「Curse」

22. カントリーパーク(仮)・事務所

 モオルダアというのは常人には理解できない強運の持ち主なのか、それともこれが彼の才能なのか。或いはかれの少女的第六感というやつなのか。何だか解らないが、モオルダアと記者がが今車で向かっている廃墟同然の観光施設には彼らが探している青年がいる。そして、モオルダアが考えたとおり彼はここで呪いの儀式を行ってきたのだった。

 自分の父親の死が御恵来会の独善的な地域活性化計画のせいだと思っている青年にとって、この場所は御恵来会への復讐心を燃えたぎらせるのにうってつけの場所であった。始めは半信半疑で始めた呪いの儀式だったのだが、実際に御恵来会のメンバーが不慮の事故にあったという新聞記事を見た青年は呪いの力、というよりも呪いのアイテムである彫像の力をすっかり信じ切っていたようだ。そして、今日は彼の復讐の最後の仕上げとも言うべき事を成す日でもあった。

 これまでに地元の大型スーパーを作るのに関わってきたメンバー達には痛い目に遭わせることができた。ただし、それだけで復讐は終わるものではない。やはり死には死を持ってあがなってもらわなければいけない、と青年は思っているのである。

 青年は儀式に必要な準備を早い時間に終わらせてしまった。青年が腕時計を確認するとまだ9時ちょっと前だった。子供でも起きている時間は何となく呪いの儀式をやる感じではない。なぜそう思うのかは解らないが、なんというか雰囲気が出ない。そう思って青年はしばらく待つことにした。何しろこれまで彼のしてきたことの全てが今日の呪いの儀式で完結するのだから。そう焦ってことを勧めるわけにはいかないのである。

 とは言っても、山の中の廃墟で特に時間をつぶすためのものも持っていない。しかも、復讐の最後の段階を目の前にしてじっと待っていることなどほとんど不可能でもあった。そこで、青年は自分のしている腕時計の針を進めて時間を二時にした。

 こんなことで良いのか解らないが、どっちにしろこういうことはやっている本人の気分の問題でもあるし、それにこの静かな山の中では午後9時も午前2時も大して変わらないのである。どうやら青年ははやる気持ちを抑えきれずに儀式を始めるようであった。

23. 暗闇

 社に閉じ込められたスケアリーは力なく座り込んで扉の格子状の部分から幽かに入り込んでくる光の方を見つめていた。変態モオルダアに監禁されているという恐怖と、疲労感とで弱りきっている様子だった。閉じ込められた後に扉を叩いた両手はその時に受けた衝撃のためにズキズキと疼いていた。

 先ほどから何度も泣きわめきたい衝動に駆られているのだが、それだけは絶対にしないと決めていた。彼女が外にいると思っている変態モオルダアが望んでいるのはそういう光景に違いないからである。そして、そうなった時に興奮状態になったモオルダアが次に何をするのか?スケアリーはそこを考えるとまた泣きわめきたくなりそうなので、何も考えないようにした。

 するとその時、社のすぐ外で都会では見ることのない大きな鳥がギャーッという鳴き声とともに飛び立っていった。不意に破られた静寂にスケアリーは悲鳴を上げて驚きそうになったが、なんとか息を潜めていた。その代わり社の外まで聞こえそうな程に彼女の心臓は大きく激しく鼓動していた。

 何とかして、この心臓の鼓動を落ち着かせようとスケアリーはヒザ立ちになって扉の隙間から外をのぞき込んだ。

「ちょいと、モオルダア。そこにいるんでございましょう…?」

震える声で暗がりに向かって語りかけたが、外からはなんの反応もなかった。遠くからは波の音が聞こえてくる。暗闇の恐怖と孤独感。

 スケアリーの目からは大粒の涙が流れてきた。「泣いてなんかいませんのよ」スケアリーは心の中で自分に言った。

「泣いてなんかいませんのよ!」

しかし、涙だけは止めどなく彼女の目からあふれてきた。

24. カントリーパーク(仮)・入り口

 あれから1時間程でモオルダアと記者はこの施設にたどり着くことが出来た。ほとんど信号のない道で、そこにスケアリーの高価な車のパワーがものを言ったようで思ったよりも早く着いた。しかし、車を入り口の所に止めてエンジンを切ると何となくイヤな雰囲気が漂ってきた。ヘッドライトを消すと辺りは真っ暗になり、この施設に青年がいるという確信が薄れていったのである。

 モオルダアは懐中電灯を持って車の外に出た。敷地は広く、すでに建てられた事務所のある建物の他にもいくつものバラックがあったりした。このどこかに青年がいるのだろうか?

 辺りには放置されたままの建築資材などが散乱していた。そして、モオルダアは足下にあった塩ビのパイプを拾い上げた。

「それ、どうするんですか?」

手に持ったパイプを眺めているモオルダアに向かって記者が聞いた。

「まあ、武器だけど」

武器と聞いても記者は何のことだか解らなかった。それにFBLの捜査官なら銃とかそういうものを持っているのではないのか?と思って不安にもなっていた。「それにFBLって何なんだ?」こんなところに来て記者は基本的なところを疑問に思った。そして、さらに不安になったのだが、ここまで来たのだから最後まで見届けないわけにはいかない。ただ、自分の身は自分で守ろうとも思ったので、辺りを見回して武器になりそうなものを探した。しかし、見つかったのは塩ビのパイプだけだった。

 モオルダアと記者はそれぞれ塩ビのパイプを手に持ってゆっくりと奥へと向かって行った。

「恐らく、彼は儀式のためにロウソクを使ったりしているはずだ。今使っていてくれたら解りやすいんだが。とにかく、明かりを見つけたら彼かも知れないから注意していてくれ。それから、何かの儀式なら呪文のようなものも唱えるかも知れないな」

モオルダアが言うと記者は黙って頷いた。そして、この静けさの中の緊張感に持っているパイプを強く握りしめていた。ただ、呪いの儀式をやっている人間を捜すのに武器は必要ないかも知れないな、とも思ったりしていたのだが。

 もしも青年がすでに呪いの儀式を終えていたとしたら、と思うとモオルダアは絶望的な気分にもなった。その呪いはかけた瞬間に効力を発揮するものなのだろうか?だとすると、社に置き去りにしたスケアリーの身にはすでに何かが起きているのではないか?もしかすると、彼がスケアリーを社に閉じ込めたこと自体がすでに呪いの一部だとしたら?あの狭い社で身動きの取れないスケアリーを傷つけるのは容易な事である。それが何かの事故であるにしても。たとえば落雷であの周辺が火事になるとか。モオルダアのしたことがそういう呪いの一部だとしたら…。そんなことを思ってモオルダアは自分で考えたことに対して絶叫したくなったのだが、何とかしてそういう悪い考えを頭から振り払った。

 するとその時、記者が何かに反応して「あっ」と声を上げた。

「どうしたんだ?」

「いや、あの窓のところで明かりが動いたような…」

記者は事務所のある建物の二階の方を見て言った。

 二人は小走りで事務所の入り口まで来たが、ドアには鍵がかかっていて開かなかった。無駄だとは解っていたがモオルダアは何度かドアを押したり引いたりしてみた。他のバラックなら可能かも知れないが、ちゃんと完成した建物のドアはそう簡単には破れない。それに、ここで大きな音を立てて中にいる人間に気づかれるのもあまり良くない。二人は別の入り口を探すことにした。