そろそろ色んな場所の出来事が一つにつながりそうな雰囲気になってきましたが、後ろ前人の世界のモモルダア捜査官が登場したということで、ここでいつもの世界のモオルダア捜査官の様子も見てみることにしましょう。
エフ・ビー・エルのペケファイル課では先日久々にタヌキ事件を解決したものの、それ以降も特にこれといった事件もなく捜査官達は暇をもてあましていました。モオルダアは先程から録画した夕方のニュース番組・クリスマス特番のあるシーンを何度も繰り返し再生していました。するとそこへスケアリーが入ってきます。
「ちょいと、モオルダア。何なんですの、興味深いことって?」
スケアリーはいつもこの部屋には戻らずに、なるべくならモオルダアと顔を合わせることなく帰宅したいと思っているのであまり機嫌が良いようには見えません。それがクリスマスイブなら尚更、ということです。
「このシーンなんだけどね。腹パンの丸呑みクリスマスのコーナーが始まるところ」
モオルダアはさっきから繰り返し再生している映像をスケアリーに見せました。
「それがどうかしたんですの?」
「注目して欲しいのは腹パンの後ろなんだけど。一見普通の夜のクリスマスの街だけど。…ほら、ここ」
モオルダアはそう言うと映像を一時停止しました。例によってクリスマスマーケットにやって来た腹パンと、その背後には出店の前を行き交う人々が映っています。
「何のことだか解りませんわ」
スケアリーに言われるとモオルダアは映像を少し戻しました。そしてまた一時停止させると、今度は一コマずつ先に進めていきました。
「この出店の前なんだけどね。今は誰もいないでしょ。でもこうやって一コマずつ進めていくと、右から来た人が通り過ぎたところで、それまで誰もいなかったところに人が映ってるんだよ」
確かにモオルダアの言うとおりでしたが、スケアリーは「まあ!」と思ったもののそれを口に出すのはやめておきました。
「確かに突然現れたように見えますけれど、それまで屈んでいてカメラに映っていなかったとか、そんなことだと思いますわよ」
「靴紐を結び直していたとか?」
「そうですわね」
「でも、そのあとのこれはどう説明できるのか?ってことだけどね」
モオルダアはさらにコマ送りで映像を進めていきました。するとあるところで男の姿が見えなくなりました。モオルダアはそこで一コマ進めたり戻したりを繰り返して、男が消える瞬間を何度もスケアリーに見せました。
「どういう事ですの、これ?」
「この人を良く見てよ」
モオルダアはまた映像を少し戻して、男が映っている場所で止めました。
「服が後ろ前に見えるでしょ?でも実際にはそうじゃなくて、体が前後逆になっている後ろ前人なんだ。この男は昔から色んなところに写り込んでたりするんだけど。それがどれも歴史的に重要な瞬間だったり、世界的な影響力のある政治家や軍人なんかの写真だったりするんだよね。一説によると時空を越えて何か重要な事のある場所に現れるということだけど」
「だとしたら、あたくしもその姿を見ているはずですわよ。そんな写真だったら歴史の教科書なんかにも載ってるでございましょ?」
「それは注意して見ていないからか、あるいは意図的に修正されている可能性もあるけど。とにかく、瞬間的に男が現れて、瞬間的に消えてしまった」
「それって、なにか問題なんですの?」
盛り上がってきたと思っていたモオルダアでしたが、スケアリーに言われて困ってしまいました。これは確かに怪現象ではあるのですが、事件ではないのでエフ・ビー・エルが捜査したりする必要はないのです。
「でも、彼が現れたんだし、この後あの場所で大事件が起きる可能性もあるよ。それに拉致監禁事件の現場付近でもあるし」
「それじゃあ、あなたが見張っていてくださいな。…それよりも、その人ってちょっとあなたに似てませんこと?」
「ボクに?…そうかなあ?」
「オホホホホッ…!とにかく、あたくしはこの後ラジオなんかもありますから、行きますわね。本当に事件が起きたりしたら連絡してくださいな。それじゃ」
ラジオってなんだろう?とモオルダアは思ったのですが、スケアリーは早足で部屋から出て行ってしまいました。
モオルダアはやることがなくなったので、クリスマス特番の続きを見ることにしました。