ドアの外には、その声から想像したのとだいたい同じ感じの、スーツを着た男が立っていました。しかし、その男から発せられる異様な狂気のようなものを感じて、Little Mustaphaは後ずさりました。
顔だけ見れば普通なのです。しかし、その男の着ている服が全て後ろ前が逆なのです。
いや、そうではなくて、首から下が前後逆になっているというのが正しいかも知れません。
Little Mustaphaは以前にイケメンのサンタ君と時空の狭間にある回廊を歩いた時のことを思い出しました。その時は回廊なんて呼び方はしてなかったかも知れませんが、それはどうでもイイのです。その場所から色んな次元にある世界を覗いて見た時に、首から下が逆になっている人達を見たことがあったのです。そして、サンタ君によると彼らは獰猛で、近づくだけでも危険だということだったのです。
外にいた男-----そんなに警戒しないでくれませんかね。私は連合捜査局の者です。まあ、あなたに言っても意味はないかも知れませんが。
Little Mustapha-----あなたのことは知らないですが、あなた達のことは知ってますよ。あなた達は近づいただけでも襲いかかってくる危険な人達だって聞きましたよ。
外にいた男-----そうなんですが、私はこうして次元を越えた事件を解決する仕事をしてるんです。そのための訓練も受けていますから、理由もなく人を襲ったりはしません。
確かにこの男の人は静かに喋るし、急に襲ってくるような感じはありませんでした。しかし、男の人が前なのか後ろなのか解らない感じで一歩踏み出すとLittle Mustaphaはやっぱりちょっとビビって一歩後退しました。本当は恐いはずの人が穏やかだったりするのも逆に恐かったりするのです。
とはいってもLittle Mustaphaがこのまま後ずさっていけば部屋の壁にぶつかってしまいます。扉を開けた時点でどうにもならない状態になっているということなのです。
外にいた男-----私は連合捜査局のモモルダア捜査官です。
Little Mustapha-----モモルダア?!なんだか似た名前の人を知ってるけど。
モモルダア-----そうでしょうね。全ての次元は一つの場所から派生したとも言われていますし。私のような仕事をしていると、自分に似た人間に出会うこともありますよ。
Little Mustapha-----色んな次元を行き来してるってこと?
モモルダア-----そういうことです。自分達の世界の外で活動が出来るのが連合捜査局の捜査官なのです。
Little Mustapha-----それって、あなた達の世界の人が関わってる事件の場合でしょ。だとするとボクは関係ないと思うんだけど。
モモルダア-----直接は関係ないですけど。私の探している人物にたどり着くにはあなたが必要なのです。あなたが去年のクリスマスに余計なことをしなければ、こんなことにはならなかったんですけどね。
Little Mustapha-----なんかそればっかり言われてる気がするけど。でも、ここから出ると暗殺者が襲ってくるかも知れないんだけど。
モモルダア-----だとしても、ここで一生過ごすつもりなんですか?
Little Mustapha-----エッ?!じゃなくて、クリスマスが過ぎたら安全なんじゃないの?
モモルダア-----誰があなたを狙っているのか知りませんが、クリスマスだけ活動する暗殺者なんて聞いたことがありませんね。必要ならいつだってやって来るでしょう。
Little Mustapha-----そんなの聞いてないよ!
モモルダア-----一生ここにいるのか、あるいは殺されるまで元の世界で自由に過ごすのか。
Little Mustapha-----どっちも嫌だけど。というか、なんで殺されること前提になってるんだ?って感じだけど。多分長官の孫娘さんとかが助けてくれるよ。そうに違いない!
モモルダア-----長官?…ああ、管理局のね。あの人達も忙しいから、あなただけにかまっているヒマはないかも知れませんよ。
Little Mustapha-----そうなの?それも去年余計なことをしたから、ってことなの?
モモルダア-----そうじゃないですかね。それよりも、そろそろ行きませんか。イヤと言われても強引に連れて行くことも出来ますけど。
モモルダアはそう言うと、歯を剥き出しにして微笑みました。そこには鋭く尖った歯が並んでいて、彼が人間とは違う獰猛な種族の一員であることが良く解りました。そんなことをされたらLittle Mustaphaは言うことを聞くしかありません。
プレゼントのためだと思って、意を決して外に出ることにしたようです。