23. 翌日
これで事件が解決したのかどうかは良く解らなかった。ただこれから姿の見えない犯人によるメッタ刺し事件は起こらないとモオルダアは確信していた。その辺はスケアリーも納得しているようだった。M刑事はこの二人に感謝して良いのかどうか解らない感じだったが、なんとなく何かが解決したような感じになってきたのでF.B.L.に応援を依頼したことは良かったに違いないと思っていた。
モオルダアは静かな住宅街を歩いていた。手には綺麗に包装された箱を持っていた。中身はスーパーで売っている中で一番高いパスタである。パスタをギフト用に包装してくれと頼むモオルダアにスーパーの店員はかなり困惑していたが、融通の利く店員がいたようで、包んでくれた。
モオルダアがパスタを持って行く場所はだいたい検討が付く。予知能力者のカスカニがモオルダアの身に起こる危険をスケアリーに知らせてくれたおかげで、モオルダアは命拾いしている。その事に関してお礼を言いに来たというワケだ。
カスカニの家の前に付くと、以前とは少し雰囲気が変わっていた。家の前には人が数人並んでいた。そして、ドアの横には「よく当たる、加須加仁のパスタ占い」と書いてあった。
なんだこれは?と思いながらモオルダアが呼び鈴を押そうとすると、その少し前にドアが開いた。
「忙しいので、話をしているヒマはないですが、だいたいのことは解っていますから」
ドアから出てきたカスカニが言うと手を出してモオルダアの持ってきたパスタを渡すように催促した。なんだか不意をつかれた感じのモオルダアはそのまま持っていたパスタを渡した。
「それから、お礼なら私にではなくて、私の言うことを信じてくれたあの女性にしてください。それではこれで」
「はあ…」
カスカニが扉を閉めた後もモオルダアはしばらく扉の前で呆然としてしまったが、家の中からキッチンタイマーの音が幽かに聞こえてくると「そういえば、スケアリーにお礼を言ってなかったような気がする」と思って彼女に電話をかけることにした。
その頃、スケアリーは今回の事件に関するレポートをまとめるために机の上に散らばった資料と格闘していた。レポートをまとめると言っても、今回は解らない事だらけですし、一体どうしたらいいのか解りませんわ!ということで、ほとんどお手上げ状態でもあったのだが、それでも解っていることだけでもまとめておかないと、今回はほとんど活躍してないような感じでもあるし。
スケアリーはこじつけでも良いから、今回の一連の事件に科学的な説明が出来ないかと資料をくまなく読み返していた。たまに紙をめくる以外にほとんど物音のしない状態がずっと続いていたが、どこかで聞いたことのある幽かなブーンという音が聞こえてスケアリーは書類から目を離した。
何か嫌な予感がする。窓のない地下室は昼間でも夜でも薄暗い。スケアリーは急に恐ろしくなってきた。そして視線をゆっくりとあのプロジェクターの方へ移した。すると嫌な予感は的中した。
パチッという音と伴にプロジェクターのスイッチがひとりでに入ると、壁際のスクリーンに写真が映った。スケアリーは恐怖で固まったまま視線だけをスクリーンに移した。そこにはアイダが生きていた時の顔写真が映っていた。数秒間その写真が常時された後に、一度画面が真っ暗になると、その後に「ありがとう」「さようなら!」と表示されてからプロジェクターのスイッチが切れた。スケアリーは半分口を開けたまま動けないでいた。
そして、この後にタイミングが良いのか悪いのか、モオルダアからの電話がかかって来てスケアリーは飛び上がるほど驚いてしまうのだが、せっかっくのモオルダアの感謝の気持ちもスケアリーには全く伝わらずに、モオルダアは彼女から怒られるだけになってしまった。どうして怒られているのか解らないモオルダアは、妙な気分でその日を過ごさなければいけなかった。
それから、これは書かなくても良いのだが、ミライガミは今日もドキュメンタリーの素材を集めるためにビデオカメラを持って街を歩き回っていた。今度は「追いつめられたネズミが猫に反撃する瞬間」を撮影しようと思っていたようだが、今のところ「ハトを襲おうとして失敗した野良猫」の映像が一番の収穫のようだ。