サンタ君を拉致したのがLittle Mustaphaではないっぽいということになったようですが、さっきから謎の空間にいるLittle Mustaphaのことは書いているので、それは確かなことと思われます。とにかく、偽のブラックホール・スタジオ(偽のLittle Mustaphaの部屋)から出ることになったLittle Mustaphaは部屋の外に足を踏み出しました。
何もない真っ黒な空虚に見えた部屋の外ですが、モモルダア捜査官の立っている周辺には地面があるような雰囲気があります。Little Mustaphaが足を踏み出した場所にも雰囲気だけの地面がありました。すごく不安な感じがありますが、この真っ黒な空間を歩くことは可能なようです。
Little Mustapha-----ここって、何なんですか?
モモルダア-----次元と次元の狭間とでも言いますかね。あなたは私達のことを知っていたみたいですし、この場所にも来たことがあるんじゃないですか?
Little Mustapha-----そう言われると、前も色んな次元につながっている空間にいたことはあったけど。もっと窓みたいなのがいくつもあって、そこから色んな次元を見ることが出来たよ。
モモルダア-----それは多分中心に近い場所だったんじゃないですか。ここはかなり僻地って感じの場所ですからね。本来なら専用の装置や乗り物を使って次元の間を行き来するんで、この空間は一瞬で通り過ぎる事になるのですが、私達は徒歩ですから少し時間がかかりますよ。
Little Mustapha-----少しって言われても。まだ何も見えてこないし、この空間は無限に広がっているように思えるんだけど。
モモルダア-----それは感覚の問題ですよ。まだ数分しか歩いてないですが、さっきの部屋はもうあんなに遠くにあります。
Little Mustapha-----うわ、ホントだ。
モモルダア-----あとは意志を明確にして歩くだけです。この空間は決まった形があるワケではないですからね。意志を持っていればあなたのいた次元は向こうの方からこちらに近づいて来てくれるでしょう。
Little Mustapha-----良く解んないな。でも装置や乗り物で一瞬で移動できるのになんで歩きなの?
モモルダア-----それは次元と次元の間を移動する場合ですよ。あの部屋は次元の狭間に違法に作られた部屋ですからね。歩いて行くしかないんです。コマリタというアンドロイドが突き止めたあの部屋にあるコンピュータのネットワーク上のアドレスを元に場所を突き止めることが出来たんですが。たどり着くのは大変でしたよ。
Little Mustapha-----それはどうも。というか大変だったのはボクのせいじゃないけどね。それはどうでも良いけど、モモルダアさんってボクの世界にいる似てる名前の人とは職業以外は全然似てないですよね。
モモルダア-----そうなんですか。育つ環境によって人はどんな風にでもなりますからね。あなた住んでいる次元で、私のような職業につく人はどちらかというと勇敢で正義感の強い人なんでしょ?
Little Mustapha-----まあ、そうですね。
モモルダア-----それが私の世界では逆なんですよ。私は臆病で怠け者で。そんな性格だから、別の次元の人と接していても逆上して襲いかかるような事もほとんどないってことで、この仕事には向いているんです。
Little Mustapha-----他の人達はそんなに獰猛なんですか?
モモルダア-----ええ。家族同士でも殺し合うような人もいますよ。今私が追っているのはそんなタイプの男です。
Little Mustapha-----大変ですねえ。あ、でもエロ本は読むでしょ?
モモルダア-----ん?!
Little Mustapha-----ボクの世界のモオルダアって人はエロ本が好きみたいですけど。
モモルダア-----あの、私もこんな職業に就いてますがね。時には怒ることだってありますよ。
Little Mustapha-----あ、スイマセン。
モモルダア捜査官がムッとしたということは、多分エロ本は好きということなのですが、怒ると恐ろしいことになるに違いないので、Little Mustaphaはなるべく無駄な話はしないようにすることにしました。
しばらくの間、二人は黙って歩いていました。何も見るものがない空間なのでうつむき加減で歩いていましたが、Little Mustaphaがふと顔を上げると少し離れた場所にボンヤリとした明かりが見えました。その明かりの中を良く見てみると、良く知っている街の景色がありました。
Little Mustapha-----いつの間にあんなものが。あれってボクらの世界への入り口ってこと?
モモルダア-----入り口、あるいは出口。まあ扉と呼べばどっちでもかまわなくなりますが。
Little Mustapha-----そうだけど。通り抜ける時の気分次第で入り口なのか出口なのか、って感じだよね。それはともかく、あの扉の向こうに見えてるのは駅の向こうの商店街からつながる路地だと思うんだけど。あんな風に常に開いてたんじゃ、どんどん人が入ってきそうですよ。
モモルダア-----コッチから見れば、あの扉は常に開いているように見えますが、むこうから見たらあの扉は一瞬だけしか存在しません。一瞬といっても人間には感知できないようなホントに短い時間です。時間の最小限の単位とでも言いますか。
Little Mustapha-----この中と外では時間の感覚が違うってことか。
モモルダア-----実際には、この中には時間が存在しないと言っても良いかも知れませんね。
Little Mustapha-----そうなのか。でもあの部屋を出てからここまで歩いてきた時間というのはどうなるの?
モモルダア-----さあ、どうでしょうね。そんなことは考えたこともなかったですが…。おっと、それどころではなくなって来たようです。
モモルダア捜査官がそういった瞬間でした。静けさに包まれた黒い空間をつんざくような恐ろしい轟音が辺りに響き渡りました。
カズコ-----あんた、どこに行く気?あの部屋にいろって言ってあったでしょうが。
Little Mustapha-----あ、カズコ。というか、その音量はなんとかならないの?
カズコ-----それは仕方ないないのよ。頭脳がコンピュータになったから、音の調節のやり方が解らないのよ。
Little Mustapha-----そんな理由で轟音だったの?!マニュアルとかはないの?あるいは、その地獄のクラウドのサポートに聞いてみるとか。
カズコ-----面倒くさいわね。そのうちやるから、今は我慢しなさい。そんなことよりも、オマエは人の厚意をむげにして。地獄へ落ちるよ。
Little Mustapha-----命が狙われてるって言われたし、あの部屋にいるつもりだったんだけどね。一生あの部屋にいないといけないなんて知らなかったからね。
カズコ-----そりゃ、死ぬまであの部屋に隠れていれば、暗殺者に殺されたことにはならないからね。あの部屋が一番安全なのは誰にでも解るだろう。
Little Mustapha-----その理屈は…。なんとなくいつもの占いの逆バージョンみたいだけど。とにかく、一人でずっとあんなところにはいられないからね。それに、ボクが部屋を出たのに気付くのが遅いような気もするけど。
カズコ-----そうなのよ。あの部屋にあった小さいコンピュータにセンサーをつないで、人が出入りしたら通知されるようにしてあったんだけどさ。なかなか通知が来なかったのよ!
Little Mustapha-----それって、多分スクリプトのIF文が大量すぎて処理に時間がかかってたんだと思うけど。
カズコ-----そういうことは苦手だからどうでも良いわよ。まあ、アンタは好きにすれば良い。私には無限の時間があるからね。アンタが暗殺されてもそのうち代わりが見つかるわよ。
Little Mustapha-----それって、どういうこと?
モモルダア-----あの人の話を真に受けない方が良いですよ。
カズコ-----誰だオマエは?後ろ前人間か?Little Mustaphaも厄介な奴らと手を組んだね。
モモルダア-----さあ、時間がありません。余計な話はしないで行きましょう。
Little Mustapha-----はあ。それじゃ、また。