「監視」

05. FBLビルディング

 ペケファイル課の二人はやっぱりFBLビルディングに戻ってきたのだが、ビルに入ってペケファイル課の部屋へ向かって歩いていると、モオルダアが背後からスキヤナーに呼び止められた。モオルダアは例の報告書の提出の時の事を思い出して苦い表情になったのだが、FBLの建物の中で上司に呼び止められて無視して逃げるワケにもいかない。モオルダアは立ち止まって振り向いたが、スケアリーはそのまま部屋の方へ行ってしまった。出来ればスケアリーに一緒にいて欲しい気もしたが、モオルダアはあきらめてスキヤナーの方へと向かった。

 スキヤナーに呼び止められて彼のオフィスに行ったモオルダアだったが、予想に反して報告書を提出しに来た時の態度に関しては何も言われなかった。ただし、スキヤナーがモオルダアに聞いている内容は少なからずそのことが関連しているに違いない。

 スキヤナーはモオルダアが最近疲れているんじゃないか?とか、私生活はどうなのか?とか色々と質問してきた。モオルダアとしては生まれてこの方、晴れ晴れとした気分なんて味わった事は無いんだし、私生活といってもFBLでの仕事も含めて全てが趣味みたいな生活なので特にいつもと変わるところは無いのである。しかし、同じような生活をずっと続けていれば時にはそこに疑問を抱く事もある。人形が勝手に家に帰ってきた、と言われても全く興味を示さなかったように、今のモオルダアはこれまで持っていたワケのわからない信念のようなものを失っているのかも知れない。

 そういったことを上手くスキヤナーに説明できたのか解らないが、スキヤナーは「まあ、あまり無理をしないように」と言ってこの話を終わらせてしまった。そこもモオルダアには何となく納得がいかなかったが、まあ怒られなかっただけマシ、と思ってスキヤナーのオフィスを後にした。


 そのころペケファイル課の部屋では、なぜかやる気になっているスケアリーがペケファイルにある未解決事件から人形に関する事件などを探していた。どうしてこんなにやる気なのか?といえば恐らく梅木のせいであろう。「別に、何を期待してるってワケではありませんのよ」とスケアリーの頭の中ではこんな台詞が何度も繰り返されている。しかし、ファイルを調べている途中で何か変だと思って手を止めた。「これはあたくしらしくありませんわね」と思ったようだった。

 この事件にやる気になっていると言っても、スケアリーはやっぱり超常現象には否定的でないといけないと考えたようだ。もっと理にかなった考え方をしないといけませんわ。

 そこへ浮かない表情のモオルダアが戻ってきた。

「ちょいと、何なんですの?もう少しハツラツと出来ないんですの?今は捜査の途中なんですのよ」

「ああ、そうだね」

モオルダアの返事に全くハツラツとしたものは感じられない。そんなことには慣れているのでスケアリーはいちいちイライラせずに話を続けた。

「あなたはどうお思いになりますの?あの人形について」

「さあ、どうだろうね。もしもあの人形が、他の良くある人形にまつわる怪奇現象のように独りでに動いたとしたら、あの人形の周りには何らかの電気的エネルギーが検出されるはずだよ。そうでなければあの梅木って男が自分で家に持ち帰ったかね。まあ、ボクらが怪奇現象だと思ってそんな事を調べたりしたら、梅木は内心大喜びかも知れないけどね」

「そういうことじゃありませんわよ。あの方だってヒマなワケじゃないんですのよ。それにさっき少し調べてみましたけど、梅木様には特にそうやってFBLに嫌がらせするような理由はありませんのよ。少なくともこれまでにFBLと関わりを持った事はありませんわ」

「それじゃあ、やっぱり人形が勝手に動く心霊現象ってワケだな」

「どうしてそういう風に考えるんですの?」

スケアリーは多少機嫌が悪くなってきたようだが、さらに続けた。

「そうではなくて、アレが誰かのイタズラだったらどうするんですの?もしかするとタダのイタズラじゃなくて、ストーカー事件みたいにもっとエスカレートして梅木様の身に危険が及ぶようなことも考えられますでしょ?だって、どんなに立派な人だってちょっとした間違いから身に覚えのない恨みを買ってしまうとか、そんな事だってあり得ますわ」

モオルダアはスケアリーの話をちゃんと聞いているのか解らないような様子で、さっきスケアリーの出してきたペケファイルの書類をパラパラとめくって読むでもなく読んでいた。

「ふーん。でもそういうことなら、ボクらじゃなくて警察に相談すべきだよね」

そう言った後、モオルダアはペケファイルの書類から今回とは全く関係ないが面白そうな事件を見つけてそれを読み始めてしまった。スケアリーはむくれて「解りましたわ!」と怒った口調で言うと、部屋を出て行ってしまった。