「リヴェンガ」

2.スケアリーの車の中

 駐車場にやって来たモオルダアはスケアリーの運転する車の助手席に乗り込んだ。モオルダアがヒザの上で抱えているカバンが気になったスケアリーだが、そのカバンの事をモオルダアに聞いて彼からヘンな説明を聞いているヒマはなさそうなので、そのまま車を走らせて事件現場へと向かった。

 良く晴れた日の昼前の明るさは地下室から出てきた二人には眩しすぎるものだったが、そんな中でもモオルダアの心は次第に曇り始めていた。先程ペケ・ファイル課の部屋で見せられた現場写真の事件と関連がある事件の現場へ向かっているということは、そこにはまたおぞましくむごたらしい状態の遺体が壁につり下げられているのではないだろうか?

 そんな不安にさいなまれている時こそモオルダアの少女的第六感はよく働く。そして、少女的第六感はモオルダアに根本的な問題点を教えてくれた。

「というかさ、どうしてボクらがあんな殺人事件を担当しなきゃいけないんだ?確かに現場の様子は異常だし、あの遺体をつり下げたりしているところは、何か宗教的儀式とかそんなものと関連しているのかも知れないけど。アレはどう考えても普通の殺人事件だよね。恐らく犯人は被害者にそうとうな怨みがあってあんな事をしたんだよ。そんな事件にボクらが首を突っ込む必要はあるのか?」

モオルダアの言うことは確かに正しかった。ペケ・ファイル課は普通の殺人事件は担当しないはずなのだ。しかも、いつもならモオルダアがヘンな事件を見付けてきてスケアリーを引っ張り出すのに、今回はスケアリーがどこからか情報を仕入れてきている。

「そんなことは知っていますわよ。でも猟奇殺人犯による連続殺人事件だとしたらあたくし達…、あたくしのプロファイリングが必要になるかも知れませんし。それに、今回は警察から直接ペケ・ファイル課に依頼があったんですのよ!だいたい、最近はあたくし達が活躍するペースが遅すぎじゃございませんこと?!噂によれば、これはシーズン9まで続くって話ですけれど、このペースでやっていたら、終わる頃にはあたくし達は何歳になっていると思いますの?ですから少しでも活躍の場があるのなら飛びついていかないといけないんですのよ!」

そう言うとスケアリーは私を睨んだのだが、私だってけっこう頑張ってネタを考えてやっておるのですから、そんなに怒らないで欲しいのでだが。それはそうと、モオルダアはスケアリーの今の説明では納得できなかったようだ。

「警察から直接依頼があったって事は、それは今回はかなり異様な感じって事なの?つまり犯人は異星人とか、もしかして被害者が異星人とか、そんな事か?」

「何を言ってるんですの?そういうことはあなたがヘンなテレビ番組とか雑誌で見付けてくる事件ですわよ」

「じゃあ、何が問題なんだ?猟奇殺人だとしても、警察はわざわざペケ・ファイル課に応援の依頼はしてこないと思うけど。エフ・ビー・エルにだって、そういう事の専門家達がいるんでしょ?…良く分かんないけど、多分そういう課があるはずだよ。あれだけ人がいるんだし。それに、これまでの経過からボクらは警察からはそうとう嫌われてるって話だけど」

「嫌われているのはあなただけですわよ!あたくし達に依頼するにはそれなりの理由があるんですの」

「それなりって?」

ここまでくるとスケアリーはあまり話を先に進めたくないような感じになって、少し間をあけながら話し始めた。

「つまり、アレなんですのよ。なんていうかあり得ない事が起きているんだとか、そういうことですわ」

「それじゃあ、なんにもわかんないけど」

「犯人がどうやってそこに侵入して、どうやって出ていったのかどうしても解らないって事ですわ。それに…」

「それに?」

スケアリーはこの先をモオルダアに話すべきか迷ってしまった。これを話せばモオルダアはどこに根拠があるのか解らないようなヘンな話を始めるに違いなかった。しかし、スケアリーが表向きには否定している「乙女の第六感」によると、今回はモオルダアがいた方が良いという気もしていた。本当は全てに科学的説明がついて自分の力で事件は解決すると思いたいのだが。

「さっき見せた事件現場の写真ですけれど。あのサキガという刑事には予知能力があるっていう噂があったのよ」

「予知能力?!」

「そうなんですのよ。あなたは大喜びかも知れませんわね。それに今回の被害者にもそんな噂があったとかいう話ですし。被害者は報道写真家…といっても実際には事件や事故のあった場所で遺体やけが人の写真を撮影する悪趣味な写真家だったそうですけれど。その人は警察よりも早く現場に到着してそういった写真を撮影していたらしいんですのよ。それで、その人には予知能力があるという噂が流れていたということなんですの」

「予知能力かあ…」

スケアリーはこれからモオルダアの予知能力に関する話が始まると思って少しウンザリしていたが、モオルダアはそう言ったきり黙り込んでしまった。

 意外だったスケアリーは、運転中にもかかわらず一度前方から視線を離してモオルダアの方を見たが、モオルダアは呆然として前を見つめているだけだった。モオルダアは恐ろしい遺体があるであろう事件現場に行かなくてはいけない理由を見付けてしまって落ち込んでいたようだ。