20. 品川駅
ロリタは健脚なのか、それともケチなのか、あるいは事務所にやってきたような人間達から身を守るためなのか「まあ、歩けないこともないけど、普通は歩かないよね」という距離を歩いて芝浦埠頭から品川駅までやって来た。そして、その後を追っていたモオルダアもかなり疲れた感じで駅までやって来たところだった。なんとか姿を見失わないようにロリタの後をついていくと東海道線のホームに続く階段を降りていくロリタの姿を確認することが出来た。
モオルダアが同じホームのロリタから遠く離れた場所で電車を待っていると彼の携帯電話が鳴り始めた。出るとそれはスケアリーからだった。
「ちょいと、なんなんですの!?」
いきなりスケアリーに言われたモオルダアだったが、そんなことを言われてもなんのことだか解らない。しかし、なんとなくこういうことを言うスケアリーは何か重大なことに気付いたりしていることもあるというのは、モオルダアにもだんだん解ってきていた。
「なにと言われてもね。キミは何か解ったの?」
「それが、その…おかしな話なんですのよ」
「なにが?」
「ですから、ペケファイル課宛に郵便が届いたんですのよ」
「ああ、あれか。あの議員に送ってもらったやつだ」
「そのようですわね。あなたの言っていたカタコトの医師達とういことらしいですけれど」
「それで、その写真がどうしたの?」
「ですから、それがおかしな話なんですのよ」
「おかしいって何が?」
「おかしいものはおかしいのですよ。それよりも、あなたは一体どこにいるんですの?」
どうやらスケアリーは電話だと話しづらい事に気付いてしまったようだ。電話の向こうではモオルダアが何かを言っていたが、電車の発車を知らせるあの電子音でメロディーが流れてきて、それでモオルダアの言っていることは良く聞こえなかった。
「あなたが今いるのは品川駅ってことですわね?」
「なんで解ったの?」
「そんなものは発車メロディーで解るものですのよ。それよりなんでそんなところにいるんですの?」
「だから、さっきも言ったけど…、ああ、もう電車が出るから切るね」
モオルダアはそういってから電話を切ると、ロリタが乗ったのを確認してからそれと同じ電車に乗り込んだ。モオルダアの人を尾行したりする能力がどのくらいなのか知らないが、今回はまだバレずにロリタを追跡することができているようだった。
そんなことよりもモオルダアには心配なことがあった。彼の乗り込んだのは東海道線の下り電車だが、ロリタがこの電車の終着駅まで行くと、モオルダアのSuicaの残高が足りなくなる恐れがある。出る時にSuicaチャージなどしていたらロリタを見失いそうだし、これまでの経験から改札でF.B.L.の身分証を見せても通してくれそうにはないし、モオルダアはなるべく近場でロリタが降りてくれることを願っていた。