「404」

3. 警察署

 ここはモオルダアとスケアリーが先程逮捕した男を連行してきた警察署である。さっきの場所が府中市となっていたのだから、恐らくここは府中市にある警察署であろう。どうしてこんなことを書くのかというと、時に話がどこで進行していようと関係ないことがあるからである。この事件も府中市で起きなければいけない理由はないのだが、この辺りがどんな場所なのか?という設定を考えた時に私が「府中市みたいな感じかな」と考えたから府中市になっていただけなのだ。府中市がどんな場所かを知っている人なら説明しなくても、そこがどんな場所かは解るのだし、そうでない人は私の書いたチョットした情報からここがどんな場所かを推測するしかないのだが。

 そんなことはどうでもいいが、ここは東京の都心に比べたら静かな環境にある場所であるということなのだ。とにかく、モオルダアとスケアリーが怪しいDVDの発送元を調べてやって来ると、そこでは男が殺されていた。殺された男の風采からいうと、自分が恐ろしい殺人事件の被害者になるとは思ってもいなかったに違いない。この静かな街でちょっと怪しいことに興味を持って、おかしなDVDを通販で売ったりした以外はいたって普通の男という感じだった。その男を後ろ手に縛ってから処刑したと思われるカタコトの男は逃げようとしたところをモオルダアとスケアリーに捕まえられ、今はこの警察署にいるのである。


「あなたが捜査してたっていう不法入国の日系人ですけれど、その人達は遺体で見付かったって言ってましたわよね。あたくしはまだ信じられないのですけれど、あのDVDに写っていた人達がその人達で、あの最後の場面で射殺されたって、あなたはそうおっしゃりたいんでございましょ?」

スケアリーがモオルダアに聞いた。

「ボクも、まさかとは思ったんだけどね。でもあの家に行ったら人が殺されていて、そこからカタコトの男が逃げだそうとしていたとか、これは驚くべき展開なんだよね。ただ、あの男が酷いカタコトで誰も何を言っている理解できなくてね。取り調べはいっこうに進まないらしいよ」

「カタコトならあなたが得意だからあなたがすれば良いんですわ」

カタコトが酷くて理解できないというのはヘンであるが、警察はあの男から事情を聞くのは困難だと思っているようだ。

「そうなんだけどね。今はあの男のことは警察が調べるってことになってるしね。でも、F.B.L.から良く解らない命令が出てボクが捜査するとか、そういう展開とか…。あれ?あれはもしかすると」

モオルダアはそう言うと警察署の入り口の方から入ってくる人物を目で追った。入ってきたのはどうやらスキヤナー副長官のようだった。

「まさか、F.B.L.から『良く解らない命令』ですの?」

「そうだと嬉しいけどね」

二人はなにか妙な期待をしてしまったが、やって来るスキヤナー副長官は深刻な表情をして彼らのところに近づいてきた。

「おいモオルダア、何をやっているんだ?!」

「何を、って言われても。…なんて言うか捜査ですけど。あの、海賊版DVDとか。それよりも、副長官はカタコトが得意だからここに呼び出されたとか、あるいはボクに命令を伝えるためにここに来たとか?」

「何を言っているんだ?!キミ達はとんでもないことをしたのに気付いてないのか?あの男はすぐに釈放しないと」

「何でですの?人が殺されてたんですのよ。そこから逃げる男が怪しくないなんてことは…」

「国際問題に発展しかねないことなんだよ。キミ達が捕まえた男はアメリカの外交官だってことなんだからな」

そういってスキヤナーは取調室の窓から中を覗き込んで男の顔を確認した。

「外交官?あの男が?」

モオルダアは納得がいかない感じで一緒になって中を覗き込んだ。

「そうに違いない。ついでに言っておくと、彼の苗字はサクライというマメ知識もな」

「なんなんですの?そのマメ知識って」

「とにかく彼は釈放されて、キミ達はこの事件から手を引くということだ。いいな」

モオルダアとスケアリーは納得できない感じだったが、スキヤナー副長官が厳しい調子で言うので仕方なく納得した感じで頷いていた。


 人が殺されて、一番怪しい容疑者が釈放というのはどうにも納得ができない。こうなってくるとモオルダアだけでなくスケアリーも、元は怪しいDVDから始まった事件にのめり込んでくる。警察署の駐車場まで来たスケアリーはいつもより少し鼻の穴を広げた感じで心のどこかから沸き上がってくる怒りを暗に周囲に示していた。

「これでは納得がいきませんわ!そうじゃございません?」

モオルダアはスケアリーが多少興奮気味なのがちょっと恐かったが、ここは努めて冷静にしていた。今回は何か大きな事件に違いないと確信したのか、彼の少女的第六感は彼に冷静になれと伝えているようだった。モオルダアは彼らがここに来るのに乗ってきたスケアリーの車のトランクを開けて、先程男から取りあげたカバンを出した。

「たまにはこういう忘れ物も何かの役に立つんだな」

モオルダアが何を言っているのかイマイチ解らなかったが、男を捕まえた時の騒動で舞い上がっていたモオルダアは、男から取りあげたカバンを警察に提出するのを忘れていたようだ。モオルダアがカバンを開けて中身を確認していた。

「なんなんですの、それ?」

モオルダアは大判の封筒から書類を取り出していた。

「コレハ・チョットオモシロイモノデスネ」

なぜかカタコトで話しているモオルダアだったが横でスケアリーが怒り出しそうな雰囲気を感じて普通に喋ることにした。

「これはなんだろう?衛星写真のようだけど。それから、こっちは。…これはUFOサークルの名簿だね。この名前のところに印が付いているのって…」

「これは、DVDを送ってきたあの家の方の名前ですわ!」

「それから、こっちにも印が付いてるぜ!」

スケアリーはモオルダアがちょっと盛り上がって来た時に言葉の最後に「ぜ」を付けるのが気に入らないのだが、今はそこを気にしている場合ではないので、モオルダアの指さしているところを見た。そこにはUFOサークルの別のメンバーの名前が書いてある。

「これは、つまり。この方も危険だということかしら?」

「そうかも知れないし、少なくとも今回の事件に何か関わりがあるに違いないよ。とにかくキミはこの人のところに行って話を聞いてみてくれないかな?ここから近いみたいだし」

「良いですけれど、あなたはどうするんですの?」

「ボクはこの衛星写真について調べることにするよ」

「そうじゃなくて、移動はどうするんですの?車はあたくしが使いますわよ」

「ああ、そういうことか。でもここからなら電車で行けるしダイジョブだけどね。都内は電車やバスが便利なんだぜ」

そこで「ぜ」が出てくるのがスケアリーはまた気に入らなかったが、ここで怒っても仕方がないので気にしないことにした。そして二人はそれぞれの目的地へと向かった。