「Curse」

14. 味わいのある街の三日目

 スマートフォンでの調べ物に限界を感じて、夕べは早々に寝たモオルダアが少し早めに起きてホテルのロビーで待っていると、疲れ切った表情のスケアリーがやってきた。

「キミ大丈夫?」

あまりの顔色の悪さに心配したモオルダアが聞いたのだが、スケアリーはただ「何がですの?」と答えた。それは質問の意味が理解できないという意味ではなくて、その質問はするな、という意味の「何がですの?」であることはその語気から解りやすくモオルダアに伝わってきた。

「じゃあ、行こうか」

会話になっていなかったが、スケアリーは黙ってうなずいたので二人はホテルを出て駐車場の方へ向かった。

 なぜスケアリーが疲れた表情をしているのかというと、実は彼女がそろそろこの街にも飽きてきたのが原因だった。昨日は張り切って街の名所や名物料理を堪能したスケアリーだったが、もう行く場所がなくなってきたので早いとこ仕事を終わらせて東京に戻ろうと思っていたようだ。

 それで、昨日の夜は張り切って、例の事故にあった社長たちの事を調べていたのだ。それだけならば良かったのだが、ちょっと行き過ぎて余計なところに協力を求めたのがいけなかったようだ。

 彼女が協力を求めたのは、FBLの技術者だった。スケアリーは時給のためにFBLビルディングに入り浸っているあのバイトの技術者なら夜でも協力してくれると思って連絡したのだが、彼女はまだ重要な事に気づいていない。密かにスケアリーに思いを寄せているバイトの技術者はスケアリーに協力を頼まれると大いに張り切ってしまったのである。そして、必要な情報以外にも何か参考になればということで、夜の間中ずっと関連の資料をスケアリーにメールで送ってきていたのである。

 スケアリーはあのバイトの技術者があまりにも熱心なのに驚いていたのだが、メールの数が増えるにつれて自分のしたことを後悔し始めた。自分から協力を求めたのだからやめろと言うわけにも行かず、ましてや送られてくる情報はそれなりに役立ちそうなものが多かったのである。

 最後のメールは午前5時前に届いた。「こっちで調べられるのはこのくらいです。大して役に立てずにすいません」と書かれたメールにスケアリーは「ご苦労様でした」と気のない返事を返して、そのまますぐに寝たのだが数時間の睡眠では昨日の観光の疲れはとれるわけもない。


 モオルダアは昨日スケアリーが気になる記事を見つけたあの新聞の新聞社へ向かうため途中でスケアリーの車を降りた。そして、スケアリーは事故にあった社長たちと関係がありそうな別の偉い人の所へと向かった。

 FBLの技術者によると最近の謎の事故で大怪我をした社長や会長といった偉い人たちは同じ大学を卒業していたり、元の職場が同じだったり、何らかのつながりがあるということだ。どうやってそれを見つけたのかというと、ネットで検索したら偶然見つかった、ということなのだが。どうやら彼らは定期的に集まって食事をしながらお互いに情報を共有しあったり、そんなことをしているようなのだ。そして、ただ集まるだけでは雰囲気が出ないということで、その集まりに「御恵来会」と名付けてさらにホームページまで作っていた。それでFBLの技術者にも簡単に見つけられたのだ。モオルダアも昨日やっていたはずなのだが「ネットで検索」の技術に関してはこの技術者の方がモオルダアより優れているということでもある。それはどうでもいいが。

(ちなみにその会の名前だが偉い人たちなだけに「オエライカイ」と読む、というネタ。)


 スケアリーが向かったのは街から少し離れた高台にある邸宅だった。その偉い人は今では会長なのだが、ほぼ引退していると言っても良い状態で普段はほとんどこの邸宅にいるということだった。スケアリーは邸宅の前に車を止めると、その豪華な佇まいに「すてきなお屋敷ですわ」と思っていたのだが、ふと我に返ると、自分はいったい何をしにここに来たのだろうか?ということを疑問に感じ始めた。ここにいる会長にあって話を聞いて何か解るのだろうか?それよりも、今回の捜査ではいったい何を調べているのかも解らなくなってくる。あの病院にいた包帯でグルグルの社長がああなった原因を探るのにスケアリーはここにくる必要があったのだろうか?

 そんなことを考えて、引き返しても良いかも知れないと思い始めていたスケアリーだったが、タイミング悪く、スケアリーの車が止まっている事に気づいた使用人風の女性が車のところにやって来てしまった。

 女性が探るようにして車の中を見ているのでスケアリーはなるべくにこやかにしながら窓を開けた。

「あたくしFBLのスケアリーと申しますのよ。あの、会長はご在宅かしら?」

「来客があるとは聞いておりませんが…。あなた警察か何かの方ですか?」

スケアリーがFBLの身分証を見せていたので女性はそう思ったようだ。

「FBLは警察とはちょっと違いますのよ。でも調べていることがありまして、会長にうかがったら何か解ると思ったもので。でもお忙しいというのなら、また別の時にしますわよ。特に緊急というわけでは…」

会長から話を聞かずに帰っても良いと思っていたスケアリーだったのだが、彼女が最後まで言う前に少し遠くから声が聞こえてきた。見ると門を入ってかなり行ったところにある家の二階のバルコニーから会長らしき老人が少し身を乗り出してこっちに話しかけているようだった。

「お客さんかね?ちょうど暇だったところだ。誰でも良いからお通ししなさい」

それを聞いて使用人風の女性は会長の方に向かって頷いてからスケアリーの方を見た。スケアリーは使用人風の女性に向かって頷いてから車を降りた。