「監視」

24. 病院

 スケアリーの検査の結果は良好で彼女は退院という事になったのだが、そこで一騒動が起きていた。ヤダナ刑事が事件の容疑者としてスケアリーの拘留を求めたのである。彼女の入院中も警備と称して警官を病院内に配備していたのだが、ヤダナ刑事としては逃走を防ぐのが目的だったようだ。

 病院にはヤダナ刑事が直接やって来たのだが、そこに居合わせたスケアリーの母親と姉のダネエの激しい抵抗は予期してなかったのかも知れない。


「ちょいと、何なんですの?!どうしてうちの子が容疑者なんですの?」

「そうですわよ。もしも何かの責任があるとしても、逃げたり隠れたりはしないんですのよ」

「そうですわ。あたくしはこの子達にずっとそういう教育をしてきたんですもの。この子が何かしたのなら自分で名乗り出るはずですわ!」

スケアリーのベッドの前で激しい口調で言われたヤダナ刑事だったが、動じた様子を表さないように眉間にしわを寄せながらじっと二人の方を見ていた。

「そうは言ってもですね。彼女が容疑者の一人だってことは変わりないですし。それに本人も言っているように、記憶が欠けている部分があるって事じゃないですか。いくら正直だと言っても記憶がないんじゃ、潔白の証明は出来ませんよ」

「だからって牢屋に入れることはないじゃありませんこと?」

「そうですわよ!それに見てちょうだい。まだ頬にアザがあんなにクッキリ。ホントにきれいなお顔が台無しじゃありませんこと?」

「そうですわ!あんな酷い目にあって、しかも容疑者扱いなんて酷すぎですわ!」

「こうなったのも、警察がだらしないからいけないんですのよ」

「そうですわよ。責任があるとしたら警察ですわ!」

ヤダナ刑事が何か言うとその倍以上二人に返されるような感じだった。しかしヤダナ刑事としても警察として黙って聞いているワケにはいかない。

「奥さんにお嬢さん!あなた方がいくら言ってもねえ、全ての状況がスケアリーさんが容疑者である事を物語っているんですよ。あんまり邪魔すると二人とも公務執行妨害で逮捕しますよ!」

「まあ…?!」

二人とも驚いた様子だったが、ヤダナ刑事とスケアリーの間からはどかなかった。

「ちょいと、二人とも。もうやめてくださらないかしら?」

母と姉があまりにも激しく抵抗していたので、スケアリーはなかなか割ってはいる余裕がなかったようで、ここでやっと話に加わってきた。

「あたくしなら大丈夫ですわよ。あたくしは拘留されるだけですけれど、あなた方が逮捕されたらあたくしが恥ずかしいですもの。これ以上はよしてくださいな」

「ほら、スケアリーさんもそう言ってますから」

「そんなこといってもねえ…」

スケアリーの母はまだ納得いってないようだったが、すでに退院の準備を終えたスケアリーが自らヤダナ刑事の前に進み出た。

「お母様も、お姉様も、あたくしがやってないって解っていらっしゃるんでしょ?ですから、あたくしがすぐ自由になれるのも解っているんじゃないかしら?それに、モオルダアもいますから」

モオルダアと聞くと母と姉は少し不安にもなるのだが、スケアリーの様子からすると大丈夫なようなので渋々引き下がることになった。

 スケアリーも「もしかして自分の味方はモオルダアだけなのかしら?」と思ったら少し不安になったのだが、スキヤナーなんかもいるし、今は彼らやFBLを信じるしかないようだ。