「Curse」

28. カントリーパーク(仮)・儀式部屋

 モオルダア達によって儀式を中断させられた青年はロウソクに照らされた薄暗い部屋の中からモオルダアの声がした方を睨み付けた。ドアについた覗き窓には内側から板のようなもので目隠しがされていたのだが、その隙間から呪いの儀式に恍惚となっていた男の何かにとりつかれたような眼の輝きがモオルダアにも見えた。

「誰だ、邪魔をするのは。お前も一緒に地獄に落とされたいか?」

怒りに震えた声が廊下に聞こえてきた。しかしその声は妙にくぐもっていた。部屋の壁が厚いのか、或いは青年が自分でこの壁に補強をしているためだろう。ドアについている窓からも中の様子がほとんど見えないところからすると、中から何かを壁やドアに貼り付けて補強しているように思える。

「良いか、キミのしている事は間違っているぞ。そんなことをしていると地獄に落ちるのはキミなんだぞ」

モオルダアはそう言いながらドアを開けようとしたが、何かに引っかかっているような感じで開かなかった。

「邪魔しようとしても無駄だよ。そうされないためにちゃんと準備してあるんだ。まさか本当に邪魔が入るとは思わなかったけどね。そこを開けられたとしても、その時にはとっくに儀式は終わっているよ。誰だか知らないが、そこにいるヤツにも呪いをかけておくよ」

「そうやってやり過ぎるのは良くないぞ。そんなんじゃ、未知の力を手に入れたものの哀れな最期を迎えるという良くあるホラーとかSFの結末に自分から進んでいるような感じじゃないか」

モオルダアの説得の仕方はマニアックで意味が解らなかった。それよりも、このドアは本当に開けるのが困難なようだ。ドアの内側には外の工事現場から持ってきたと思われる鉄板のようなもので補強されているのかも知れない。

「おい、なんでお前だけがそんなに御恵来会にこだわるんだ?」

そう言ったのは記者だった。彼は中で青年が呪いをかけるとか言ったので少し恐ろしくなって説得に加わるようだった。

「スーパーが出来て店をたたんだのはお前の家だけじゃなかっただろ?他の家はみんな前よりも良くなったって喜んでいたのに…」

「お前は誰だ?」

「覚えてないのか?オレは…」

記者が名前を名乗ろうとした時にモオルダアが記者の口に手を当ててそれを遮った。驚いた記者にモオルダアが小声で説明したところによると、名前を知られると呪いがかけやすくなるという事らしい。本当かどうかは疑わしいが、記者は名前を名乗るのをやめた。

「どうでも良いけど、そんなことをしても誰のためにもならないだろう?それに…それにな」

そろそろ記者には説得のためのネタが尽きてきたようである。

「それにな、キミの憧れていたクラスのマドンナに関する良い情報があるんだが。場合によってはキミに教えないこともないぞ」

これはあまりにもひどい説得の仕方であった。しかしなぜか青年は一瞬だけ動揺したような様子だったのである。もしかするとこれはいけるのか?モオルダアは記者にそのネタで説得を続けるように指示した。そして、彼は記者の持っていた塩ビパイプを受け取ってどこかへ行ってしまった。何か良い方法を思いついたのかも知れないが、パイプを二本も持ってどこへ行くのだろうか?まさか逃げたりはしないだろうか?と記者はちょっと心配でもあった。

「あの子が何だって言うんだ?」

中からはクラスのマドンナの情報が気になる青年の声が聞こえてきた。記者はしかたなく説得を続けるしかなかった。昔から詮索好きだった記者なので、高校時代に中にいる青年がクラスのマドンナに憧れている事は知っていたが、彼女に関する良い情報なんていうのは出任せだったのである。記者というのは事実だけを文字にするのが仕事。その書き方に自分の意見が反映されることはあっても、作り話を書くことは全くの専門外である。どこまでもつのか解らないがとにかくやってみるしかなかった。


 一方、モオルダアは何をしているのであろうか?建物から出た後、モオルダアはハシゴかその代わりになるようなものを探していた。しかし放置された建築現場といってもハシゴがそのまま放置されていることはあまりないようだ。

 一通りあたりを探し回っても何も見つからなかったので、モオルダアは最後の手段に出るしかなかった。これまででもかなり時間を無駄にしているが、記者は上手くやっているだろうか?それを考えるよりも、まずモオルダアは外壁をつたって二階に上れる場所を探した。見たところ屋上から雨水を流すためのパイプぐらいしかなかった。モオルダアはそこに近づいてパイプを両手で掴み左右に動かしてみた。動かしてもパイプはびくともしない。どうやらこのパイプならモオルダアの体重を支えることが出来そうだ。

 モオルダアは持っていた塩ビのパイプをクビの後ろからシャツの中へ差し込んだ。二本のパイプが頭の後ろから忍者の刀のように飛び出していたが、両手を使って壁のパイプを登って行くにはこうするしかない。両手を建物のパイプの裏の方に回して足で壁を押して突っ張らせると上手いこと体を壁の途中に保持させることが出来るのだが、この状態から少しずつ登っていくのが至難の業である。普段から訓練していれば別なのだが、普段のモオルダアの仕事はFBLの部屋で椅子に座って、何か面白い事がないかと両手を頭の後ろにあてて反り返っているだけなのだから無理もない。しかし、ここはなんとしても登らないと、スケアリーの命が危ないかも知れないのだし。さらに、さっき青年は自分たちにも呪いをかけるとか言っていたのである。ちょっとした事で諦めるわけにはいかないのである。


 その時、記者の方はどうなっていたのかというと、例のクラスのマドンナのネタは見事に失敗して、今は記者が何を言おうと部屋の中の青年は聞く耳を持たず、再び呪いの儀式を始めていた。邪魔が入ったことがかえって青年の復讐心に火を付けたのか、いつもよりも感情を高ぶらせて聞いたことのない言語の気持ち悪い呪文を唱えていた。

29. 暗闇?

 光はスケアリーのいる社の方へとゆっくりと近づいて来た。音もなく近づいて来るように思えた光だったが、良く聞くと人のささやくような声が聞こえるような気がした。そんな気がするだけなのか、或いは風の音などが恐怖におののくスケアリーには人の声に聞こえているのかも知れない。

 光の向こうに何があるのか、まぶしくてほとんど確認できなかったのだが、目が慣れてくると次第にその光がどんなものなのか解るような気がした。まぶしい光を見ているのは辛いことでもあったが、そこから目を離せば危機から逃れるチャンスもなくなるような気がして、スケアリーは眼を細めて顔の前に盾のようにして掲げている両手の隙間から光を見ていた。

 恐らく光の向こうには何もない。何かにライトが付いていてその光でスケアリーを照らしているのではなさそうだ。この光自体が何かの存在なのであろう。そして、これは彼女が砂浜で目撃した発光物体に違いない。

 その発光物体がここへ何の目的でやってくるのか。ここにいるスケアリーが目的なのか、或いはこの場所に何かがあるのだろうか?それを知ったところでどうしようもないのだが。しかし、スケアリーが光の中にあるものを見た時にやはり自分が危機に陥っている事を確信したのだった。

 眩しいのをこらえて光の中を見ていたスケアリーはある人物の顔を光の中に見つけたのだった。それは苦痛に顔を歪めた御恵来会の会長の顔だった。

「ちょいと、何なんですの?」

こんな状況で冷静な分析が出来るわけはなかった。そして、そういう時にはいつもモオルダアから聞かされているUFOやエイリアンやオカルトなどの話が頭をよぎってしまう。モオルダアの話によると御恵来会のメンバーは呪いによって事故にあっているとか。とすると、この光の中の御恵来会の会長は何なのだろうか?そう思った時に光の中で苦しんでいた御恵来会の会長の目がスケアリーを見つけたようだった。そしてその目はしばらくスケアリーを睨み付けていた。

「何なんですの…」

それから、スケアリーはモオルダアが「呪いは呪いのアイテムを持っている人のところへ返ってくる」と言っていたことをも思いだした。ということはこの光は?そして、この光の中の顔は?スケアリーはゾッとして後ずさったがすぐに社の壁に背中がぶつかった。それと同時に光がスケアリーの方をめがけて飛んできたのだが、それは社の扉にぶつかって扉がガタンと大きな音を立てた。この社の扉のおかげで光は中に入れないようだ。それでも光は何度も扉にぶつかってきて、次第に扉の揺れる幅が大きくなっていくようだった。光がぶつかるたびにスケアリーは小さな悲鳴を上げていた。このままではそう長くは持ちそうにない。

「ちょいと、モオルダア!何をやっているんですの。何とかするんですのよ、モオルダア!」

恐怖が極限に達してスケアリーは思わず助けを求めて叫んでしまった。