっているので違うのだろう。
「それって、もっと生物的なことってことかしら?生体情報とかかしら?」
良く解らないがスケアリーが適当に聞いてみた。すると技術者が得意げに頷いていた。
「そう考えるのが普通なんですけどね。これって首の付け根に埋め込まれてたって話ですよね。だとすると、脳からの信号を記録すると考えられるんですけど…、こちらをご覧ください」
技術者はそう言うとパソコンの画面を指さした。スケアリーは技術者のこの口調は以前モオルダアのやっていたのと同じだとおもって、もしかしてこの二人の間で流行っているのか?とか思ったが、そこを気にしても仕方がないので画面に注意を向けた。
「このグラフを見ると、情報の刺激が繰り返し送られているのが解るんです」
「それって、記憶を形成するみたいですわね」
技術者はスケアリーがそんなことを知っているのに驚いたが、これでさらにスケアリーが魅力的でドキドキしてしまうとも思ってしまった。
「どうやら、このチップは人間の脳の働きをマネしているようなんですよ。フフ…」
スケアリーは何で技術者がフフ…っと気持ち悪い感じで笑うのか気になったが、このチップのほうが気になったので技術者にさらに続けるように目で促した。
「もっと詳しく言うと、人間の思考そのものを記録しているとも言えますね」
「それって、意識や感情なども記録できるってことですの?」
「ええ、まあ…」
スケアリーは今日に限って「ええ、まあ…」という返事は気に入らないのでちょっと気分を害したような表情を見せた。技術者はどうしてそんな表情をするのか?と思ったが、このままだとスケアリーに嫌われそうなので話を少し変えることにした。
「とにかく、ここまで複雑なものはあまり見たことがありませんね」
「あまりないって、どういうことですの?これまでにもこういうものが作られてきたと言うことですの?」
「まあ、この大きさだと世界初!かも知れませんけど。作っているメーカーの名前は解ったんですよ」
「小さなものは日本製に違いないですわね」
「ええ、まあ…」
またスケアリーが嫌そうな表情になったので技術者は慌てたのだが、もうほかに話のネタがないので仕方なく先を続けた。
「ただ、日本のメーカーといってもそんな名前のメーカーがあった記録はないんですよね。ただ、あらゆる可能性を考えてF.B.L.の技術力を駆使していろんなデータをググってみると、なんと宅配便の記録の中にそのメーカーの名前が出てきたんですよね。山梨の山の中にある施設宛に送られていましたよ」
そう言いながら技術者は住所の書かれた紙をスケアリーに渡した。スケアリーはそれを見ながら、これでやっと話が前に進むような気がいたしますわね!と思って喜んでいた。そして無意識のうちに技術者の腕に手をかけて「ホントに助かりましたわ!これからもこの調子でお願いしますわね!」と言った。
技術者はスケアリーに触れられたことに舞い上がって、なにかを言い返そうにも言葉が出てこなくて「ええ、まあ…」と答えてしまった。もちろん、これを聞いたスケアリーはまた不機嫌になって技術者はアチャ〜…と思っていたのだが。