「リヴェンガ」

21. 警察のやり方

 F.B.L.にはF.B.L.の、警察には警察のやり方がある。今回の事件でモオルダアの突拍子もない推理に振り回されそうになるたびに警察ではこの言葉をスローガンのようにしてまともな捜査をしてきた。二人目の被害者が殺された現場でモオルダアの様子を見ていた警官達は誰もF.B.L.を信用していなかったので、どうしても自分達で事件を解決したいと考えていたようだ。

 とはいっても、M刑事はあまり好戦的な性格ではないので、モオルダアやスケアリーがヘンな事を言いだしても得に反発したりはしないし、それが結局のところ事態を好転させることにもなっていた。アイダが今回の事件に関わっている可能性があるとM刑事が警官達に知らせたため、彼らは重点的にアイダの周辺を調べていたのだった。

 元は警官だったこともあって、アイダのことを良く知る警官もたくさんいるし、関係していた人間についてもすぐにわかった。そして以外とあっさりと「決定的なもの」に辿り着いたということである。

 厳密なことをいうと「あっさり」ではなかったのかも知れない。以前から警察の不祥事に関する捜査が警察内部で極秘に行われており、それが実は今回の殺人事件に大いに関わっていたことが解って、一気にいろいろなところが解決したという事でもあったのだ。


 アイダが急に警官をやめたのはその不祥事を知ったからだったようだ。そしてアイダはそのネタを持ってあの出版社へ行った。もっとまともな出版社に行けば後に殺されるような事にはならなかったのかも知れないが、アイダにとってはそこが最大の過ちという事だったに違いない。

 当時は経営がかなり危ういことになっていた出版社は喜んでアイダのネタを買うことにしたのだが、社長はそれでは少し物足りないと思ったようだ。その当時は社員を雇う余裕もなくて社長自らそういったネタを買い取ったりする仕事もしていたのだが、アイダが帰ったあとに彼はちょっと良いことを思いついてしまったのだ。社長は警察署のサキガ刑事に電話をかけた。

「もしもし、サキガさんですか?あなたは悪い人ですね。警察がそんな悪いことをしてはいけませんよ」

「あの、どなたか知りませんが、何の用ですか?」

「捜査で押収するようなポルノビデオには何が映ってるんですか?サキガさん。あなたがこっそり持ち帰ったりしたくなるような内容ですか?そしてそれを裏で売りに出したりしたくなるようなものですか?」

「な、何を言うんですか!?」

「大丈夫ですよ。まだ誰にも言ってませんから。でも、私にこのことを教えてくれた人はまた誰かに言うかも知れませんね。どうしますか?私はあなたを助けることも出来るんですけどね。あなたが私に協力してくれさえすれば」

そんな感じで、社長のアイディアでアイダが殺された通り魔事件がでっち上げられたのだ。そしてアイダの死体写真を雑誌に掲載することができ、なによりも刑事を一人、意のままに操れる状態に出来たのだ。