13. 横須賀の方の大きな病院
目も当てられない、という言葉はこの病院に運び込まれてきたパイパイ丸の乗組員達のためにあるような気がしますわ。スケアリーは病室に入るなりそんな気分になった。横たわる乗組員達は体中に包帯が巻かれていたが、その隙間から見える肌の部分はとても人間のものとは思えない色に赤黒く変色し腫れ上がり、所々皮膚がかなり深いところからめくれ上がっていた。
「一体何があったって言うんですの?」
「さあ、それを調べるのがあなた方の仕事ですけど」
スケアリーを病室まで案内してきた医師が冷静に言っていた。確かにそうですわね、と思っていたスケアリーだったが、乗組員達の状態が予想よりもひどかったために、多少冷静さを失うのは仕方のないことでもあった。それに昨日病院で見たベツイの治療の様子が脳裏によぎったりしたこともあって、スケアリーがいつもの調子でいるのは困難でもあった。
「せっかく来てもらったんですけど、彼らから話を聞くのは無理でしょうな。ここに来た時から意識は無かったですし、どんな原因でこうなったのか解らないので、処置のしようもなくて。問い合わせても機密に関わることだから何も言えないとかで…」
医師がまた冷静にそう言った。今度はスケアリーも納得して頷いていた。これだけの状態なら意識を取り戻すことがあるかさえ解らないし、恐らくこのまま目覚めることはないだろう。
「この症状は体外被曝かしら?」
次第に冷静さを取り戻してきたスケアリーが多少は専門的な質問をした。医師はF.B.L.の捜査官からそのような質問をされるとは思っていなかったので、すこし不意をつかれた感じでスケアリーを見ていた。
「あたくしは無免許医師ですのよ」
医師の様子を察してスケアリーが説明したが無免許ってなんだ?!と思って医師はさらに不意をつかれる感じだった。
「それは、なんていうか…、体内被曝です」
「そんなことって、あり得るのかしら?彼らは数週間ずっと船の上で暮らしていたんですのよ。それに船からは少しも放射能の反応はなかったのでございますし…」
「それを調べるのがあなた方の仕事ですけど」
また医師が冷静に言うのでスケアリーは少しムッとしていたが、さらに医師が話を続けた。
「彼らの被爆量は200から400レントゲンですね」
「まさか、そんな…!それってまるで…」
「広島の原爆に匹敵します」
スケアリーは原爆のマメ知識も医師に言われてしまったので、さらにムッとしていたが、医師はまた先を続けた。
「そんな量の放射能は自然界には存在しませんけどね」
「そうですわよ!ですからあたくし達が捜査をしているんですわ!」
スケアリーは医師と張り合っているうちに自分でも何で怒っているのか解らなくなりそうな感じだったが、自然界に存在しないと聞いて盛り上がるであろうモオルダアがここにいないのが幸いだとも思っていた。彼はここに運び込まれた乗組員達のひどい状態を見るのが恐かったのか、あるいは作者の都合か知らないが、ここには来ていなかった。
モオルダアはここにいて「地球外ならあり得るけどね」と言う代わりに、パイパイ丸に乗っていたにも関わらず健康体だったゴルチエという名の人物の元へと向かっていたのだ。その人物も一度はこの病院に来て診断を受けているのでスケアリーはそのことも聞いてみたのだが、その人物には少しも異常はなかったということだった。
スケアリーは、これではここに来た意味が全くありませんわ!と思っていたのだが、乗組員達が原爆なみの放射能を浴びたにもかかわらず、船には何も見付からず、そして一人だけまったく健康体のまま家に帰った人物がいると言うことが解ったのだからそれで良いのだ。
(なんでこうなったのかというと、私が書く順番を間違えたからなのだが、本物の方を知らなければ解らないので良いのである。)