20. 家
意外な収穫のあった路地での聞き込みの後でモオルダアとイタオタバタ刑事はまた梅木の家へと入っていった。
「それにしても、梅木が結婚していたなんて。なんで誰も気付かなかったんですかね」
「さあね。それは警察の方ですぐに解るんじゃない?」
「まあ、そうですね」
家の中に入ったが、二人はあまり意味のない話をしている。そして話が途切れるとどうしても考えてしまうことがある。
「それで、あのオバケの話ですけど…。まさか本当に信じているとか?」
イタオタバタが探るようにしてモオルダアに聞いた。彼は性格的にはモオルダアに似ているのかも知れないが、だからといって超常現象などを簡単に信じるような男ではない。そういうふうになるのには、生まれてからどう育てられて、そこからさらにどんな経験をしてきたのか、というところが重要なので性格的な所は関係ないのだ。そんなことはどうでも良いのだが、モオルダアとしてはオバケの話は半々ぐらいで考えていた。
モオルダアとしてもオバケがこの家に取り憑いているなんてことは考えていないのだが、家の構造上の問題で外でした音が家の中から聞こえるような事もありうるし、そうい事をオバケの仕業と思うことはよくある事なのだ。その構造上の問題、というのが隠し部屋だったりしたらそこに今回の事件に関する重要なものがあるのかも知れない。(その前に、この家の構造上のおかしな所は外から見ても明らかなのだが。)そうでなければ、前の住人が恐れていたのはタダのオバケに違いない。そのオバケとは未知なる物への恐怖が心の中に作り出す幻影という事であり、それ以上追求する意味はあまりないものでもある。
「もしもオバケがいたとして、それはここで何をしていたのかね?」
モオルダアが逆に聞いたがイタオタバタ刑事は「さあ…」としか答えられなかった。
「そうなんだよね。大抵のオバケとか幽霊は怪談話の中で聞いている人を怖がらせる以外に存在している意味が無かったりするんだよね。そう考えるとオバケとか幽霊がなんで恐いのか?という事も疑問に思えてくるんだけど。まあ、つまりオバケなんてものはウワサになるような時点でほとんど嘘だって事なんだと思うんだよね」
モオルダアは独自のオバケ論を講じながら部屋のあちこちを見渡していた。今彼らがいるのは梅木の死んでいた部屋である。そして、モオルダアはそこからとなりの部屋に通じる扉を開けた。するとその瞬間、オバケ論で得意満面だったモオルダアが「ダヒャァッ!」という変な悲鳴を上げて、まさに飛び上がって驚いていた。
すぐ後ろにいたイタオタバタ刑事も、これまでのオバケ話でそういう時特有の変な恐怖の入り交じった緊張感の中にいたので、モオルダアの悲鳴を聞いて一瞬パニックになりそうだった。
「な、なんですか!?」
身構えるような体勢になったイタオタバタが聞いた。モオルダアは凍り付いたように動かない。
「ちょっと、モオルダア捜査官?」
後ろから見たら何が起きているのか解らないが、モオルダアは一点を凝視したまま恐怖のあまり固まっていた。
「こ、これ…」
モオルダアはやっとの事で声を出すことが出来た。そして、今にも震えそうな手を上げて部屋の中央の床を指さした。
その指の先にはモオルダアが自分の家に持ち帰ったはずのあの人形があったのだ。
「人形ですね…」
イタオタバタが静かに言った。モオルダアがなぜこんなに驚いているのか彼にも少し解っていた。
「勝手に戻ってきた…。家にあったのに…」
モオルダアは自分で自分のオバケ論を完全否定している感じでビックリして怯えている。オバケ話のようなことが実際に起こるとホントに恐い、ということのようだ。
「モオルダア捜査官。大丈夫ですか?」
恐怖で固まったままのモオルダアのことがちょっと心配になったイタオタバタ刑事が聞いた。大丈夫ですか?と聞かれても見れば解る、という感じなのだが、優秀な捜査官としてはそれではいけないので、モオルダアはそれでやっと我に返った。
「これは何かあるな」
「何かって?」
モオルダアが急に落ち着いてしまったので、思わずイタオタバタ刑事が反応した。
「キミはここに住んでいた梅木の親戚の人の事を調べてくれないか?警察ならそういうことは得意でしょ?」
「ええ、まあそうですけど。でもモオルダア捜査官は?」
「ボクは警察が得意じゃない分野を調べないといけないからね。何か解ったら連絡を頼むよ」
「ええ、解りました」
そう言って二人はこの家から去っていった。今回はスケアリーがいないのでモオルダアが思いついたことは何でも実行出来てしまう、というある意味危険な状態でもある。果たして思いつきだけで行動しているようなモオルダアが真相に近づくことは出来るのだろうか?