「404」

17. F.B.L.ビルディング・研究室

 いきなりゴルチエのマンションの前に現れて正しいのかどうか解らないフランス語を披露したスケアリーだったが、あれは横須賀からの帰りにたまたま通りかかっただけのようだ。高速道路の出口からF.B.L.ビルディングに向かう道の途中にマンションがあったということらしい。それよりも、どうしてモオルダアと話もせずにその場を去ってしまったのか?ということだが、スケアリーは少しでも早く例の金属片のことを調べたかったようだ。


 この研究室にはスケアリーに何か頼まれると張り切ってしまう技術者がいてパソコンのモニタに映った金属片の拡大写真を見ていた。

「これは小さいですねえ。噂には聞いていましたが、こんな小さいマイクロチップがあるとは」

「つまり、これはスーパーカーの模型ではなくて、コンピューターのようなものってことですの?」

「見た目はグリコのオマケみたいなスーパーカーですが、こうして拡大してみると、ほら」

技術者がそういいながら画面に映った金属片を拡大していった。するとそこには、電子機器の中にあるような集積回路をものすごく小さくしたようなものがいくつも隙間なく並べられていた。

「でも、どうしてこんな形をしているのかしら?」

「今じゃ、子供が小型コンピューターを持ち歩いているくらいですからね」

スケアリーは技術者がなんでそんなことを言ったのか解らなかったが、技術者も今の話にはほとんど意味がなかったことに気付いてちょっと恥ずかしくなった。スーパーカーの模型から子供という発想だったのだが。

 技術者はスケアリーに良いところを見せられなくてシマッタと思っていたが、スケアリーはそんなところには気付かずに、何か考え込むようにしながら技術者に礼を言うと、部屋から出ていってしまった。

18. 再び芝浦埠頭の近く

 何かヘンだ。どこかヘンだ。モオルダアの少女的第六感がそう伝えているのにこのまま帰るわけには行かず、彼はコンテナの影に隠れて「カレンチャ君の沈没船情報社」の事務所を張り込んでいた。なんとなく張り込みを始めてしまったのだが、何かが起きるという確信があるワケでもなく本当にここでこんなことをしていて良いのだろうか?と不安にもなっていた。

 そろそろ疲れてきたし、あんパンを買って持ってきてくれるような相棒がいるわけでもない。さっきのようにまたスケアリーが現れて「あんパンですのよ!」と言って渡してくれたりしたら良いのだが、そんなことはあり得ない。もうしばらく待って何もなかったら帰っちゃおうかな?とモオルダアが思っていると、ちょうど良い具合に何かが起こったようだった。

 少し遠くの方から数台の車がやって来るのが解った。たまにトラックが通る他はほとんど車が通らなかったので、数台の車の近づいてくる音はかなり大きく聞こえた。というよりも、それは実際に慌ただしい感じでタイヤをきしませながら「カレンチャ君の沈没船情報社」の事務所の方へと急いでやって来た感じだった。

 車が事務所の前で止まって中から男達が出てくる姿を見て、モオルダアはいつもの特殊部隊のような人達を連想したが、ここにやってきたのは防弾チョッキをまとって銃を構えた人達ではなくて、スーツを着た男達だった。

 彼らもまたいつもの特殊部隊のような人達と同様に素早く正確な動きでドアのところまでやって来た。その顔を見ればだいたい解ったが、彼らは日本人ではなさそうだ。そして話している言葉は恐らくフランス語に違いない。モオルダアは先程スケアリーがフランス語を喋っているのを聞いていたので、なんとなくフランス語っぽいなと思ったのだが。それに彼らがドアを蹴破る時に「アン、ドゥ、トロワ!」と言っていたような気もした。

 とにかく彼らは銃を手にして事務所へ押し入ったのだ。そんな感じで中にいるロリタは大丈夫なのだろうか?モオルダアは心配にもなったが、あの男達がいる中へモデルガンを持って入っていったところでどうにもならないのは解っている。しかし、心配が無用だということはすぐにわかった。

 男達がドアを蹴破って全員が中に入るとすぐに裏口からロリタが出てきたのである。まるでこうなることが解っていたかのようなタイミングだが、ロリタの冷静な顔つきと、急ぎ足でありながらも慌てない感じで街の方角へと歩いていく様子をみると、やはりこうなることが解っていたに違いない。

 何かがヘンで、どこかがヘンだった!そう思ったモオルダアは急いでロリタの後を追いかけた。