「Curse」

05. その夜

 夜といっても、それほど遅い夜ではないが、あれからモオルダアはホテルの中や外で怪しいところがないか調べたて回っていた。ただしここは小さなホテルではあったが、大手チェーンのビジネスホテルである。それなので、怪しい場所などがあると営業に響くので探したところで見つかるワケもなかった。

 そして、すっかり陽も暮れてあの男や彼を見付ける手がかりを見付けたりするのは困難になってきたというところで、モオルダアはホテルの監視カメラを見れば何か解ると思って、フロントにやって来ていた。泊まりにやってきた客から事件だと言われて、フロントの係はまたまごつくことになってしまった。そういうことを許可するのにはイロイロと面倒なこともあるのだ。しかも、相手がFBLの捜査官という良く解らない立場の人間であることも問題だった。ただ、モオルダアがしつこく頼んでくるし「重大な事件につながる可能性もある」などと言われたので、本来なら許可できないところを特別に許可したのだった。

 モオルダアがあれだけ熱心に見せるように頼んだ監視カメラの映像なので、フロント係もスゴい物が映っているのではないか?と、何となく期待しながら機械を操作したのだが、結局モオルダアのところへやって来た男は映っていなかった。

 そうこうしているうちに、少し遅い夜になってきて、モオルダアはフロントの奥の監視カメラのモニタのある部屋からきまりの悪い感じで出てきたところだった。フロント係は「もう良いですか?」とモオルダアの後ろから聞いた。もし何かあったとしても、彼は何もしてくれなかっただろうが、モオルダアが「ああ、どうもね」と答えると、フロント係はなんとか作り笑いを浮かべて頷くといつもの仕事へと戻っていった。

 またしても「優秀な捜査官」らしからぬ発言で調子が狂っているモオルダアだったが、ちょうどそこへどこかへ出かけていたスケアリーが帰ってきてフロントに鍵を取りに来たところだった。

「あら、モオルダア…」

ちょっと不意を突かれた感じでモオルダアに出くわしたスケアリーだったが、彼に声をかけたものの、それはちょっとした気まずさの混じった声になっていた。モオルダアが振り返ると、スケアリーは持っていた買い物用ビニール袋を少し体の後ろに持っていってこっそり隠そうとしていた。もちろんそんなことで隠れるわけはないが、スケアリーがそうしたかった理由は聞かないでも解った。

 ビニール袋の中にはお菓子と飲み物のペットボトルのようなものが入っていた。恐らくコンビニか何かで買ってきたのだろう。

「あの、あれでございましょう?今日はこれから夜遅くまでイロイロと調べ物がございますし、…お腹が空いてしまったら集中も出来ないじゃございませんこと?オホホホホッ!」

モオルダアは「そんな風に誤魔化さないでも良いのに」とも思ったのだが、何か言うとスケアリーが怒りそうなので「まあね」とだけ答えておいた。何が「まあね」なのか解らないが。ただし、スケアリーはまだ誤魔化しが足りないと思っていたようだった。

「ああ、そうですわ!新聞が必要ですのよ。あなた、一週間分ぐらいの新聞は捨てないで取ってあるんでございましょう?」

スケアリーは先ほどのフロント係に方に聞いた。いきなり聞かれたフロント係は少し驚いていたようだった。

「新聞ですか?えーと、多分。回収の日はまだですから捨ててないと思いますけど…」

「それなら、あとであたくしの部屋に持ってきてくださるかしら?出来ればローカルなニュースの多い新聞が良いですわね」

「ええ?!」

ええ?!ではありませんわ!もしかすると大きな事件につながるかも知れないんですのよ!」

「またですか?!…まあ、わかりました」

スケアリーは「また」ってなんなんですの?と思ったが、とりあえず新聞は持ってくるようなので黙っていた。それからニヤニヤしているモオルダアの方を睨むと、モオルダアはビクッとなって真面目な顔になった。

 しかし、モオルダアもスケアリーの持っているコンビニ袋を見て少しお腹が空いてきたような気がした。ホテルで食事を頼むと高いし、今回はそういう代金が経費として出るかどうかも怪しいところだった。

「ところで、そのコンビニはどこにあったの?」

「あら、あなたもお買い物ですの?それならここを出て右に真っ直ぐ行けばつきますわよ。少し遠いですから気をつけてくださいな。コンビニと言っても営業は11時までって書いてありましたわ」

「ああ、そう。それじゃあ、ちょっと行ってくるよ」

そうして、スケアリーは自分の部屋へ。モオルダアはコンビニを目指して外へ出かけていった。フロント係は二人の歩いて言った方を交互に見ながら「変な人達だ」と思っていた。


 モオルダアはコンビニがあると言われた方へ向かって暗い道を歩いていた。ホテルの近くには何軒かの建物があったのだが、少し歩くとほ街灯以外にはほとんど灯りのない寂しい道になった。真っ暗な海の方からは波の音だけが聞こえてきて、反対側は森になっていて空の手前に真っ黒いモコモコとした木の陰を作っていた。

 こんな道を一人で歩いていてスケアリーは怖くなかったのか?とモオルダアは思ったのだが、よく考えたらスケアリーは自分の車で買い物に行ったに違いなかった。それからモオルダアは以前に、こういう都会から少し離れた街に住んでいる人が「私の住んでいるところには歩いて行ける場所にコンビニがないから都会の人が羨ましい」と言っているのを思い出したりした。

 海沿いの道は先の方まで良く見渡せるのだが、見える範囲にコンビニの灯りはなかった。モオルダアは少し歩いて街灯の下まで来ると腕時計を確認した。11時まではまだ時間があったが、少し急ぎ足でコンビニへと向かった。

 それからかなり歩いて、道がちょっとした岬のような場所で折れ曲がっている場所まで来ると、ようやくモオルダアはその向こうにコンビニがあるのを確認できた。うっすら汗をかくほど歩いてきた甲斐があると思ったモオルダアは、まずコンビニに着いたら何を買おうか?などと考えながらちょっと楽しい気分になっていた。ただのコンビニなのだが、長い距離をあるいたご褒美というか、そんな感じだったので、ただのコンビニでも今のモオルダアにとってはニヤニヤしてしまうものなのである。

 まずは冷えたジュースと、たくさん歩いたから大きめの弁当とか、あるいはカロリー高めのお好み焼きと焼きそばが一緒になったのとかあるかな?あとは普段は絶対買わないけど、こういう時だし漫画とか売ってたら買ってみようか?とか考えていた。そうして盛り上がっているモオルダアだったが、ちょうどその時目指している先に煌々と輝いていたコンビニの看板の灯りがスッと消えてしまった。

 あれ?と思って立ち止まったモオルダアは腕時計を確かめようとしたのだが、暗くてよく見えない。それでポケットから携帯電話を出して時間を確認すると「23:05」と表示されていた。5分間のオマケもあったらしいが、コンビニはあと300メートルほどのところで閉店となったようだ。


 モオルダアは振り返って元来た道を戻ることにした。