「404」

10. モオルダアのボロアパート

 海に飛び込んだモオルダアはパイパイ丸から少し離れたところにある岸まで泳いで陸にはい上がって、そこから自分のアパートまで帰ってきた。書くだけなら簡単だが、服を着たまま海に飛び込んだ後に、岸まで泳いで、ずぶ濡れのまま家まで帰ってくるのは大変な事だった。電車に乗れば、どうしてこの人は濡れているのか?とヘンな目で見られるし、歩けば濡れた下着が体にまとわりついて気持ちが悪いので、何度も服の上から指先でまとわりつく下着をつまんで体から離したり。

 普通に帰ってくるよりは数倍疲れた感じだったモオルダアはとにかくスグにシャワーを浴びて服を着替えて横になりたい気分でアパートの前までやって来た。しかし、彼が部屋のドアに手をかけるとそれどころではないということに気がついた。

 ドアは完全に閉まっておらず、モオルダアがドアノブに手をかけた勢いで、ドアはひとりでに静かに開いていった。家を出る時には確かに鍵を掛けたはずである。モオルダアなら鍵をかけ忘れる事ぐらいはあるとも思われがちだが、彼はそういうところには意外と神経質で、家を出て数メートル歩いた後に一度戻って鍵を掛けたか確認することもある程なのだ。

 モオルダアは何者かにこじ開けられたドアを見ながらモデルガンを取りだした。そして、それを構えながらゆっくりと部屋の中へ入っていった。部屋は暗くて、そこに人がいるかどうかは良く解らなかった。いずれにしても、中に誰かがいるのならモオルダアが帰ってきたことにはすでに気付いているはずである。モオルダアは自分の部屋の中で人が隠れられそうな場所を思い出しながら、辺りを見回した。するとその時部屋の奥から声がして、それと同時にパチンという音が聞こえてきた。

「おいモオルダア、何をやっているんだ!」

モオルダアは慌てて声のした方に振り向いた。パチンという音がしたのは、声に驚いたモオルダアが思わずモデルガンの引き金を引いて、発射されたBB弾が壁に当たった音である。聞き覚えのある声と台詞にモオルダアは多少落ち着いたのだが、まだモデルガンはしまわずに手に持って声のした方を見ていた。そこにいたのはもちろんスキヤナー副長官であったが、なぜ彼がこの部屋にいるのか。そして、どうして部屋の扉が破られていたのか。モオルダアは今回のスキヤナーの行動にも始めから少なからず疑問を抱いている。

「何を、って。色々やってますけど…」

「確かに色々やってくれているみたいだな」

モオルダアは何を言われているのか良く解らなかったが、なぜかスキヤナーは怒っているようだ。

「キミは私が指示する前になぜか事件現場へ行き、そして、なぜかそこから勝手にいなくなったって事じゃないか」

「何ですかそれ?」

「何ですか、じゃない!キミは一体何をやっているんだ?どうやって事件の事を知ったのか知らないが、とにかく私は警察やら関係者に謝るのが大変だったんだぞ」

「それって、もしかして…」

「パイパイ丸だよ。乗員のほぼ全員が被爆して瀕死の状態で入港してきて、その原因が解らないから警察は我々に協力を求めてきたんだ。それを知ってキミは横須賀に行ったんじゃないのか?」

「なんだそれ?!」

いろんな勘違いや、話の行き違いが重なってヘンな事になっているようだった。モオルダアの考えではパイパイ丸にはUFOとかエイリアンが載せられていたはずなのだが。そうではなくて、乗員が謎の被爆によって瀕死だったりして、実はペケファイル課に捜査の依頼があったとか。それを知らずにモオルダアが横須賀港に行ったためにモオルダアは飛び込まなくてもいい海に飛び込んだり、さんざんな目にあったということでもあるのだが。

「それで、被爆って何なんですか?」

「それを調べるのがキミ達の仕事じゃないのか?」

スキヤナーの言うことももっともである。

「それから、キミはカバンを持ってるんじゃないのか?外交官のサクライさんが持ってたらしいんだが」

「ああ。あれならスケアリーの車の中かな」

なんだか話が良く解らなくなってきて、あのカバンなどどうでも良くなっていたので、モオルダアは適当に答えていた。それよりも、モオルダアはどうしてスキヤナーがこの部屋の中にいるのか気になっていた。

「ところで、どうしてあなたがこの部屋にいるんですか?ボクはちゃんと鍵を掛けて出かけたはずですけど」

「さあな。ドアなら来た時から開いてたぞ」

スキヤナーの言うことが本当なら、彼よりも先に誰かがここにやって来て鍵のかかったドアをこじ開けたということだろう。普段から散らかっている部屋なので、その時に部屋を物色したとか、そういうことがおこなわれたかどうかは解らなかったが、ここに来た誰かはあのカバンを探していたという可能性もある。今となってはそれほど重要でなくなったカバンだが、あのカバンの中身を調べて辿り着いたパイパイ丸には何かがあるに違いなかった。

 モオルダアが色々と考えをめぐらせながら盛り上がっているとスキヤナーが立ち上がった。

「とにかくだな、もうこれ以上自由にやられると私も困ってしまうんだがね」

そんなことを言われても、これまでどんな事件も自由に捜査してきたモオルダアにはなんとも言い返せなかった。

「とにかく、明日は必ずパイパイ丸の謎の被爆事件について捜査をするんだぞ。また勝手なことをしても私はこれ以上キミ達をかばうことは出来ないからな」

「ええ、まあ…」

良く解らない感じだったので、モオルダアの返事も良く解らない感じになっていた。とりあえずスキヤナーが帰るとモオルダアはドアのところに行って、壊れた鍵を見ながらため息をついていた。