「Curse」

27. またまた暗闇

「ちょいと、何なんですの!」

スケアリーはにわかに風が吹き荒れ騒々しくなった周辺の様子につられて大きな声で叫んでいた。先ほどまでの静かすぎる恐怖の暗闇とは全く様子が違う。何だか知らないが何かが起きている。スケアリーはそう感じでいた。そして、もう一度扉の格子状の隙間から外の様子をうかがった。先ほどのように強い風は吹いていなかったが、まだ木の枝や下草が風に揺られているのが解った。暗い中で真っ黒い影となっている木々や草が蠢いていると思えば恐ろしい事であったが、今のスケアリーにそこまで考えている余裕はなかった。そこまで考えるまでもなく、もう十分この状況は恐ろしいものでもあったのだ。

「ちょいと、そこに誰かいるんですの?」

スケアリーは先ほど見たような気がする人影のことを思い出して、外に向かって声をかけた。外に人がいるのかいないのか解らなかったが、そこにいるのがモオルダアではないと思っていた。なぜそう思うのかは解らないが、この状況はモオルダアではない何か別の、もっと大きな何かによって作られたものであると思えたのである。

「ちょいと!」

スケアリーはまた外に呼びかけた。そこに誰かがいたとしても、それが誰なのか、或いは何なのかを知るべきなのかどうか解らなかった。もしかすると知ったことによって全てを諦めないといけないような、そんな気分になるかも知れないのだ。しかし、この状況で黙っているのは耐えられなかった。何でも良いから声に出していないと正常な精神状態を保っていられなくなると思っていたようだ。

「誰かいないんですの?!」

スケアリーが再び口を開いた時に、彼女の視線の先が明るく輝きだした。

「ちょいと、何なんですの?」

驚いて後ずさると社の壁に背中をぶつけてスケアリーはパニック寸前だったが、両手のひらを光の方へ向けて光を避けるようにしながらその先にあるもの確認しようとした。しかし、そこに何があるのか全く解らなかった。「大丈夫ですのよ。冷静になるんですのよ!」スケアリーは自分に言い聞かせた。眼で確認できなくても、推測することは出来る。それが出来れば何かしら対処の方法があるに違いない。

 そう考えてスケアリーはそこに光っているものが何かを推測してみた。ここは急な斜面の途中にある社で、その光がある場所には地面がない。ということはあの光が車のヘッドライトなどではないことはすぐに解る。ということは考えられるのはヘリコプターしかない。そう考えると、先ほど吹き荒れた風の説明もつく。「そうですわ!あたくしを救出するためにサーチライトであたくしの事を探しているんですわ!」そう思って喜んだのもつかの間だった。スケアリーはそれがヘリコプターではないことに気づいてしまった。外からは風の音は聞こえてくるが、プロペラの音が全く聞こえないのだ。高い場所を飛んでいる時にも地上からすぐにそれと解るほど大きな音を立てるあのプロペラの音が全く聞こえない。

「あー!あー!どうなっているんですの!あー!ああー!」

スケアリーは大声をだしながら、壁をたたき始めた。とうとう恐怖のためにおかしくなったのかとも思われたが、そうでもなかった。彼女は自分の耳がちゃんと聞こえているのかどうかを確かめていたようだ。そして自分の声も壁を叩く音もちゃんと聞こえている事を確認した。「それじゃあ、いったいアレは何なんですの?!」そう思ったとたんに、スケアリーの脳裏にイヤなものが次々に浮かんできた。UFO、エイリアン。或いは幽霊とかそういうたぐいのもの。スケアリーは背中がゾゾゾゾッとなるのを感じていた。

「とんだことになりましたね」

そして、突然知らない人の声が隣で聞こえる。スケアリーは声の方を振り返ると同時にギャッと悲鳴を上げて腰を抜かして倒れ込んでしまった。

「ちょいと…。な、何なんですの…」

どうやって入って来たのかは解らないが、社の中に男が立っていた。スケアリーには気づく余裕もなかったが、男の着ている服はユ○クロで売っていそうなシャツだった。彼はモオルダアの元へ何度も現れた男に違いなかった。

「いつもはこんなことしないんですけど。どうにもいたたまれなくて」

男はスケアリーを気の毒そうに見つめていた。

「でも、私には何も出来ないんです。こうして成り行きを見守るしかないんです」

スケアリーには男が何を言っているのか全く理解できない。しかし、このままでは自分が殺されるような気がした。そうならないようになんとしても抵抗しないといけないのだが、恐怖と混乱のために体に力が入らない。

「あなた、こんなことをして許されると思っているんですの?あたくしはFBLなんですのよ」

男はそれについては何とも答えなかった。そして、ちょっと間を開けてから話し始めた。

「あなたのパートナーはよく頑張っていますよ。彼なら上手くやれると思ったのですが、どうなるでしょうね。もしも彼が失敗してあなたが死ぬような事になっても、彼を恨んではいけません。あなたが思っているよりも彼はあなたを大切にしているようです」

「何を言っているのか解りませんわ。あなたは誰なんですの?それに、あの変態の性犯罪者のモオルダアがあたくしをここに閉じ込めたんですのよ!」

「そうではありません。悪いのは人間なんです。…ああ。あなたも人間でしたね」

そう言うと男はうつむいて黙ってしまった。スケアリーは「何なんですの?!」と思っていたのだが、何かを言おうとした時にそこに男の姿はなかった。あれは幻だったのだろうか?錯乱状態に陥って幻覚を見ているのだろうか?とスケアリーが思っていると、外の明かりが急激に光を増したように思えた。よく見るとあの光が徐々にこちらに近づいて来るのが見えた。

 スケアリーは声も出せずにゆっくりと近づいて来る光をただ凝視するしかなかった。