「Curse」

19.

 病院を出たスケアリーはモオルダアに電話をかけた。それがさっきの電話なのだが、機嫌の悪いスケアリーはモオルダアが電話に出るといつものように「なんなんですの?!」と切り出した。いきなり「なんなんですの?!」と言われてもモオルダアには答えようがないのだが、この電話で良い知らせは聞けそうにないということはすぐに解った。

「何か解ったの?」

「解るもなにも、もう事件は解決しましたから、帰るんですのよ。今からあなたを迎えに行きますから、どこにいるか教えてくださらないかしら?」

「何を言ってるんだ?ボクはやっと手がかりを見つけたところで、これからやっと捜査らしい捜査が始められるかも知れないってところなのに」

「捜査って、いったい何の捜査だとおっしゃるの?」

「あの御恵来会のメンバーに呪いをかけていた人物が解りそうなんだよ」

また呪いが出てきてしまった。本来ならスケアリーとの会話でこういう言葉は避けるべきかも知れないのだが、モオルダアも例の彫像の持ち主に近づいている確信があるだけに、つい盛り上がってしまう。

「良いですこと、モオルダア?これは呪いを証明するための捜査ではなくて、あの社長を次々に起こる事故から救うことが目的じゃありませんこと?そして、そんなことは科学的に有り得ないことですし、全てはあの社長の思い込みでございましょう?」

「いや、それはそうかも知れないけど」

「でしたら、この事件はもう解決なんですのよ!」

「そうだけど。なんで解決したなんて言えるんだ?」

「あたくしが、その『呪いの彫像』を社長から買い取ったんですのよ。これでみなさま満足でございましょう?もう誰も怪我などすることはありませんのよ」

モオルダアはこれを聞いてこめかみの辺りからイヤな汗が流れてくるのを感じていた。

「えっ!?キミ、それは…」

「どうでも良いですから、早くあなたの居場所を教えるんですのよ。帰るんですから」

「…大変なことを…」

「なんですの?!あなたどこにいるんですの?」

これは、マズいことになったんじゃないか?と思い、モオルダアは顔面蒼白になっていた。彼の少女的第六感は最悪の事態を彼に想像させていた。もしも、彫像を持った男が次は御恵来会の誰かを殺そうとか、そういう風に思っていたら?そういう呪いの代償として、呪った人間はどういう目に遭うのか?しかも、それは呪いをかけた本人ではなくて、呪いのアイテムの持ち主であるスケアリーの身に起きることなのだ。

 モオルダアは無意識のうちに電話機を持った手を降ろして通話を終了するボタンを押していた。

「これは、マズいことになった…」

そうつぶやくモオルダアの後ろから記者がやって来て不思議そうにモオルダアを見ていた。

「どうしました?」

「ん?!…ああ、いや。ちょっと問題が発生してね。それよりも、早くキミの同級生に会わないと大変な事になりそうなんだが」

「それなんですけどね。彼は今ここに住んでないそうなんですよ。彼のお母さんと話してきたところなんですけど。彼は高校を卒業して就職するとしばらくしてから一人暮らしを始めたらしいんですけどね。なぜか最近になって連絡が取れなくなったとかで」

それはますます怪しい。しかし、今は何をすべきなのか?モオルダアは混乱した頭をなんとか整理しようとしていた。男を見つけたら呪いをかけるのをやめさせる事が出来るのか?しかし、それが間に合わなかった場合はどうなるのか?そして、もしスケアリーの近くにいたとしても、モオルダアに何か出来るのだろうか?

 明確な答えのでる疑問は一つもなかった。こういう時はどうするべきか?それも解らないが、とにかく足の動いた方に進んでみるしかないような気がした。もちろんこれは比喩的な表現ではあるが、モオルダアは漠然とした考えの中で向かうべき場所を見つけて、そこへ向かう事にした。そして一度振り返って記者に言った。

「キミ、彼が一人暮らしをしている家っていうのは解るの?」

「ええ、まあ」

「それじゃあ、そこに行って彼のことを取材してみてくれないか?これは思った以上にスゴい記事になるかも知れないよ」

「マジっすか!?」

また例の反応が記者から返ってきたが、これが出るということは記者も盛り上がっている証拠でもあり都合が良かった。そして、記者は自転車に乗って彼の家へと向かっていった。モオルダアは自転車にまたがると少しの間何かを考えて、何かに納得したのかしないのか解らないが二三度軽く頷いてから自転車をこぎ出した。