「監視」

22.

 モオルダアは急いで駅に向かった。上手くいけば今日中に色々と調べて帰ってくることが出来るだろう。しかし、向こうに行ってからの捜査が長引けばけっこう面倒な事になる。せめて自動車があれば便利なのだが、電車だと遅くなったら帰ってこられない可能性もあるのだ。

 そんなことを考えて駅の近くまで来たのだが、そこでモオルダアの電話が鳴り出した。かけてきたのはイタオタバタ刑事のようだった。

「もしもしモオルダアさん。今どこですか?」

モオルダアは普通に答えそうになったのだが、咄嗟に上手いことを思いついた。

「あ、失礼ですが、どなた様で?」

「あっ、スイマセン。解りませんでしたか。ボクです。刑事のイタです」

モオルダアはこれを聞いて心の中で「ヤッター…!」と叫んでいた。やっぱりイタオタバタ刑事の名字は「イタ」で間違いなかったようだ。

「いや、良いんだよ。ちょっと電話が遠かったもんでね。これから埼玉の方へ向かうところだが」

「そうなんですか?じゃあ、ちょっと待ってもらえませんかね。ヤダナ刑事にどうしてあなたと一緒にいないんだ?って怒られちゃって」

「あの人は自信たっぷりなくせに常にボクを監視してないと気が済まないようだね」

「まあ、そんな感じですが。あの、出来れば行き先だけでも教えてくれませんかね?」

「大丈夫だよ。ここでキミが来るのを待ってるよ。あの刑事さんの機嫌は損ねたくないからね。下手するとスケアリーが逮捕されかねないし」

「そうですか。ありがとうございます。すぐに向かいますから」

モオルダアはさらに「ヤッター…!」となった。警察の車なら確実に違いない、とそう思ったのだ。いざとなったら回転灯を屋根に乗っけてサイレンを鳴らしながら高速道路をすっ飛ばして行けるとか、そんなふうに思っていた。


 駅でモオルダアが待っているとイタ刑事が慌てた様子でやって来た。モオルダアとしてはそんなに慌てなくても警察の車ならあっという間についてしまう、と思っていた。モオルダアはイタ刑事の方へ向かって歩いて行くが、イタ刑事はそのまま急ぎ足で駅の方へと向かってくる。

「スイマセン、待たせちゃいましたね」

イタ刑事は言ったが、モオルダアはそれほど気にしていない。

「いや、良いんだよ。じゃあ、行こうか」

モオルダアはイタ刑事は来た方向へ歩いて行こうとしたが、後ろからイタ刑事に呼び止められた。

「行くって。埼玉に行くんじゃないんですか?」

「そうだけど。車で来たんでしょ?」

「えっ?!でも駅にいるって言うから、てっきり電車で行くんだと思って…」

どうやら、物事はそう上手くいくものではないようである。

 こんなことなら先に出発していれば良かった、と思いながらモオルダアはイタ刑事と共に電車に乗って埼玉の方へ向かった。


 モオルダアは電車の中でイタ刑事から警察が調べた情報を聞き出していた。梅木の親戚というのは普段はほとんど梅木とは交流が無かったようで、あの家を出てからはほとんど会っていない、ということだった。事件のことを聞いたその親戚は、ただ驚くばかりで信じられないといった様子だったという。梅木はどんな相手に対しても巧妙にその本性を隠すことに成功していた、という事かも知れない。

 そして、梅木の家族からの話も聞けたようだ。家族といっても父親は早くに亡くなり今は母親だけになっているようだ。その母親によると、梅木が一度女性と同棲していた事は確かで、今向かっている人形会社の家の娘であることもほぼ確実なようだった。しかし、梅木の母は梅木の事件を知ってからショックのためか、元から悪かった心臓の具合が悪くなり現在は入院中ということである。梅木のような異常な犯罪者を生み出すのは幼少期の家庭環境なども要因にあげられるのだが、梅木の犯した罪とその死を聞かされて彼女がどう思っていたのか、病床に横たわる梅木の母親に聞くほどの図々しさを持った者はいなかったようだ。

 写真に写っていたまだ見つかっていない6人目の被害者についてはまだ特に解ったことはないようだ。これから行く場所に手がかりがあるのだろうか?